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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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36.漢、突撃す(槍の僚友は迎撃す)

 三日三晩の豪雨が、どう戦況に影響するか。


 休息は両陣営へ等しくもたらされた。けれども負傷が癒えるほどではない。少なくとも王国側は削れたままの戦力で挑むしかない。較べて帝国は傭兵とはいえ、補充が叶う。


 戦力的にみれば、時間の猶予は帝国側へ良いよう傾いたに映る。


 うおおぉおおおおー! 突撃のユリウスは気迫を雄叫びだけでなく姿でも体現していた。鉄塊のごとき大剣を振り上げ進む目つきはいつになく厳しい。騎乗せず自ら走ってくれば、巨漢ゆえに地を鳴らす。心なしか地面まで揺らいでいるかのような錯覚へ陥らせる。


 三日という間は兵士に暇をもたらしていた。特にすることがなければ、雑談は多くなる。たわいない会話でも貴重な情報源である。自然と次の戦いへ備えての話題で持ちきりになる。何に注意すべきかとなれば、やはり敵の指揮官だとする答えへ行き着く。


 さすれば先の撤退行が思い出された。


 王国側は逃げ帰る道程にも関わらず、とても強かった。致命傷かと思われるほどの大怪我しながら、なお戦いを止めない四天の剣と弓。後駆(しりがり)を努める四天(してん)の槍はエルフの矢による援護を受けて隙がない。


 何より闘神(とうしん)だ。負傷した王女を背にしながら、いや背にしているからこそなのだろう。一振りで立ち塞がる兵を残らず両断した。数は関係ない。五だろうが、三十だろうが、前へ立てば大剣によって肉塊へ落とされていく。


 もはやあれは人を喰らうバケモノだ、人の皮を被った鬼だ、闘神というより鬼神だ。人外なれば人間が敵うはずもない。


 人伝の噂は得てして誇張を避けられない。ただでさえ別次元の武人としているところへ、傍証とする情報が流れてくる。ユリウスは強いとするイメージをいっそう膨らませていた。


 そんな強いユリウスが向かってくる。四十万の数でひしめく敵陣へ、真っ先に突っ込んでくる。

 やはりバケモノだから怖れを知らない、と思った時点で負けだった。怯懦で震える兵が立ち向かうはずもない。特に前衛を任された傭兵など出来るだけ避けようとする始末だ。逃げるに等しい行為は陣の隊列を乱す。軽う前から混乱が起きている。


 どこの騎兵団よりも激戦をくぐり抜けてきたユリウスの騎兵団である。好機を見逃さない。弱い部分を突く。ただでさえ騎兵一人一人の力量が優れている。相手の帝国兵は技量がバラバラな寄せ集めだ。鬼神の大剣から逃れても、続く騎兵たちの剣や槍に弓といった武力の餌食になっていく。


 イザークの見立ては想像以上の当たり方だった。


 ユリウスたちにとって、さらに幸運だったのは帝国侵攻兵団が陣を前へ押し進めていたこともある。別働隊を気にしなくいい戦況に、グラジオラス砦門(とりでもん)へ陣形を寄せた。これは山峡の狭隘まで陣を出し自兵で埋め塞ぐことで、横から攻勢を断つ。理に適った戦略ではあった。


 だが距離を詰めたせいで帝国の前衛はより早く敵とぶつかる。ユリウスの騎兵団は砦門の通路から出てくるしかない。前へ出した分だけ詰められるまでの間は短い。元の位置であれば、距離の分だけ察知しての準備ができ、特に精神的な部分で覚悟を整えられただろう。


 帝国の指令は外れを引き続けていた。


 それでもユリウスの騎兵団にすればは、もっと敵失を望みたいところだ。予想以上の幸運が舞い込んで欲しい。


 帝国の縦列陣形を三分の二まで突破した。取り敢えず、上々だ。


 これからが勝負だった。


 総指揮官ウイン皇弟の前面は帝国騎兵団で固めている。今回の戦さで手腕を高く評価された第三騎兵団アスペン騎士団長が中心になって集結していた。騎兵団九個とする、参加した騎兵の約八割に相当する数だ。陣編成において傭兵との歪な配分が、易々な突破を可能とした要因の一つである。


 今までの脆さは、ここから期待できない。


 訓練された騎兵が整然とした形で待ち受けている。総指揮官でありウイン皇弟殿下の御前であれば腰引けではいられないだろう。十五万はいるであろう帝国騎兵と正面から激突する。苦戦は必至だ。


 だが、あと一踏ん張りの位置まで来ていることもまた事実だ。


 ここを突破すれば、狙いの総指揮官ウイン皇弟の御首級が挙げられる。

   

 いくぞ! とユリウスが号令をかければ、おぅ! と騎兵たちは勇ましく応えた。


 ちょうどその時だった。


 右横から迫ってくる帝国騎兵団がいた。


 どうやら馬上から命令している騎士団長がジュリアンであれば、第五のようだ。しかも騎兵だけでなく傭兵もかなり混じっている。後方を見れば、くすんだ金色の髪をなびかせた女性が騎乗している。


 もう一人の狙いとする戦乙女システィアだった。


「こちらは任せてもらおう」


 馬上のイザークが手筈通りだと向きを変えた。


「おお、任せたぞ」


 と、ユリウスは答えた直後に「イザークよ」と口にする。してやられたとする声だった。


 あらかじめ決めていたのだろう。イザークが連れて行く数はせいぜい五百といったところだ。とても横から攻めてくる騎兵団の指揮官を倒せるとは思えない。一時的な、ユリウスの突撃へ横槍を入れさせないだけとする陣容だ。


 今の戦況では呼び戻すどころか、確認の使者すら送る余裕もない。


 実は戦乙女システィアまで討てるほど余裕がなかった、そういうことだ。


 そうユリウスは合点した、するしかなかった。


 ならばなおのこと、ウイン皇弟を討たなければならない。勝敗以前にこの男だけは許せない。例え敗北を喫しても、こいつだけは消しておかなければならない。


 プリムラの顔が浮かべば大剣を握る手に力が入る。


 イザークが決死でくれた機会である。


 うおおぉおおおおー! ユリウスは雄叫びを挙げた。


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