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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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37.漢の、僚友は捉える(かつての学友)

 まずいな、とイザークは舌打ちしたくなる。


 どうやら帝国兵に熱が点り始めた。戦いにやる気を出し始めている。全体へ徐々に高き戦意が広がりつつあるようだ。


 原因は明確だ。


 ユリウス率いる騎兵団の進行が極端に鈍ったからだ。


 与える損害は一方的だ。討たれる兵は圧倒的に帝国騎兵団側だ。ユリウスを先頭とする攻撃は確実に敵兵を仕留めていく。けれどもすぐに別の騎兵部隊が現れ、前を阻む。多勢をもっての物量作戦が着実に実行されてきた。


 帝国兵を斃しているにも関わらず、遠目では苦戦と映った。


 噂を信じやすいだけあって、気分や考えは簡単に変わる。あれほど鬼神などと怖れていたユリウスを討てるかもと考えられるようになったみたいだ。安易な期待は襲いかかることで自らの命と共に砕かれるが、基本指示待ちの兵士は周囲の波に呑まれやすい。大規模なため指揮官の声が届かない兵も多ければ、流れに乗るまま動いた。


 ユリウスとその騎兵団は敵兵を打ち払い続ける。けれどもイナゴの群れがごとく湧いてくれば迎え撃つしかない。前へ進めない。


 ところが帝国兵の意気込みによって、僥倖もまた訪れていた。


 ユリウスを討つと息巻く気勢は広がりすぎた。前衛では避けてきた傭兵たちも参戦しようと動き出す。ユリウスの突撃に道を開けるようなこれまでが心に引っかかっていたのかもしれない。戦争終結後において惰弱を認定されたら減額されるだけでなく、今後の雇用に影響するかもしれない。ここで挽回しておかなければまずい。


 やる気はあるが指示系統の弱い傭兵であれば個人の勢いとなる。後方から押し寄せる波はユリウス騎兵団を横から突こうとした騎兵団の邪魔になる。戦乙女システィアの下で働く騎兵の進行を遮っていた。


 これは、とイザークは指を鳴らしたくなる。


 つい先まで危機と考えていたが思わぬ展開を呼んでいた。横撃を決めていた第五を中心とする騎兵団は隊列すらままならない。隙だらけだ。


 当初はユリウスの助勢を考えないこともなかった。けれどもイザークの部隊は元からして寡兵である。駆けつけたところで大した力にはなれない。


 ならば混乱の機に乗じて討つ。


 戦乙女システィアの首級を上げれば、帝国兵の熱狂に冷水を浴びせられる。現段階で狙っていたうちの一人を仕留められれば、あとはウイン皇弟だけとなる。味方は完全に勢いづくだろう。


 イザークの手勢は少ないことが幸いして全員への伝達は即座に行き渡る。ユリウスに向かう帝国の傭兵に乗っかる形で接近を試みた。


 くすんだ金色の髪を馬上のシスティアが揺らめかせいる。


 イザークは正面から視線がかち合う位置まで馬を進められた。声も届く距離であれば、右手の長槍をぐっと握り締めて宣告する。


「システィア、今ここでその命、貰い受ける」

「あら、イザークじゃない。久しぶりね。ユリウスへ婚約破棄を言い渡した以来かしら」


 意外にも旧友とする口調できた。確かに同い年で士官学校で共に学んだとしてもだ。ずいぶんな余裕だった。


 理由は早々に判明した。


 システィアの前へ騎兵が立ち塞がる。かなりな数だ。どうやら第五に属す兵らしいと、ジュリアン騎士団長の登場で知れる。彼の齢はもう四十半ばを超えているはずだが、戦乙女と呼ぶその目は心酔で彩られていた。やれやれ、とイザークは苦笑いしたくなる。いい歳した猛者が二回りも下で実戦経験のない女性に下るとは! 舞踏会ならともかく命がけの戦場においてではお里が知れる。


 もっとも、ぼろを出したと笑いだしたのは先方だった。


「イザークも大したことはないのね。そんな背が高くて馬に乗っていれば、嫌でも目につくわ。戦場の混乱で誰も気づかないと思った?」


 笑うだけでなくシスティアは憐れみも込めていた。勝者の立場を誇示しているような感じだ。だからイザークの困ったものだとする表情になってしまう。口を開けば、お得意の気に障る言葉を発した。


「システィアは変わらないな。いつまで経っても自分を最優先としなければ気がすまない。そのせいで、いつも間違える」

「ずいぶん辛辣ね。やっぱりお友達のユリウスを悲しませたことが許せないようね」


 嫌味には皮肉で返す。システィアは余裕の態度を崩さなかった。


 イザークは相手にとって謎の微笑を浮かべる。強がりではない納得感を醸し出している。


「いや、その点に関しては今となれば感謝している。システィアにユリウスは荷が勝ちすぎる。やはり王女ほどの気質がなければ」

「男爵令嬢の私では身分的に覚束ないと言いたいわけね」

「私は気質といったはずだ。身分ではなく、本人が本来持つ素養をいかに育ててきたかが大事だという話しをしている。話しの流れから単語の持つ意味をしっかり捉えて解釈すれば、そのような解答には至らないはずなのだが」


 普段一緒にいる者ならば思うだろう。イザークの説教したいモードが発動中している。


 久しぶりの再会である者にすれば、腹立たしいとなる。


「要は私をバカにしたいわけね。昔からイザークはそういうヤツだったわ」

「それは違うな。私はシスティアをバカにしたことなどない」

「嘘を言うわね」

「嘘ではない。嫌っていただけだ」


 言われた当人だけでなく、周囲の騎兵たちも怒りを激られた。戦乙女をコケにするな、と襲いかかっていく。


 イザークの武器は長槍だ。馬上から突き出しても歩兵へ届く。感情任せに向かう帝国兵の剣先は空を切るだけだ。多勢に無勢が結果へ結びつかない。


「まさか距離も計れず仕掛けてくるとは、いったい第五はどういう教育をしている」


 イザークの本気で呆れてくるさまが第五騎兵団騎士団長の耳まで届いた。内心で認めつつもジュリアンは自分らの優位を声高に上げる。


「剣戟隊は下がれ。長槍を前面に。たかが一人だ、取り囲んで一斉に突けばひとたまりもないぞ」


 帝国第五騎兵団長の槍隊が命令通りとする隊形を取った。ぐるりイザークが乗る馬を取り囲んだ。長槍が狙いを定める。


「これならば防ぎようもない。どうするシュミテット子爵ご子息よ」


 今にもジュリアン騎士団長は高笑いしそうだ。


 初めてイザークはあからさまな表情を作った。まさに不快としている。


「自分がこれほどあの家の者と呼ばれたら、気分悪くなるとは思わなかった」

「大人しく爵位を継いでいれば、こんなところで死なずに済んだものを」

「一般論でしかない意見など、私には不要だ。あの家に縛られるなど死よりも避けなければならない話しだからな。それよりも……」


 自分へ向けられた槍の穂先よりもイザークはじっとジュリアン騎士団長を見た。意味有りげに問いかける。


「いいのか、私などにかまけていて」

「ここにきて命乞いか」

「自分の姿は目立つと心得ている私がなぜ、ヴァルキュリアへ迫ったと思う。いい加減にここまでの戦いで学んで欲しいものだ」


 いったいなにを、とジュリアン騎士団長が訊き返した矢先だ。うっと後方でうめきが聞こえてきた。慌てて振り返れば、目が見開く。


 戦乙女システィアに矢が刺さっていた。


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