3-21 となりのサキュバス~JKでもオトナの小説で世界を取りたいです!~
「貴様のエロ小説で世界を取るのじゃ。エロいことなら何でも教えてやろう」
目の前に突然現れたメジェド様風ハロウィンおばけの正体はサキュバスだった!?
才能がないのにオトナの小説を書きたい謎趣味JKと、
何故か罰ゲームで目の前に送りこまれた身長150cm弱の天然サキュバス。
そんな二人が手を取りあえば、オトナの扉は開かれる――!?
ふたりで、熱く、燃えあがれ――!
時には喧嘩し、時には反発し、時には罵倒しあいながら。
一緒に高みを目指す二人の、GL(Go to Limit)ストーリー。
5時のチャイムが鳴った。
他に誰もいないいつものPCルーム。この高校の中、こんなに居心地のいい場所って他にない。書いてる小説の中身を絶対に誰にも見せられないから。
もうすぐ下校時刻。あとちょっとだけ頑張ろう。って首をぐるぐるすると。
何これ。シーツ?
足元でもぞもぞしている。なんでこんなところに。
じっと観察していると突然、ばちーん! ばちーん! と凄い音を立てて穴が二つ開く。
は?
固まって見ている私の前で、穴あきシーツはもこーっと盛り上がって叫びだす。
「ええじゃろこれで。完成じゃ!」
「ええええええ?」
突然の謎展開に驚いて思わず叫ぶ。
「はあぁぁぁぁ?」
私の声を聞いて驚いたのか、シーツも叫ぶ。
そして、
「ちょっと待て、お、お、お」
ぐにゃぐにゃ動いたシーツの波がこっちに押し寄せて。その中から女の子がぽーんと飛び出す。
明るい茶髪、もしくは暗めの金髪。校則で許されてるぎりぎりだ。
認識できたのはそのくらい。ぶつかった私を巻き込んで転んだから。
支えが欲しかったのか、私に全力で抱きついてくる。
胸は小さいけど身体全体がやわらかい。そして身長がすっごく低い。150cmも無いくらい。
なるほどこれがラッキースケベ。
いや違うでしょ。私、レズっ気なんて全くないよ。
そんなことが、後ろ向きに倒れていく数秒の間に走馬灯のように。
確かにうちの学校のブレザーだけど、こんな子いたっけ。
起き上がった女の子は私を見て、自分の服装を見て、
「あ、やば」
慌ててシーツに隠れる。
そしてもぞもぞ動いて、さっき開けた2つの穴をこっちに向けて。
「どうだーおばけだーこわいじゃろー」
と意味不明な供述をしており。
「……はぁ」
「こわいじゃろー。犯されたくなかったら言うことを聞けー」
変質者だこれ。
シーツが大きすぎて、お化けというよりあんこ八つ橋みたいな見た目になってる。生地に穴が開いてるからアウトレットだよ。
「がおー犯すぞがおー」
ずるずるシーツを引きずってこっちに向かってくる八つ橋。その穴は目のつもり? 引きずられ過ぎてどんどん下のほうへ追いやられてる。横へふらふら揺れ始めて、
「いや、そのまま歩いたら危ないと――あっ」
「ちょっと待て、まずい、わ、わ、わ」
シーツの端を踏んでまた転ぶ。
「ぐえ」
そして八つ橋の潰れた声。今度は絶対に巻き込まれないぞ。思いっきり避けるとまたシーツが脱げてぽーんと中身が姿を現す。
立ったまま見下ろす私をじーっと見上げて、
「…………犯すぞがおー」
茶色い目を若干涙目にして、両手を前に出してがおー。
「冷静に見たら多分それ、私が言ったほうが説得力あるね」
この子は身長が低いから、見る人が見たら危ない気がする。変な気分になりそうで。嗜虐心をそそるって言うらしい。調べてたらその言葉を最近知った。
とぼとぼ歩いてまたシーツをかぶろうとするその子に声をかける。
「ハロウィンのお化けになりたいの?」
私を睨みながらこくりと頷く。
「身長に合ってないんだよそれ。どんな大男用を買ったの……身長に合わせて切らないと。はさみ貸して」
「うりゃ」
シーツの中からはさみを取り出して、その子は刃先をこちらに向けてくる。
「いや危ないって」
「覚えておくのじゃ。これで私はお前を犯すことができる」
「はいはい」
「貴様は儂に逆らうことなど出来ぬ。自分の立場を理解することじゃ」
「分かったからはさみ渡して」
めんどくさいので奪い取る。
八つ橋の中身は所在なさげに手をわしわしさせながら、
「分かったなら可愛く作れ」
「はいはい」
二つの穴は目の位置か。
この布はいくら何でも長すぎる。情熱価格な店で適当に安い奴を買ってきたなこの子。せめて膝下まで出るくらいにすれば可愛いのに。
はさみでじょきじょき切って、
「はい、出来た」
「おー、これは、動きやすいぞ」
くるくる回ってぴょんぴょん飛ぶお化け。わーすごい、動きやすい、って。
背の順で並んだら間違いなく一番前になる子は、ハロウィンお化けというよりメジェド様に見える。
そんなことよりも。私は早く小説を書きたいんだ。
勢いに押されてしまったけれど、こういうあざと系女子? なんか濃いキャラを作ってる子って苦手。
「じゃあこんなところで。私、忙しいんだよね」
PCに向き直った私の後ろから、
「よし、貴様、気に入ったぞ」
しつこく声をかけてくるメジェド様。
「気に入った。貴様に、決めた!」
「あの……本当に、時間ないんだよ……」
時間がないというより、明らかな危険人物だから関わりたくない。
だけど空気を読まないメジェド様は口を開くと、
――ハロウィンは悪魔の祭典。選ばれし者よ、よく儂に辿りついた。
――儂との契約に相応しい者のみこの姿を見ることが出来る。
何か自分語りが始まった……!
