13.漢、結婚式当日(その参)
誓いのキスが終わった。
白い祭司服の年配男性が、ユリウスとプリムラが夫婦となった旨を告げる。参列者の厳粛だった面持ちに微笑みが浮かぶ。
礼拝堂の椅子に並ぶ顔は親類だけである。
プリムラ側はリュド王と幾人もの側妃たち、その間に生まれた娘たちだ。けっこう数がおり、それだけで席が埋まった。
ユリウス側はディディエ卿の他は翼人であった。シスイとイズンにレオナ他、翼人の里の者たち。こちらは少ない。それでも目立ったほうは、こちらだ。不覚にもディディエ卿が泣き出したからである。
「おまえのようなバカが、良かったわい」
さほど大きな声ではなかったが、ユリウスの耳はぴくり動く。地獄耳という特技が発揮された。
「なんだとぉー、バカ親父……」
喰ってかかるものの、シスイが近くに座っている。しょうもないバカ親父を昔に可愛がってもらったイズンが世話している。レオナは声にしていないものの爆笑しているふうだ。親類とする人たちの姿に、ぎりで熱い感情を押さえた。
問題が勃発しそうになったが、何事もなく私事のほうは終わった。
これからが本番だった。
場所を移しての戴冠式が待っている。忙しいことこの上なくても、当人たちが望んだスケジュールである。これから国の上に立つ覚悟を示す姿勢として、周囲には好意的に受け止められた。
リュド王は戴冠式においてなくてならない人物だ。結婚式が終わればそそくさと先に出ていく。プリムラにとって義母や異母妹も付いて出ていく。
「儂らも待つか」
ディディエ卿の促しに、共の翼人たちもうなずく。花嫁の親族を追うように、花婿側も席を立ち出ていった。
バタンと最後に出ていくレオナの閉め方が少々乱暴だった。
おかげで音が止めば、しんっと堂内は静まり返った感を強くする。
ユリウスとプリムラの夫婦、そして白い祭司服の年配男性だけになった。
沈黙は司式を担った人物が破った。
「王の戴冠式を控えた婚礼など初めてです。貴重な体験をさせていただきました」
準備が出来るまでここで待機となれば、雑談は自然のように思われた。
そっとユリウスがプリムラを抱き寄せる。熱い二人とする姿だ。
惚気混じりの返答が予想された。が、まるで戦場にいるかのように低く鋭い声が出てきた。
「準備が終わるまで、そう時間はかからない。急いだほうがいいぞ」
白い祭司服の年配男性は微笑んだ。人の良さを貼り付けたような表情だった。
「なにを、と訊き返したところですが、さすが闘神。気配で察知しましたか」
言葉が終わらないうちに横の扉が開いた。音は立っていない。
あっという間だった。
ユリウスとプリムラは取り囲まれた。
闇とする格好の者たちに。
全身黒づくめだが、目と口の部分が開いている。視界の確保と吹き筒を咥えるための穴だった。
ユリウスが左腕にプリムラを抱き上げた。花嫁は花婿の腕に乗る形で胸のなかへ収まる。婚礼衣装のまま二人が寄り添えば一幅の絵となった。壇上で神々しいまでの姿が鎮座している。
威光に当てられ襲撃者はすぐ攻撃へ出られなかった。
ならなかったせいで、標的に発言を許す。
「おまえらが今する攻撃の形。確かグネルス皇国の都で見たのと同じだな」
そうだそうだとばかりにユリウスが思いつけば、祭司服の年配男性が嘲笑う。
「確実に仕留めさせてもらうぞ。いざという時のため、取っておいた毒が吹き矢に仕込んである。二人一緒で逝かせてやることが、せめての情けだ。受け取るがいい」
「受け取るのはおまえたちだぞ、裏の騎兵たちどもよ」
今にも高笑いしそうなユリウスだ。これを強がりと取った祭司服の年配男性は鼻で笑う。
「虚勢は止すがいい。我々にこんな絶好の機会を作ったおのれの甘さを悔いるのだな」
「後悔は俺たちよりおまえらのほうだぞ」
「我々はこのわずかな機会を狙って準備してきた、その証拠にだ」
礼拝堂内には黒づくめの格好をした人数がさらに増えていった。今度は剣や弓を手にしている。攻撃の布陣が二重三重で固まりつつある。
「我らに抜かりはない。さすがの闘神でも結婚式で武器帯同とはいくまい。徒手空拳なりに、せいぜい悪あがきすることだ」
「抜かりのない計画などないぞ。どこかしら失敗はあるくらいに思っていたほうがいい。俺を見ろ、婚約破棄されないようにしていたら婚約破棄をすることになった。罪深いことだ」
あまり参考にならない話しだから、反駁はある。
「ここは帝国が王国から実権を奪い返す唯一の機会だ。失敗は許されないと綿密に練り上げてきた。現にこうして闘神ユリウスを王になる寸前で討つ」
「おまえたちは今日の計画を立てるうえで肝心な情報が抜け落ちているぞ」
「そんなものはない」
「あるぞ。おまえたち、異世界から来た暗殺者セネカがまだ生きているのを知ってたか」
先ほど沈黙を破った祭司服の年配男性だったが、今回は口を開けなかった。




