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10.漢、親子の対面(いつもの会話)

 ユリウスの気持ちとしては、いちおうだ。

 前回の呼び出しに比べれば、だいぶマシではある。

 いきなり内容も知らせず、迎えに行け、などの指示はない。行ったら戦闘になったということもない。文句を言ったら、少しは確認しようとする考えは浮かばなかったのか、と返されたら二の句が告げられないなんてな展開でもない。


 今回は粛々と城の広間を進む。


 呼び出した城主が奥の席に座っている。なんの不自然もない。招かれただけのようだ。

 でもだからと言って、ユリウスが顔を合わせれば大人しくしていられるはずもなかった。


「バカ親父殿、いきなり俺たちを呼びだすなど、いったい何を企んでいる」


 義父であり城主のディディエ卿は、困ったもんだとばかりに片手で禿頭を撫でた。


「まったく、おまえはー。それだから無礼を働く真似を仕出かすんだよ。プリムラ王女に失礼を働いたこと、忘れてないだろうな」


 うっと息を詰まらせたユリウスは横へ向く。あの時はすまなかった、と隣りのプリムラへ頭を下げる。誠実な態度であったが、今ここでする行動ではない。


 いえいえ、とプリムラはにこやかに返す。むしろ周囲の様子を気にしているふうだ。


 ちなみに四天(してん)の四人はユリウスの後塵にて片膝を付き控えていた。

 楽しそうなアルフォンスに、ベルとヨシツネは呆れながらもハラハラといった具合だ。イザークはユリウスがどんなことを起こすのか、わくわくしている気持ちを悟られないため鉄面皮を懸命に装っている。


「おい、バカ息子よ。要件に入るが、いいか」


 ちゃんと断りを入れたディディエ卿である。

 ちゃんと応えるかどうかは、また別問題とするユリウスである。ここでもそう簡単にはいかない。


「断っておくが、親父殿。まだ王女から婚約破棄は言い渡されていないからな」

「我が息子よ、戦果を上げること夥しいと聞いているが、まったく女に関してはダメなダメダメだな」

「バカ親父殿が女性の扱いに長けすぎなんだ。もういい歳のくせに、まだ所々に愛人宅を持っているだろ。俺は知っているぞ」

「いいだろ、独身なんだし。それにな、我が息子と違って、こちとら女性を悦ばす術はよーく心得てんだよ」

「本人がそう思っているだけで、女性たちにすれば大したことはないかもな」


 別に憎まれ口を叩いたつもりはない。ユリウスは真面目にそう考えている。言われた方はそれがわかるから癪に障る。

 なんだとぉー、とディディエ卿が身を乗り出した。


 腰掛ける城主の脇に佇む廷臣はマクシスと言う。歳の頃合いはディディエ卿と同じくらいで、こちらは髪が抜けるでなく白へ変貌している。相応の風格もあれば、たしなめ役を担う。


「閣下。愛息との対面で弾む気持ちは察しますが、そろそろ喜劇は閉じていただかないと話しが一向に進みません」

「誰が喜劇なんぞ演じている、誰が」

「しかしながら閣下。皆のご様子をご覧なさい」


 広間に控えている大勢の誰もが笑顔だった。

 なんとか堪えている者は二人だけだ。

 立場を慮ってか、プリムラはぷるぷる我慢で震えている。

 大笑いは内心でする訓練を積んだイザークは、ここで成果を発揮していた。独り気難しい面皮を保っている。


 うぐぐっと唸るディディエ卿は指摘の正しさを認めざる得ない。


「バカ息子のせいだぞ」


 代わりに八つ当たりをかましていた。

 なんだとぉー、とユリウスは義父そっくりの返事とくる。

 ユリウスさま、とこれ以上は笑いのツボを押されたくないプリムラが呼びかけなければ、再び親子の喜劇は始まっていたかもしれない。

 婚約者には素直に従うユリウスである。


「ともかく用はなんだ。いい加減、話せ。バカ親父殿」


 波風を立たせたいとしか思えない、上から目線の言い回しである。

 おかげで用件の報せは怒鳴りに近かった。


「わかった、バカ息子に教えてやろう。今日の用件を」


 初老に近いディディエ卿も大人気ない。

 お互いどっこいどっこいであれば、血がつながっていないにも関わらずだ。

 よく似た親子だと見守る者全てが思う。

 言葉で戦っている当人同士以外は、まことに微笑ましいとする空気で包まれていた。

 用件が伝えられるまでは。


 椅子からかくしゃくたる身体を立ち上げたディディエ卿は、ビシッと対面者へ指差す。


「ユリウス、おまえ。帝国騎士をやめろ」


 当事者であるユリウスに、その婚約者であるプリムラだけではない。

 広間に集う者たち全員が呆気となった。


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