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47.漢、そして配下の四人(姫を前で)

 天幕を出たら、プリムラは驚いた。

 四天(してん)と呼ばれる第十三騎兵団の重要な立場にある四将。それが揃って

 片膝を付いて頭を垂れている。恭順の意を取っていた。


「どうしたのですか?」


 横に立つユリウスが、小さなプリムラを見降ろす。


「みんなが王女の勇戦に感謝しているんだ。もちろん、俺もだ!」

 と、自分もとする部分はひときわ大きく言っていた。はっはっは、と豪快に笑いだしてくる。


「団長ぉ〜、なにが可笑しいのか、オレとしてはさっぱりなんですがね」


 殊勝な体勢を崩さないながらヨシツネは、疑問より呆れが勝る顔を上げてくる。

 なんだと! とユリウスは驚きながら、なぜか胸を張ってくる。 

 

「嬉しいからに決まっているではないか。王女の素晴らしさがまた知れて、俺は感謝感激だ」

「つまり惚れ直したということでいいんですかね」

「バ、ばか。そういった話しは王女の前でするなと言っただろ」


 汗を飛ばさんばかりにユリウスは慌てふためいている。じっと見上げてくるようなプリムラの視線を感じれば焦るあまりだろう。うおおおぉお! と戦場では勇ましくも現在では謎とする雄叫びを上げていた。


「おい、ユリウス……騎士団長。そろそろ我らの本題に入ってもいいだろうか」


 痺れを切らしたイザークはやや無礼さを混じえ訴えてくる。

 おお、そうだったな、とユリウスのほうも、いかんとする態度だ。


 改めてといった感じで四天は揃って頭を下げ、意を伝える代表はイザークが務めた。


「現在こうして我ら騎兵団が無事にあるのは、プリムラ王女。貴女の勇敢なる行動のおかげです。騎兵団の中核にある者として感謝はいくら述べても足りません」 

「いえ、わたくしこそ出すぎた真似をしたのではないかと心落ち着けられません。ユリウスさまが暗殺者からの救助へ向かったために、無敵とする第十三騎兵団に敗走の汚点をつけてしまいましたから」


 がっくり、プリムラが肩を落とす。ただ不思議とする表情を浮かべるのも、すぐだった。

 一斉に四天が微笑を湛えてくるのを認めたからだ。

 ユリウスもまた四人に倣う顔を見せてくる。敗走の件は気にすることないぞ、と言ってもくる。

 婚約者だから気を遣ってではないことを、イザークが知らせてくる。


「王女様。我が第十三騎兵団の敗走は当初からの予定通りなのです」


 えっ? となったプリムラは横を見上げた。

 はっはっは、とユリウスが笑う。


「王女のおかげだ。人間と亜人だ。いきなり交渉に応じてもらえなさそうだし、今回はダメとしたほうが次回の布石になると思ってな。どうせ龍人相手の戦は俺たちの騎兵団以外が当たることなさそうだしな」


 プリムラはユリウスへ向けていた視線を四天へ移動した。

 何を訊きたがっているか、言葉にされなくても四人は了解した。


「僕はハーフエルフだからね。亜人に対する理解がない上官だったら、その指揮下には入れないよ」


 尖り耳とするエルフの身体的特徴を引き継いでいるベルが微笑をもって応えてくる。


「オレは貧民窟出なんだわ。けっこう帝都の連中に酷い目されてさ。人間同士だからだなんて条件はぜんぜん当てならないこと、よく知ってるつもりだ」


 生い立ちを告白するヨシツネは普段の装いを作っているように感じられる。


吾輩(わがはい)はラスボーン辺境伯に長く手伝っていたもんだから、ハナナ王国についてはけっこう知っているしのぉ」


 顎髭を撫でるアルフォンスに、ヨシツネは驚いたように向く。


「え、なに。そんなに交流があったのかよ」

「あのラスボーン辺境伯は先代皇帝の懐刀とされるほどの策略家だぞ。額面通りの行動など、ほとんどしないお方じゃのぉ」


 うんうん、と義理の息子であるユリウスが大きくうなずいている。あれはロクでもないぞ、と悪態まで吐いている。


 残るイザークはやや複雑そうな面持ちで述べる。


「私は特別に亜人との関係性に腐心する気はない。差別するしない以前に関心がない。そんな私でもプリムラ王女の龍人(りゅうじん)に対する案には少々驚きはした……いや、違うな」


 どっちなんだよー、とヨシツネが明るく問い詰めてくる。

 眉間に皺を寄せてイザークは続きを口にした。


「結局、ユリウスと出会っていなかったら帝国の方針を鵜呑みするまま亜人は相容れぬものとして片付けていただろう。でも今はベルとも知り合っているし、龍人とは刃を重ねたおかげで認識できたこともある」

「どのようにですか」


 静かにプリムラが問いかける。


「人種は違うが、同じ人だ。油断してはならない相手であるが、気のいいヤツもいる」


 大きくはないがしっかりした声でもたらすイザークの答えだった。


 ユリウスさま、とプリムラは呼ぶ声は少し震えているようだ。

 うんうん、とユリウスはうなずきながらである。


「俺たちは王女の提案に基づいて作戦を練っていこうと思っている。それだけのことをしてくれたんだ。どうか遠慮せずにこれからも意見をしてくれないか」


 はい、と快活な返事が上がった。

 一先ずだが、肝心な結論はついた。

 戦いはこれからなのだ。


「では、王女。さっそくなんだが、今から裏切った傭兵連中から聞き取りをするつもりだ。それに……」


 大変です! と若い騎兵が駆け込んできた。


 どうした、とユリウスが問う。 


 虎が出ました、と至急を要する報告が返ってきた。

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