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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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35.漢、学友とする頃からの付き合い(決戦の時!)

 勝利するには乾坤一擲の突破しかない。


 帝国はせっかく王国へ攻め入る好機を総指揮官の保身で潰された。撤退のユリウス率いる騎兵団を追うどころか、再度の襲撃に備えた陣形の編成を急ぐ。守勢というより、単なる保身である。加えて雨の中で三日三晩に渡る待機とくる。


 勝つ気があるのか、と帝国の騎兵だけでなく傭兵でさえ思う。

 ウイン皇弟は陣形の最奥でふんぞり返ったまま声明の一つも出さない。

 帝国兵団の士気は著しく低くなっている。


 そこを突く。


「息を吹き返す前なら勝利の可能性を上げられる」


 イザークが今一度する確認に、ユリウスはうなずく。


 帝国兵が総指揮官を守る壁でしかないと考えているうちに突破する。長い交戦は例え上層部に呆れていようとも、自身の命のため武器を持つ手に力が入ってくるだろう。ひとたび優勢が見えてきたら、功績を上げようと熱がこもりだす。予備兵力の全てかき集めても五千がせいぜいの騎兵団くらいと考えだしたら勢いづくはずだ。


 ユリウスらは短期決戦としなければならない。


「だから、ユリウス。間違いなく出てくるであろうシスティアの部隊へ向かう私には気を取られるな。ともかくウイン皇弟を目指せ」


 戦乙女と祭り上げられたシスティアの名声は爆上がりしていた。無視できないほどにまでなっていた。皮肉にも総指揮官の人望が薄いせいで、より人気は集まったみたいだ。ウイン皇弟と同時に討たなければ勝利へつながらない存在までなっていた。


 なにやらユリウスが目許を厳しくして問う。


「イザーク。どれくらいの手勢を連れていくつもりだ」

「ユリウスの突撃に支障がない数にする」


 だから安心してくれ、とイザークは言わない。


 安心したとユリウスがなるわけもない。むしろ、だ。


「イザーク。おまえ、無茶しようとしているだろ。俺にはわかるぞ」


 具体的に示したら反対されるだ数くらいお見通しだ。


 ここでイザークは少し表情を緩めてきた。


「戦力になる彼女を私の勝手で故国へ帰してしまったからな。多少の責任を取らせて欲しい」


 大虎を使役するうえに、弓の腕もいい。グレイは貴重な戦力となったに違いない。


「帰す点においては、俺も同意しているぞ。なにせ虎に乗って目立っているからな。それに賢國(けんこく)に毒されつつある今の帝国だからエルフは危ないぞ」


 大虎といった派手な存在感だからこそ、標的になりやすい。危険だが決して斃せないわけではないため、攻撃の矛先が集中しそうだ。さらに戦乙女システィアが唱える人間原理主義がはびこりだしている。亜人は狙われやすい状況だ。


 わかっているとしたユリウスに、なぜかイザークは苦笑してきた。申し訳ないとばかりに告白する。


「いや、これは単なる私情だ。魚人(ぎょじん)の都で彼女が斬られたと思った瞬間の気持ち、あれをもう二度と味わいたくないだけだ。ただ、それだけなんだ」


 ムート立国におけるキバ一族との交戦で、グレイは敵の剣による一閃を受けた。真っ二つに服を裂かれてしまい、ちょうど駆けつけたイザークに裸を晒すはめになった。おかげでしばらく二人の間に距離が置かれた。でも裸を見られる程度で良かった。もう少し踏み込まれていたら致命傷へ至っていただろう。


 そうか、とユリウスが笑う。いつもの高笑いではなく、微笑で応えている。


「イザークが計算上より自分の気持ちを優先なんて初めてな気がするぞ。士官学校以来の付き合いがあるのにな」

「確かにそうかもしれない」

「だからちゃんと手勢は連れていけ。あまり無茶はするな」

「それは無理だろう。なにせこの突撃自体がもはや作戦と呼べない無茶なものだ」


 まったくだ、とユリウスがすれば、イザークも「そうだろ」と続く。それから二人で大笑いをした。


 今やユリウスとイザークしかいない。四天(してん)と呼べるうち三人は負傷して欠く。


「結局は学校からの付き合いがある二人で、となってしまったようだ」


 イザークが思い出に浸るような声に対し、ユリウスはいやいやと首を振る。


「俺たちは二人だけじゃないぞ。あいつらがいる」


 グラジオラス砦門の王国領内側には、すでに騎兵が集っている。武器を手入れしている者もいれば、甲冑を身に付け出した姿もある。指令がきちんと行き渡っていることを示す光景である。雨が上がり次第に突撃を開始する。ユリウスの騎兵団の誰もが準備を怠らない。

  

 イザークはすまないとした口調で述べだす。


「ユリウスの言う通りだ。これだけ無茶な戦いに参加しようとしてくれるのだからな」

「逃げ出して当然だからな」


 点呼を取ったら、誰一人とて抜けた者がいない。それどころか晴れ晴れとした顔が並ぶ。ミケルは並々ならない闘志を発散させていたし、リースは覚悟を決めた凛々しさがある。


 まったく、とユリウスはこぼさずにいられない。


「おまえたち、良いのか? 本当にこれからの戦いはヤバいぞ。なにせ……」

「でも勝てる可能性が皆無というわけではないのでしょう」


 リースが口をはさんだ。本来なら指揮官の話しを遮るなど厳禁だが、今回は実に良いタイミングだった。狙ったのだろう。一度は命を捨てた者の強みが出ている。


 普段は大人しいミケルまで声を挙げていた。


「僕は討ちたい。ローエンもそうだけど、何よりもウイン皇弟の首を上げたい。でなければ……」


 途中で声が詰まったのは激情のあまりだろう。プリムラの暗殺に責任を感じるなという方が無理なのだ。


 はっはっは! ユリウスが天高くと表現したくなるほど響かせた。


「まったく変わり者揃いで驚いているぞ。だから俺は感激だ!」


 一番の変わり者が感情を爆発させた。だから檄になる。


 おぅ、と騎兵たちが息を揃えて応じた。声だけでなく手にした剣や弓に盾といった武器まで上がる。

  

 東の空を漂う雲間から一条の光りが差し込んできた。

 やがて陽射しは束となり広がって、彼の地に久しぶりの快晴をもたらすだろう。


 すっかり状況が整うまで待つ気はない。


 砦門の通路を抜け、外へ出る。


 いくぞ、とユリウスが真っ先に駆け出した。

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