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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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55.漢、再会となる(彼らも決断す)

 王国侵攻戦において、帝国の本営は陣形の最奥へ置かれている。つまり補給線に一番近い位置を取る。武器や人員を真っ先に受け取って、兵士たちを鼓舞する狙いもある。


 ウイン皇弟は逃亡に向けた体勢を総指揮官の役割りへ切り替えかけた。

 何がわかっていないだ、頓珍漢で有名なユリウスの言葉など聞けるか! である。


「早く来い。もう少しで余は……」


 途中でウイン皇弟は声を失った。口は開き放しだ。


 帝国の補給部隊とする思い込みで正体を見切るのが遅れてしまった。


 土埃を立てて迫ってくる者たちは、亜人だ。

 尖った耳を特徴とする人種は弓を構えだす。

 髭面が多いがっしりした体格の人種は盾を押し出す。


 エルフとドワーフ両人種の間を取り持つ位置に剣や長槍など持つ人間がいた。


 人種が混在し、かつ急編成なはずだが、絶妙な配置で整然と行進している。


 余程の指揮官でなければ為し得ない。

 いくら大陸広しと言えど、出来る人物は限られている。


 はっはっは! 紛れもない哄笑が湧き上がった。


「喰えないヤツだったことを、すっかり失念していたぞ」


 そばにいたハットリは笑うユリウスへ訊く。あれ、泣いてる? と。


 返事は個人でなく全員へ向けて行われた。


「賢國を蹴散らして、ウインのヤロウを討つ。一気に行くぞ!」


 ユリウスの周囲にいる者だけではない。


 味方の騎兵や龍人はもとより、加勢にきたグネルス皇国と三公国の騎兵も応じる。まるで息を合わせたかのように突撃を開始する。


 賢國の兵数は王国連合兵団の五倍以上もある。圧倒的な差であるはずだが、相手の勢いは本物だ。加えて武器の交換や補充を待つ状態にあった。しかも新たな方向から新規の攻勢とくる。持ち堪えられない。ついに第十将軍ドミニクまでが討ち取られれば敗色を意識せざる得ない。


 残った第十二将軍アーチが馬で駆け巡りながら叫ぶ。


「ウイン皇弟、どこにいる。どこにいるんだ、あいつは!」


 最後は乱暴だった。もはや苛立ちを隠せない、隠せなくて当然な状況だった。

 決定権を持つ肝心要の人物が見当たらない。行手を暗ましている。


「賢國の将軍たちよ、これが帝国の罠だったと考えなかったのか」


 新たに参戦した人間亜人混成兵団を指揮する禿頭の人物が大声で指摘してきた。


 将軍たちからすれば。確かに心当たりはある。今や賢國騎兵団は半分近くまで数を減らしている。もしかして騎兵同士の数に限れば、帝国より下回るほど減ったかもしれない。それほど遠くない未来に再び両国の間で交戦となったら? もしかして帝国の真の狙いはそこにあったとしたら? 戦況が芳しくないところへ放り込まれた疑心暗鬼を生む考えは、どんどん膨れ上がっていく。


 ついに第四将軍ルアートが討たれれば決断が下された。帝国の総指揮官は消え、遠征してきた将軍の半数以上が散った。


 退却! 賢國の残った将軍が次々に号令を上げてくる。


「ふざけるな、亜人なんかと言っていたくせに、行くのか。離縁に怯える気持ちを紛らわすためにも、戦え」


 アーゼクスがすがるように交戦を持ちかけてくる。賢國の騎兵たちにすれば、付き合いきれない。そそくさとは将軍の命に従う。急ぎ撤退を始めた。


「団長、賢國のやつら、追いますか」


 痛む身体を引きずってヨシツネがやってくる。


「いや、それより急いでイザークの助けに行きたい。ここより全然少ない手勢でシスティアへ向かっていった。苦戦は間違いないぞ」


 さすがですね、と答えたヨシツネの膝は崩れていく。地面へ落ちる寸前に抱えられた。ツバキとエルクウィンの二人が両脇で支えている。


 ふっと微笑んだユリウスは首だけ振り向けた。


「おい、バカ親父。ここの守りは任せていいか」

「いいぞ、バカ息子。グネルスや三公国の兵もおるし、むしろこっちから帝国をもんでやるわい」


 勇ましくて頼りになると取るか、能天気だなとするか。どちらにしろユリウスは喜びが隠しきれない。


「やっぱり親父はバカだけあって策士だな。初めからこれを狙っていたか」

「さすがの儂でも帝国の異世界人どもに出し抜かれた今回ばかりは、もうダメだと思ったわい」

「じゃ、なんでバカ親父は助かった。教えろっ」

「愛だ、愛の力だ。愛の力で儂はこうして今、ここにいる」


 一瞬ユリウスの台詞かと思った者は多かったが、間違いなくディディエ卿から発せられていた。


「なにを言ってるんだ、バカ親父は」


 もっともなものの返した人物がユリウスであったため、おまえが言うな、と誰もが言いたい。


 ばさばさ翼の羽ばたきがした。上空から降下してくる人影が見える。馬上のディディエ卿の前へ翼をたたみながら女性が座る。イズンという名の翼人(つばさびと)だった。


 何となくだがユリウスは了解できた。あとは詳細を聞けば確信へ至れただろうが、今は急がなければならない。すまないが、とアーゼクスへ始める。イザーク救援の同行を頼みこむ。快諾は無論のこと、実はまだ暴れ足りないときた。ダイロンたちも連れていこう、と有り難い申し出もある。


 ユリウスたちは押し寄せる帝国兵の一端へ突撃する。元来から強靭を誇る龍人騎兵の一団に、大陸一、二の猛将が加わっている。賢國撤退の報もさざ波のように帝国兵団へ広がりつつある。総指揮官ウイン皇弟が逃亡し、戦乙女システィアが討ち取られた噂も流れつつある。傭兵だけでなく帝国騎兵まで離脱の気配を見せ出した。


 すっかり士気の下がった帝国兵など、ユリウスたちにすれば物の数ではない。一度も速度を緩めることなく進めば、探し求めていた相手は見つかった。


 だがイザークの命は風前の灯火だった。


 帝国や賢國といった敵兵に追い込まれてではない。

 味方からの殺意だ。


 もう何度目だろう、大虎に噛み殺されかけていた。


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