「まだ準備中だったよね……?だからノーカウントにしようよ。私は忙しくて都合が」
「いや、儂が選んだのじゃ。間違いない」
――儂も見習いの身とは言え悪魔。それなりの見返りを与えることも出来ようぞ。
――どんな願い事も叶えてやろう(出来る範囲にしてよ)
――だから、儂と契約するのじゃ。
まるで魔法少女の勧誘だけど自信がなさそう。小声で何かごにょごにょ言ってたし。
っていうか。
「あなた、悪魔だったの?」
「おー伝え忘れておった。儂は悪魔じゃ。ニンゲンはみんな大好きサキュバスじゃ」
「悪魔がお化けの変装……」
「ちょっと待てなぜ笑う。悪魔とお化けは別概念じゃぞ。変装して何が悪い」
「世界観がシュールすぎて……ぶふ」
「笑うな! 指令だったのだ! ミッションだ! 罰ゲームだ! 儂だってこんなことやりたいわけじゃない! もっと大人の姿で! ニンゲンを誘惑して!」
罰ゲームってあなた。ひとしきり笑いをこらえた後で私は最大のツッコミどころに気づく。
「あなた、サキュバスって言ったよね」
「言ったぞ。みんな大好きサキュバスじゃ」
胸を張って謎のドヤ顔。
「じゃあやっぱり私じゃ役に立てないよ」
「なぜ」
「だって私、女だし」
サキュバスは男の人を相手にする悪魔。女子は全く関係ない。だからもういいでしょ。
「は?」
ベタなヤンキーみたいな驚き方をするメジェド様。
「は? 貴様、女なのか」
「見れば分かるでしょそんなの……制服、スカートじゃんほら」
「しかし。最近は男の娘なる存在もいるから油断してはならぬと学校で」
「情報が偏ってる!!」
ツッコミどころが多すぎて思わず叫ぶ。
「むむむ……高校生の性別は性欲量で判別しろと教わったのだが……高そうなら男、そうでもない奴は無視」
「……んなっ!?」
何それ。私から性欲出まくりってことなの?
「貴様もそうだが、この禍々しいアーティファクトじゃな。この四角から、それはもうぷんぷんと」
メジェド様はPCを指さす。
次の瞬間には椅子に座って、思いっきり見つめている。
「あ、それはあまり見ないほうが……」
【そそり立つ転生チート棒は天まで届く。
そんなの無理だよって分かっているけれど、私はまるで朝露みたいに。
「大丈夫。僕のスキルは『最弱』。きっと実は最強なんだ」
混乱した私はパスタを茹でる。やれやれ。
(ここは後で頑張る)そして私はアヘ顔ダブルピース。】
「――何じゃこりゃ」
「ひいぃぃぃ見ないでぇぇぇぇ」
パソコン用の回転いすをぐるーっと回して後ろを向かせる。
モニターとメジェド様の間に割って入って、身体全体で画面を隠す。
ぜぇはぁ。汗が出る。こんな恥ずかしいやつを見られたら私は生きていけない。
椅子の上で正座して、くるーっと自分だけ回転してこっちへ向き直る。
「エロ小説なのに! エロを書こうって気概が見えぬ! そもそも転生チート棒って何じゃ! 何の話じゃ! 貴様の目に映る棒の! 魅力を語れよ!」
(自称)悪魔に熱く語られた。
「仕方ないでしょ! そんな棒なんて見たことないんだから!」
はぁ。色々と情けなくて溜め息しか出ない。別にいいでしょそんなの。
「あぁそういうことか。そのファンタジーな性欲、ようやく得心したぞ」
熱く語っていたメジェド様はにやりと笑って距離をつめてきて。
「世界を取るぞ」
耳元で囁く。息があたってくすぐったい。
いや何この展開。
「貴様のエロ小説で世界を取るのじゃ。エロいことなら何でも教えてやろう」
「何でもいいけどエロエロ言わないで」
「儂に課せられた罰ゲームは、『ハロウィンコスで100人切り』。ぶっちゃけめんどくさい。貴様が世界を取れば余裕で一気に搾り取れる。だろう」
「それ、ハロウィンコスの意味を間違えてるのでは……?」
お化けでどうやって切るつもりだったの。
私の声を無視してメジェド様は言う。
「期限は2か月後、それまでに貴様をエロの化身にするぞ」
「なんかイヤな名前」
「世界を取るんだろう?」
世界はもちろん取る。そんなの当然だ。
だけどこんなメジェド様じみた子に私のオトナ小説が分かるわけはない。私の本気を見せて泣かせてやる。私の小説をバカにした罪は重いのだ。
「よし、じゃあまずは——」
既にノリノリのメジェド様。それはそうと、そのシーツもう脱いで良くない?
何故か同じ椅子に座ろうとするから狭くて仕方ない。耳もとで騒ぐダメ出しがうるさい。
「儂と行くのじゃ、果てしないエロの高みへ」
そんなのいらない。私のオトナ文章で泣いちゃえ。後悔してももう遅いのだ。