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25.漢、姫のおかげで勢いづく(いつもだけど)

 部屋へ入るなり、ユリウスは大声で呼んだ。


「プリムラ、無事か。ツバキもキキョウも!」


 はい、とベッドの下から返事がある。もそもそベッドカバーを押し退け、黄金の髪が現れる。

 急いで近づいたユリウスは手を伸ばす。するりと小柄な身体を引き摺り出した。窮屈だっただろう、と声をかければ元気に返ってくる。


「なんかわくわくしてしまいました。誰にも知られないよう隠れているなんて、わたくし興奮してしまいます」


 言葉通りに上気しているプリムラの姿は帝都の屋敷で過ごす新緑の色とした普段着だ。家事をこなす際と同じ動きやすい格好で決めている。


「はっはっは、王女はお転婆だなぁ〜」


 聞いて返す方もご機嫌である。


「ユリウス様、私たちは追います」


 ツバキはキキョウに目配せして開け放たれた窓へ身体を向ける。


「待て、ツバキ。おまえ、その腕、ケガしているじゃないか」


 ユリウスに見咎められ却って嬉しいツバキである。気合を入れて微笑んだ。


「これくらい大した傷ではありません。それより逃しては大元とする者へ報告を上げるかもしれません。それはそれで面倒になりますわ」

「まぁ、バレたらバレたでその時はその時だ。それより身体を第一に考えてくれ。間違っても深追いはするなよ」


 気遣いが闘志を奮い立たせる例となった。

 絶対に逃しません、とツバキは颯爽と窓の外へ出ていく。

 待って、とキキョウが慌てて追いかけていったくらいだ。


「本当はユリウスさまも一緒に追いかけたいのではありませんか」


 プリムラはベッドに投げ出された(かつら)を拾い上げながら訊く。


「狙いが王女と判明したからな。一人になどさせられん。誰かが来るまで俺がいよう、ああいるとも」


 自身へ言い聞かせる口振りが、実の気持ちを表している。プリムラが気づかないわけがない。やはりユリウスには考え赴くまま行動するよう意見しかけた。 


「ごめん、ユリウス。なんか遅くなっちゃって」


 声と共に天井から降りてくる。忍び装束の少年ハットリであった。


「なにを言う。気づかれないよう帯同するだけでなく、俺の連絡係まで大変だっただろう。ニンジャがいなければ今回の作戦行動は難しかったからな。感謝してるぞ」

「ユリウスは甘すぎるよ。何かしらの襲撃は予測されていたのに、寸前まで気づけないボクは情けない。おかげツバキ(ねえ)とキキョウが当座を凌がなければならなくなったんだ。怒られるほうが当然なんだよ」


 しょげるハットリの頭に、ぽんっと手が乗せられた。手のひらは厚みがあり包み込みそうなほど大きい。


「ハットリ、我々がいる場所は敵に地の利があることを忘れるな。思わず足をすくわれたら、互いどう助け合うかへ、考えを向けるんだ」


 わかった、と快活な返事にユリウスは笑顔で種明かしをする。俺が親父殿に言われたことだがな。

 それをプリムラが眩しそうに見つめている。 


「姫は無事かのぉ」


 巨軀を揺らしてアルフォンスが部屋へ飛び込んできた。心配していた人物の無事を視認すれば返事を待たず、ほっと息を吐いていた。


「アル、ここは任せていいか。俺は王女を狙った暗殺者(アサシン)を追いたい」

「相了解だ。もうすぐヨシツネも来るだろうから、安心していくが好いのぉ」


 どんっとアルフォンスが胸を叩いて見せてくる。

 頼んだぞ、としてユリウスはプリムラへ顔を向ける。王女、と呼んだ。

 機先を制してプリムラが言う。


「打ち合わせ通り、行動へ移ります。ヨシツネ様が合流次第、直ちに。ですからユリウスさま……」


 少し声を詰まらせている。


 どうした? とユリウスは心配そうに尋ねる。


「……どうかご無事で……帰ってきてください。約束ですよ」


 うおおおぉおー、と叫びながら窓を飛び越えていく人物が誰か語るまでもない。

 鈍く輝く欠けた月へ飛んでいくかのように、ユリウスはベランダの手すりを踏み台にして宙を舞う。

 あまりに無茶な跳躍であれば、ハットリは怪我しないかヒヤリとした。が、何か問題が起きた様子は全くない。姿が消えれば、そういえばユリウスだったな、と誰ともなしに呟いていたくらいである。


「おぅ、悪りぃ悪りぃ、ちょっと遅れた。しっかし、いきなり天井から声がしたもんだから、姉ちゃんが怯えて大変だったよ」


 そう言いながら入ってきたヨシツネの着衣は乱れている。何をしていたか、知らせに行ったハットリだからわかっている。少々呆れ気味に返した。


「まったくぅ、ユリウスから今晩の危険性を聞いていたはずだろ。なのに女を連れ込むなんて、なに考えてんだかわかんないよ」

「なんだ、天井の声、おまえか。少年には刺激的すぎたもん見せちまったかな」

「こちとらニンジャやってんだよ。男女のまぐわいくらいで反応しないよ」


 そっかそっか、とヨシツネがする軽いノリの返事は、ハットリに一抹の不安は過ぎさせる。けれども予定の変更するほどではない。


「姫様、四天(してん)の二人も揃ったので、ボクは行きます」


 開け放たれた窓へ身体を向けるハットリへ、「頼みます」とする一言だ。

 急いで追いかけていけば、石材造りとする建物の上を駆け渡っていく。

 夜の皇都を屋根伝いに疾走する。

 先行していたユリウスを初めとする三人へ、直に追いつく。


 そして絶望を抱く目に遭った。

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