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52.漢、見抜いている(意外とわからないものらしい)

 四天(してん)の四人が複雑な顔をする一方であった。


 そうか、とユリウスがいきなり挙げてくる。


「王女が待つ帝都の屋敷へ最初に戻る前のいくさか」

「ユリウスさまが傷だらけで帰ってきた、あの日ですね」


 懐かしそうにユリウスだけでなくプリムラも口にした。


 ちなみに配下の四人は誰がツッコむか、牽制し合う状態だ。


 ユリウスは憶えていそうな返答していたが、やはりまるきり忘れていたようではないか。誰かが言うのは時間の問題だった。


 実際の指摘は会話していた相手が担う。


「なんだ、すっかり忘れていたんだ。あれくらいの勝利はユリウス・ラスボーンにすれば憶えるに足らぬ程度だったわけか」


 グレイが過大評価ゆえの誤解をかましている。

 四天のうち、特にベルなどはどちらを正すべきか悩んでしまう。おかげで出遅れてしまい、曲解しているグレイに先を譲ってしまった。


「大陸屈指の強さから闘神とまで呼ばれる人物の下に、戦略家の素養を秘めたプリムラ・カヴィル王女が加わる。これは野望を持つ権勢者なら阻止したいだろうね」

「今ひとつ何を言っているか、俺にはわからんぞ」


 実直なユリウスの態度は当初なら警戒をもたらしただろう。為人を知っていくなかでグレイには好感をもって捉えられるようになっていた。思わず笑みが口許を閃く。


「ハナナ王国第八王女はカナン皇王にすれば是非とするほどの才女らしいよ。それが選りによって闘神へ降嫁だなんて脅威以外のなにものでもないだろうね」


 当人たちより配下の四人のほうが事の重大さを理解した。

 王女としては少し変わっている。それくらいの認識で済ませていた。

 ようやくフラれ続けの我らの指揮官に春が来た、と浮かれてしまったのは自分達のほうだったかもしれない。

 などと殊勝に考えている傍で、ユリウスの意識は他の連中にない。


「凄いな、王女は。やっぱり俺にはもったいないくらいの女性だったのか」

「わたくしはそんな大層な者ではありません。ただユリウスさまと共にあれれば良い、それだけです」


 王女……とユリウスが呼べば、ユリウスさま……とプリムラが応じれば、二人は正面から身を寄せる。ひしと抱き合った。

 本人たちが確かめ合う姿は、傍からすれば能天気としか言いようがない。


 四天の四人はそれぞれの表情をもって微妙としている。

 闖入者の大虎に乗るエルフにしても、もうこれ以上は居ても無駄とする感じだ。それじゃ、行かせてもらうよ、と退場を告げる。本当にもう何もないのかとする確認もあっただろう。


「なに、行ってしまうのか」


 抱き合っていた身体を離したユリウスが見せる、本気とわかる残念がり方だ。

 可笑しそうなグレイはまたがる大虎の向きを変える。横を見せる姿勢を取った。


「これだけ殺したヤツがいつまでも同じ陣営に滞在するなんて、いくら騎兵でも気持ちいいものではないはずだよ」

「なんだ、ずいぶん気を使ってくれるものだな。やはり仲良くできそうではないか」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけれどさ、舞踏会も襲っているしなぁ。それに元々亜人蔑視の風潮が強い帝国へエルフが加わったら、ベルももちろんだけれども第十三騎兵団の立場をさらに危うくしてしまうだろう」


 ふむ、とうなずいたユリウスは右手の大剣を地面へ突き立てる。

 攻撃する意志は無し、と相手に示す行為だった。


「ではまた会おう」

「そうだね。こっちも闘神たちと話していると、いろいろ気づかされることが多いよ。いくら用心しているつもりでも、甘言に乗せられた部分もあるんだって反省している」

「なに、余裕がない時はふらっとしてしまうのは、皆同じだ。俺なんか婚約破棄されるたびに、慌てて次の婚約者を求めてしまっていたからな。今となれば、なぜあそこまで焦る必要があったか、わからん。それに気づけたのは王女のおかげだ」


 言い切ったユリウスは眩しそうに目を細める。とても尊いとする事象を間近にしたからだ。

 それはまさしく花が開くようなプリムラの笑みだった。


 ざぁと響かせて大粒な雨が、いきなり降ってきた。


 急いでユリウスたちは近くの屋根だけ天幕へ避難した。

 屋根の下から覗けば、驟雨で煙る森の向こうへ大虎に乗るエルフと、それに従う虎二匹の姿が目に映る。

 またね、とする声も耳に残して。


「しかしまた最後のほうはずいぶん可愛らしい感じになったもんですね」


 頭や服の雨粒を手で払いながらヨシツネは誰ともなしに言う。

 自分よりプリムラが一刻でも早く拭くようタオルを渡しているユリウスが答えた。


「気を許してくれた証拠だと思うぞ。それにあれが彼女の本当かもしれん」


 四人は一度固まってから、態度は二手に分かれていく。


 天幕の屋根を雨粒が激しく鳴らすなか、驚きのヨシツネがきっかけとなる。


「ええと、団長。今、彼女って言いました?」

「それってベルの友達のことか」

「そうです。グレイとか言う、今しがたまでそこにいたエルフのことです」


 ここでイザークが割り込んできた。


「なんだ、もしかしてヨシツネは女性だとわからなかったのか」

「すっかりイザークの両刀使いの噂は嘘じゃなかったんだと思ったくらいですねぇ〜」

「あのな、自分はバイセクシャルではないぞ。女性だとわかっていたから、チャーミングだとほめたのだが……まさか気持ち悪いなどと言われるとはなぁ……」


 ショックがぶり返している様子だ。なまじっかモテていたせいで、ダメージが大きいようである。


「でもユリウスさまは凄いですね。わたくしも気づきませんでした」


 プリムラは軽く自分を拭いたタオルをユリウスへ当てる。

 幸せそのものの顔で拭いてもらうユリウスの傍で、「吾輩も気づけなんだ」と答えるアルフォンスが真っ先に髭を拭いている。身体や顔に髪は後らしい。

 知り合いの性別で盛り上がるなか、ベルは耳を拭いながら提案する。


「グレイはかなり良い情報をくれたと思うんだ。敵の事情もさることながら、僕らにとって有益なる事実をね。どうだろう、グネルスの皇王が欲したという才媛にもこれからの作戦会議に加わってもらう、というのは」


 異存など上がるはずもなかった。


 ただそれから立案された作戦によって、四天のうち二人は大変な目に遭うこととなる。夜を通しての()が付く特訓を強いられてしまうのであった。

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