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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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53.漢の、僚友は凄い告白する(自覚があるかどうかは不明)

 残念ながら放った矢は標的を外した。


 けれども馬の尻には突き刺さった。いななきが上がり、前脚を大きく掲げては上体を逸らす。騎乗者を振り落とす。


 グレイの弓は上出来とする腕前を見せた。


 戦乙女を守れ! と立ち塞がる兵はいたが、イザークは神業とする早い突きで瞬く間に排除していく。地面に転がるシスティアを長槍が捉える位置まで難なく迫った。


「ま、待って、イザーク」


 尻を付いたままシスティアは手のひらを突き出す。止める仕草をしながら、周囲へ目を走らせる。助けにくる兵は……いない。


 馬上からイザークは冷たく見下ろした。


「ここに至って命乞いか。無駄なことはやめておいたほうがいい。助けにくる兵はもういない。戦場から抜け出るような逃走経路を選んだことが仇になったようだ」


 淡々とされた正しい指摘が聞く者に焦燥を駆らす。システィアは我を失ったかのように叫ぶ。


「私が婚約したかったのはユリウスじゃなくてイザークだったのよ」


 はぁ? と驚いた者はグレイで、名前を出されたほうは顔色一つ変えない。


「そう言うが、ウインへ向かうユリウスの前へ手ぶらで出られたくらいだ。かつての婚約者に対し余程の信頼がなければ出来ることではない」

「それはまた別の話しよ」

「そうだろうか。システィア、キミは全幅の信頼を置いていたはずだ。ユリウスが破棄されたとはいえ、婚約までした者を傷つける真似など決して出来ないことを。そしてそれを利用して地位を得た。見事だったと言おう。残念ながらここで虚しいとする結果で終わるわけだが」


 そっとシスティアは右手を懐へ伸ばす。起死回生の一刀は、しかし相手が見逃すはずがなかった。

 素早くグレイが矢を取り出しては構える。弓を絞って狙いをつけた。


「おかしな動きを見せたら、今すぐ射る」


 伸ばしかけた手を引っ込めたシスティアは威嚇の相手へ目を向けた。屈辱感で満ちた憎悪をぎらつかせている。


「まさか私がエルフなんかに脅されるなんてね。イザーク、本当にいいの、こんな連中と一緒にいて」

「システィア。命乞いにしては、苦し紛れにも程がある」

「ずいぶんエルフのガキにご執着らしいけれど、わかっている? ずっと一緒にいようと思っても、こいつら私たち人間より何倍も生きるのよ。ずっとなんていられないわよ」


 言い終わったシスティアの口許が、ふっと歪む。効果があったからだ。グレイと呼ばれるエルフが苦しげに目を伏せた。確かに言う通りだと認めた態度だ。ならば口は軽快に続けて廻る。


「冷静に考えれば人間と亜人は種の違いだけでなく寿命の観点からも、元々共に歩むなんて無理なのよ。冷静になりなさい。一緒に生きていくなんて考えること自体が間違いなのよ」


 しゃべっていくうちにシスティアは自信を深めていく。だから肝心の相手が見せる顔つきは気に障る。説得されるどころか、今にもため息を吐きそうだ。イザークはどう考えても呆れている。


「私が正しいことを、はっきり認めたらどうなの。男らしくないわよ」

「キミは女性だからと区別されることが嫌だったのではないか」


 暗に、都合のいい時だけ持ち出すな、と批判が込められていた。

 システィアにすれば反駁不能からくる揚げ足取りだと解釈した。つい鼻で笑ってしまう。


「イザークの言う通り、素直に認めるべきよね。私は性別に劣等感を抱き、貴方は亜人の存在を現実的に捉えられない。そういうことよ」

「システィア。キミは戦乙女(ヴァルキュリア)などと周囲から持ち上げられるが精一杯だ。特別な誰かと共に生きるなど出来ないだろう」


 言われたほうにすれば、かちんとくる。システィアは声を荒げずにいられない。


「なに言ってるの。いつまでも友達の婚約を破棄した件を根に持たないでくれるっ」

「ユリウスの話しではない。私、このイザーク・シュミテット個人の見解だ」


 えっ、とグレイはもらした。急に抱きすくめられたからだ。手綱を離した長い左腕が腰に巻かれて後ろへ引き寄せられる。まさしくイザークの胸のなかにいた。


「私はただ踏み台になれればいい。長き人生を送る亜人に少しでも幸せになれる選択を残せればと思う。彼女が生きていくうえで、わずかでも糧になれたら満足だ」   

「本気で言っているの。物事には冷徹な、女なんて計略の道具みたいにしか扱ってこなかったイザークなのよね」


 信じられないシスティアは、さらに疑うべき光景を目の当たりにする。


 馬上で背後からグレイを抱くイザークが微笑む。これまで何度か笑顔は目にしてきている。だが今のものは、これまで見たことがない。

 心からの愛おしさで溢れていた。


「もし以前にない私がいるとしたら、それはユリウスとプリムラ王女のおかげだろう。あの二人が男女の関係は面白いと教えてくれた。それに何より彼女が感情を教えてくれた。ここにいる彼女こそが、私に人としての気持ちを生んでくれた」


 呆気としたシスティアだったが、ここでようやく理解した。イザークが口にする『彼女』が誰であったか、を。改めてまじまじ見つめれば、噴き出すように言う。


「イザークの噂は本当だったのね。なに、そのエルフ。女だったの。すっかり男のガキかと思ったわよ。やっぱり女より男のほうが……」


 システィアは言葉に代わる絶叫を上げた。原因は激痛だ。左肩へ穂先が突き立てられたせいだった。前に作られていた傷へ寸分の狂いなく穂先が喰い込んでいる。より深い傷を抉れるよう正確無比に同じ箇所を突いていた。エグさ全開である。


「彼女に対しての失礼千万は許し難い。システィアを見てわかるが、やはり賢國(けんこく)をそのままにしてはおけないようだ」

「調子に乗らないでよ。私を追い詰めたからって、本営を狙うユリウスが無事にすむわけないわよ。四十万の帝国に十個の賢國兵団が加勢したのよ。半個にも満たない騎兵団で敵うわけないじゃない」


 半ば自棄でシスティアが怒声をもってかみつく。

 けれども戦乙女だった者の牙は届かなかった、もしくは喰らいつけないほど相手が頑丈だったか。


 遠くへ、イザークは視線を飛ばしている。システィアの戯言など相手にせず、冷静な分析とした声で言う。


 どうやら想定外が起きたようだ、と。


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