聖なる女性の物語。
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
ここ数週間。
毎晩のように、陽明はるあきは
桜、日向、早苗、愛子、つね子の部屋の外で
ハーモニカを吹いていた。
理由は単純だった。
音があると、
彼女たちは眠れる。
小さく、
揺れない旋律。
誰かを起こさないための音。
その夜も同じだった。
最後の音を吐き出し、
はるあきは静かに息を吸った。
——終わり。
彼は踵を返し、
自分の部屋へ戻ろうとした。
だが。
……ない。
廊下の先にあるはずの扉が、
消えていた。
代わりに、
そこには無数の枕が積み重なっていた。
白。
灰色。
使い古された布の匂い。
道を塞ぐように、
不自然なほど高く。
「……なんだ、これ」
はるあきは、
声を潜めて呟いた。
押しても動かない。
引いても崩れない。
だから彼は、
潜った。
枕の隙間へ、
身体を滑り込ませる。
布が顔に触れ、
視界が狭くなり、
音が遠ざかる。
やがて——
光。
抜けた先は、
小さな映画館だった。
家の中とは思えない空間。
古い椅子。
スクリーン。
静かな空気。
すでに、
映画は始まっていた。
スクリーンに映るのは、
一人の女性。
アーリヤ・シャヒーン。
シリア出身。
豊かな胸を持つ女性。
彼女の幼少期は、
常に爆音と共にあった。
崩れる家。
泣く人々。
血の色。
だから彼女は、
願った。
——平和を。
ある日。
彼女の前に現れたのは、
神だった。
金色のミアキス。
全能の存在。
名を、ゼンタイ。
ゼンタイは言った。
「お前の心を見た」
「だから、力を与えよう」
「無数の多元宇宙に、
平和をもたらす力を」
ただし、と。
「試練を越えよ」
ゼンタイは、
大きく口を開いた。
アーリヤは、
一切の迷いなく、
その中へ入った。
闇。
そして——
迷宮。
果ての見えない通路。
重なり合う壁。
出口のない世界。
彼女は、
歩き続ける。
信じるものを、
手放さずに。
そこで、
画面が暗転した。
文字。
《つづく》
瞬間。
はるあきは、
目を覚ました。
自分の部屋。
天井。
布団。
すべて、
元通りだった。
「……夢?」
そう呟いてから、
彼は言葉を止めた。
胸の奥に、
妙な重さが残っていた。
まるで、
誰かの物語が、
自分の中に
置いていかれたような感覚。
はるあきは、
天井を見つめたまま、
動かなかった。
夢だったのか。
それとも——
答えは、
まだ、
なかった。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




