54.漢、最強コンビ結成(他もノってます)
うおおぉおおおー! ユリウスの雄叫びが木霊する。広い平地であれば、本来ならあり得ない現象だ。実際、現象は起きていない。ただただ声がでかい、いつまでも響く。要は錯覚させているだけなのだが、させる勢いがある。
ユリウスを乗りに乗らせている張本人はアーゼクスだ。
闘神が放つ大剣の一振りに対する賢國の対策は見事だった。密集し幾重にも重ねた盾をもって構成した防御陣で受け止め切った。
けれど同じ威力が加わることは予想だにしてこなかった。仮に想定できたとしても、防ぐ陣形など思いつかない。
大陸一、二が揃ったら、お手上げだった。
たかが二人、されど最強コンビが無敵の快進撃を続ける。
「俺は婚約者の下へ約束通り帰るぞ。まだ言えていないがプリムラを愛しているからな。だから俺が本人へ直接言うまで周りには内緒で頼むぞ、アーゼクス」
「もちろんだ。ユリウスの恋路を助けられなくて、どうする。オルフェスとはいろいろあったからわかる……離縁はイヤだー」
わかるぞ! とユリウスは一閃を走らせる。ちっくしょう、とアーゼクスも大剣も振るう。
賢國兵団は吹っ飛ばされていくだけだ。為す術がない。
しかも右翼の部隊は壊滅しつつある。
夫してダメでも戦士としてすごいんだぞー、と元戦闘頭が家庭における鬱憤を晴らしている。続く元の配下たちは呆れるどころか深くうなずいている。想いは同じらしい。かけ声はともかく久々の戦闘とは思えない一致団結ぶりだ。龍人騎兵の強さをまざまざと見せつけている。
加えてグネルス皇国の指揮官が馬上で叫ぶ。プリムラを傷つけた貴様らは抹殺だ! と宣戦布告の中身は冗談でなかったことを伝えてくる。ちょっとおかしな皇王だが自らの出陣であれば、麾下の騎兵は士気が高い。所詮は一万五千程度と侮れない攻勢を仕掛けていた。
だが決意という点では、三つの公国が最も重かったかもしれない。帝国の属国と目されていたアドリアとピュザンにトラークーは以前から続く財政支援という名の献上が限界を迎えていた。王国侵攻においての要請は甚だ深刻な状況へ追い込まれた。トラークーの騎士団長アランが強くユリウス率いる騎兵団に就くことを訴える。このまま搾取されて滅ぶなら、自らの選択に拠りたい。アドリアの商工ギルドが強く支持を表明して決定となった。
ユリウス様ならいいとしたアラン騎士団長を中心に五千の数がグネルス皇国騎兵団に続く。
賢國は十五万の数を誇る。全てが騎兵と精鋭を誇る。
攻めてくる敵の兵数は龍人を三倍と見立てても三万に及ばない。負けるなどあり得ない。
第九将軍セデット戦死の報を伝えられた第十二将軍アーチは帝国本営へ駆けつける。落ち着いているというより動けないウイン皇弟へ怒鳴るみたいに訊く。
「約束の補給はどうした。急ぎこちらも駆けつけたからな。そろそろ矢は尽きるし、替えの剣や槍が欲しい」
「もう少し、待て。補給と共に新たな兵も来る。こちらの用意に抜かりはない」
答えたほうは不機嫌そのものであった。訊いたほうも面白くなさそうだ。何も出来ないくせにとでも言いたげな様子だったが、「早く頼む」とだけで去っていく。
ウイン皇弟は苦々しい気持ちを隠し切れなくなっていた。
隠し置いた切り札として最高だったはずだ。死中に活を求めて、やっと希望を見出したところで絶望を与える。これ以上はない見事な計画だった。実行してみせた。
なのに……なんだ、このざまは! 帝国に賢國が協力したという意外性だけで終わっている。ユリウスらはちっとも折れやしない。しないどころか、加勢まで得ている始末だ。たかがの数であるにも関わらず、今や互角、いやそれ以上の勢いを得ている。帝国の全兵力がユリウスの騎兵と龍人騎兵で構築された陣を破れない。帝国本営を守る賢國騎兵団は戦力が削られる一方だ。将軍が四人も討ち取られたと聞く。
まったく、と文句の一つくらい言ってやりたい。亜人製造の物は使いたくないなどと余計な手間を増やされたことも苦戦の原因だ。ドワーフに製造させた武器のほうが明らかに性能や耐久性で優れている。差は段違いだと言っていい。その証拠にユリウスらが手にした剣や盾は開戦からずっと変わらない。比べてこちら側、特に賢國が使用する武器の破損が酷い。間違いなく敗因の一つに数えられるだろう。
ぐっとウイン皇弟の顔が歪んだ。一瞬でも敗因の文字が過るなど不快極まりない。まだこちらが優勢だ。まだ補給も適う。
けれども、はっはっは! と高笑いが聞こえてきた。
「ウインよ、もう少しだ。待っていてくれ」
聞けない頼み事も届けられてくる。自然と足が動いた。
「ウイン皇弟閣下。どうかなされましたか」
不審を感じた近習の尋ねに、早くも馬へ手がかかった体勢で答えた。
「余は新たにくる兵団と補給の検分を一刻でも早くすべきだろう。総指揮官としてやらなければならない、そう義務だ」
しかし……、と近習の疑念を呈す間に、ウイン皇弟は馬にまたがった。
目ざといユリウスは逃さない。
「おい、ウインよ。待ってろと言っただろう。ここで指揮官は逃げ出すなんて、良くないぞ」
口にしたほうは単純に指摘しただけだ。
けれども賢國側にすれば無視などできない話しだ。
「どういうことだ、ウイン皇弟。我らが戦っている最中に逃げ出すとは!」
賢國第十二将軍アーチが憤り問い詰める。
「なにを敵将の讒言に踊らされている。見ろ、あれを」
騎乗のウイン皇弟は人差し指を立てて指し示す。
先には土埃が巻き上がっていた。遥か地平の彼方から、猛然とこちらへやってきている。
「わかっただろう、帝国の底力を。すぐに人も武器も補給してやる」
ウイン皇弟の顔は得意げに上気していた。告げた後に声を立てて笑う。だが残念ながら後から覆い被さってきた高笑いにかき消されてしまった。
はっはっは! ユリウスはいつも以上の音量だった。いつになく可笑しいとした感じも聞き取れた。
「ユリウス。なにが、そんなに可笑しい」
自分も笑っていたことを棚に上げてウイン皇弟が怒りをぶつける。
けれども熱い感情より思考の混乱へ陥るまで、直だった。
ユリウスの返答は謎かけみたいだったからである。
ウインよ、何を見ている、と。




