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17.漢、父上の話しを聞く(興味深く)

 メギスティア大陸の内陸部に小さな公国が三つ連なっている。

 アドリア、ビュザン、そしてトラークー。三国とも南境をロマニア帝国とし、北境はアドリアだけがドラゴ部族で、残り二国はグネルス皇国とする。南北から脅威にさらされる位置にあるが、ここしばらくは帝国と親密を結ぶが、三国の共通点である。第十三騎兵団が常に派兵されるところからも、その証左が見取れるだろう。


「アドリアだけではないでしょうか。自国でやっていこうとする意志があるのは」


 ユリウス一向を出迎えたトラークー公国騎兵団騎士団長の意見だ。名をアラン・テイラーと言う。二十半ばにして兵団の長まで昇り詰めたくらいだから優秀に違いない。現に幾度か肩を並べて戦っているから、ユリウス以下その実力は認めるところである。人柄も信用できれば、こうして胸襟を開く会話もできる。


 元々グネルス皇国の入国前にトラークーの公都で一泊する予定であった。

 ユリウスは昵懇の間柄にあるアランを宿で摂る夕食へ誘う。

 イザークにすれば招待国と隣接する国の中枢に身を置く人物である。何か聞き出せれば、とする期待がある。ユリウスにはよく誘ったと誉めたい。

 一人先行して行かれた際は何か仕出かさないか懸念したが、どうやら杞憂だったようだ。先に待っていたユリウスがアランと何やら楽しそうにしゃべっている。周囲に控えているトラークーの騎兵が見せる顔つきから、ずいぶん二人が楽しげに会話をしていたようだと当てがつく。少なくとも公務に関係する内容ではなさそうだ。


 むしろ私的な酒宴のほうが真面目な会話になることはよくある。


 他国の要人のため、特別に用意された部屋だ。気兼ねなく話しに興じられる。飲みすぎない程度の酒量も口を滑らかにする。

 食事が終わりに近づいた頃、アラン自らが三公国の情勢を切り出した。


 重々しくも遠慮せずユリウスは訊き返した。


「やはり我ら援兵に対する支払い費用が大変なのか」

「ええ、これ以上の経済浮上は望めないなか、援兵に対する請求額が先皇帝時代に比べ倍に迫ろうとしています。我が公主は帝国の属領もしくは併呑も厭わず、を表明しています。政務本営も異議なしとしていますが……」

「帝国が返事を保留しているのだろう」


 グラス片手のアランが軽く目を見開く。


「ユリウス様にはおわかりになっていられましたか」

「ああ。だから我ら騎兵団が援兵へきた際は、その土地で宿泊や飲食をするようにしている。俺たちが来たことで支払いが生じる国へ金を落とすよう心がけている」

「そこまで考えていたとは、素晴らしいですね」

「いやこれは親父殿……俺の義父であるディディエ卿からの教えでな。騎兵などは社会を消耗させるだけの存在だから、せめて金を回す役目を担え、と教わったんだ」


 感動は直接の聞き手であるアランだけではない。

 四天(してん)の四人にももたらしていた。

 ちなみにアランと違って内容にではない。ユリウスが珍しく義父の良い話しをした。親子を感じされる逸話に、ディディエ卿の近くで長かったアルフォンスなど目を潤ませたほどだ。


 まさかここからおかしな方向へ走るなど四人は思いも寄らない。


 だがな! とユリウスが自ら好印象をひっくり返し始める。


「親父殿は公的な部分に関しては尊敬してもいいんだが、私人としてはクズだ。なんと言ってもだな、女関係がいかん。俺が初めて城の広間へ上がった時、ここは後宮かと思わされたからな」 

「そこまで刺激的でしたか」

「少なくと十三にならない少年を招き入れていい雰囲気ではなかった」


 言い切ったユリウスは口をへの字に結んだ。


 そうなんだ、とベルの確認に、アルフォンスは苦笑で返した。ユリウスの言う通り、口にするには憚られる光景であった。 


「わたくしも父の好色ぶりには呆れておりました」


 ここで突然、プリムラが上げてきた。憤りが見えれば会話へ参戦は必至だ。


 ユリウスにすれば婚約者が自らする打ち明け話しである。そうなのか! と声は興味の高さに比例して高い。


 ぎゅっとプリムラは両手を握り締めた。


「あれだけ側妃を抱えていながら、まだ市井へ赴いて新たな女性と交遊を結ぶのですよ。後宮にいる方々のギスギスぶりは、娘として悲しいというより腹が立ちます」

「王女の親父殿……じゃなかった父上殿は、そんなに恋人を作ってどうするのだ」


 ユリウスさま、と呼ぶプリムラは目つきは険しい。ぎっと睨みつけるようだ。

 おおぅ、とユリウスが初めて見る姿にたじろいでいる。


「恋人などという表現など当てはまりません。ただの遊びです、世継ぎを求めてなんて白々しい理由をつけて毎夜、遊ぶ女欲しさに出歩いているだけです」


 口調が普段にない熱さを点している。

 ふむふむとユリウスはうなずきつつだ。


「そうか、王女の父上だから王様だったな。そうか、そうだった」


 なんだかズッコケそうになった四天の四人である。

 肝心のプリムラは感情が激っているせいかお構いなく話し続ける。


「ユリウスさまの仰りたいことはわかります。立場上、確かに女性を求める理屈は正しいでしょう。しかしです、ハナナは他から王を迎えることを厭いません。正家の血筋にこだわってません。現に国王である、わたくしの父は養子ですから」


 へぇー、と思わず発したヨシツネの驚きが入り混じる声は、他の三人にも共通する心境であった。


 ユリウスといえば両腕を組んで考え込む姿勢を取った。


「王女は第八なのだろう。ならば王族とする子供はたくさんいるのか?」 

「はい、知る限りで二十名は超えています。男子はいませんけど」


 それだけ一方の性別へ偏るなんて、ある意味凄いと聞く者たちは思う。


「ならば王女が怒るわけが、俺でもなんとか理解できそうだ。そうか、王女の父上は世継ぎを作ることに励むより、娘たちが連れてくる世継ぎ候補とする連中を見抜く力を養うべきだしな」


 四天の四人に微笑が浮かぶ。たまに誰も思い寄らない考えを披露する。変に核心へ迫ったりする。やはりユリウスは自分らが仰ぐ人物である。


 それに誰より話した婚約者が感激していた。プリムラはそっと胸に手を当てている。


「……わたくし、ホントに貴方(あなた)のもとへ来て良かった」


 どれほどの想いか、聞いた者に考えさせる響きであった。

 プリムラ……、とユリウスが感慨を込めて呼ぶ。

 きっとこれを皮切りに真面目な話しへ突入しそうだ。四天の、特にイザークなどは国家間における重要事につながる話題へ持っていきたかった。


 だが今晩の客人がおずおず口を開く。


「私ごときが生意気を言うようですが、男だけに非を求めるのはいかがでしょう」


 滞在国の騎士団長アランが挙げた意見は反駁を生んだ。

 反応した者はプリムラだけでなく、侍女のツバキまで口を挟んできた。

 会話はまだまだ同じ話題で突き進むようだ。


 イザークは、面白くなってきたと思いつつも、使命感は強い。

 弾みかけた期待を抑えきれば、今度は舌打ちしたくなる。

 晩餐に招いた客人はまさしく余計な発言をしてくれた。


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