若いオオカミは威張ったライオンを好まない
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
煙はまだ消えていない。
焦げた金属の匂いと、血の気配が空気に残っていた。
白衣の男――アン・グエンは、銃口の列を前にして、静かに口を開いた。
「……ジョン・グレイ将軍」
その名を聞いた瞬間、
前に立つ男の眼が、わずかに細まる。
「動くな、グエン」
低く、威圧的な声。
「一歩でも動けば、撃つ」
陽明はるあきは、その光景を見つめながら、歯を噛みしめた。
そして、問う。
「……ドクター・グエン」
声は掠れていた。
「ウォー・メタルも、
ファミン・ブラックも、
デスXも、
プレーグ・ファントムも――」
一拍。
「本当に、盗んだんですか」
グエンは、否定もしなかった。
ただ、ゆっくりと話し始めた。
「……私は、ベトナム移民の子です」
兵士たちの間に、沈黙が落ちる。
「幼いころから、知っていました。
二つの文明が出会い、
一方が圧倒的に強ければ――」
グエンは、夜空を見上げる。
「それは、時間の問題だということを」
彼は科学者になった。
アメリカ軍に所属し、研究を続けた。
「十五年前。
私は、人工ワームホールの研究中に――」
一瞬、言葉が止まる。
「事故で、別の宇宙へ吸い込まれました」
そこにあったのは、
異形の存在。
人類を遥かに超える技術と軍事力。
「彼らは、見ていました。
この宇宙を。
地球を」
帰還したあと、
誰にも話せなかった。
「誰も、信じないだろう。
……私自身ですら、信じ切れなかった」
だから。
「私は、軍の極秘兵器計画に参加しました」
ウォー・メタル。
ファミン・ブラック。
デスX。
プレーグ・ファントム。
「しかし、私は分かっていました。
軍は、必ずそれらを“他の国を攻撃のため”に使う」
グエンは、若者たちを見た。
「だから、私は彼らに“選ばせた”。。。彼らの力にふさわしい主人たち。」
「人を守るために使える者を」
語り終えても、
グレイ将軍の表情は変わらなかった。
彼は、一歩前に出る。
「話は終わりだ、グエン」
その瞬間。
陽明はるあきが、前に出た。
足取りは、ふらついている。
体は、まだ傷だらけだ。
「……やめろ」
グレイの視線が、彼を射抜く。
「どけ、ガキ。
これはあなたには関係のないことだ。」
陽明は、退かなかった。
「……あんたみたいな人間が、嫌いなんだ」
声は低い。
「肩書きと権力だけで、
正しさを決める人間が」
グレイの顔が、歪む。
「どけ。
さもなくば、殺す」
陽明は、真っ直ぐに見返した。
「……あんたに、俺は殺せない」
「殺せるさ」
即答だった。
陽明は、笑った。
「じゃあ、やってみろよ。
本気で。
なあ、ジョン」
空気が凍る。
「戦うとは言っていない」
グレイは言う。
「どかなければ、殺すと言っている」
陽明は、一歩も引かない。
「……本気で思ってるのか?」
声が、震えない。
「俺が、何もしないまま、
殺されると思ってるのか?」
そのとき。
「……やめなさい」
グエンが、二人の間に声を投げた。
「将軍」
静かな声。
「あなたの良心が、私を逮捕しろと言うなら、
そうしてください」
一拍。
「だが、後悔します」
グレイの眉が動く。
「……どういう意味だ」
「今回の侵略は、始まりにすぎません」
グエンの声は、揺れない。
「まだ、無数のパラレルワールド。
無数の侵略者がある」
「私を捕まえれば、
数百万、数千万の命が失われる」
「それでも構わないなら、
どうぞ」
兵士たちが、互いを見る。
彼らは、知っていた。
――この男は、嘘をついていない。
長い沈黙。
やがて、グレイは銃を下ろした。
「……この危機が終わるまでだ」
短く告げる。
「その間、逮捕は保留にする」
そう言い残し、
彼は部隊とともに去っていった。
夜が、少しだけ静かになる。
誰も、すぐには動けなかった。
だが、全員が理解していた。
この男がいなければ、
世界は、もう終わっていたということを。
物語は、
国家よりも、
軍よりも、
もっと大きなものへ――
確実に、踏み込んでいた。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




