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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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323/325

32.漢の、僚友は語らう(例の彼女と)

 綺麗な星空へ、息を吐いた。

 大虎にまたがるグレイは上空を仰いだまま動かない。


 吐いたのは怒りからか、虚しさからか。グレイ自身もわからない。遠くではまだ厚い雲が覆う。王国と帝国の国境(くにざか)いは豪雨が続くようだ。


 あの雨が上がったら……戦いは始まる。


 帝国の兵数が四十万に対し、ユリウスの率いる騎兵はかろうじて五千といったところだ。すでに砦門(とりでもん)の扉は壊されている。けれども王国へ侵入するには通路を通過しなければならない。出てきたところで迎え打ったら、とグレイは提案してみた。


 イザークが首を横に振る。連中も莫迦ではない。弛まない攻勢をしかけてくるはずだ。休みなく兵を投入すれば、連日連夜に渡る。こちらの数は少なければ休憩がままならない。いくらユリウスでも不眠不休が五日も続けば身体は持たない。そうした間にも帝国側は梯子で砦門をよじ登ることも始めるはずだ。そちらにも兵を割かなければならなくなる。


 攻略はいずれされるだろう。


 守勢は敗北までの時間稼ぎとしかならない。討つべき総指揮官ウイン皇弟は陣の最奥で動かない。でもだからと言って、こちらからの攻勢は細くすり抜けてしまいそうな糸をつかむ話しだ。それでも勝機は皆無な迎え撃つより仕掛けていくしかない。


「でもさ、イザーク。皇帝の弟を討つだけでいいの?」


 降りしきる雨を窓が映すなか、一通り聞き終わったグレイはちょっと考え込みながら訊く。


「キミは素晴らしい。美しさだけでなく聡明さもまた真なものだ。確かに言う通りウイン皇弟を討つだけでは帝国兵団の勢いは止まらないだろう。王女に教えられたことだ」


 イザークは相も変わらず彼女に対する美辞麗句混じりだ。


 これまでだったらグレイは気持ち悪いと相手にしなかった。今回は、いいからそういうの、と照れてから話しを続ける。


「やっぱりあのヴァルキュリアっていう女も一緒にやらなきゃダメだと思うけど」

「そこまで情報を入れていたか。さすがだな。おかげ王女だけでなくアルまで無事に連れ帰ることが出来た。キミが相棒を連れてきてくれたおかげだ」


 グレイの大虎アムールがアルフォンスを運んでくれた。ユリウスを上回る巨漢であれば、人力だけの運搬は難しい。敵の猛攻があれば、最悪の場合は途中で諦めるはめになったかもしれない。


 本当に助かった、と長身を誇るイザークが頭を下げる。心からとわかるほど身体を折った。


 いいよ、いいよ とグレイはちょっぴり頬を染めながら両手のひらを振って見せる。


「ボクだって力になりたいよ。それにこの戦いは亜人のためでもあるし。帝国が王国に勝ったら、絶対に次は亜人の国を狙ってくると思う」

「キミは明晰だ、困ったほどに」


 急にイザークの声は潜んだ。


 グレイはあまり気に止めない。決意を伝える想いが強すぎた。


「ボクも戦うよ。このまま帝国が大きくなっていったら、亜人の未来は暗いよ。ベルの代わりまでいかないけれど、アムールがいるし、きっと……」


「キミは帰れ。今すぐに、だ」 


 えっ、とグレイは声を失えば頭の中は巡る。話している途中で遮られた真意を探る。懸命な試行錯誤したうえで出した反応は、笑うであった。


「おまえ、なに言ってんだよ。今は一人でも多く兵が欲しいだろ。ボクは虎を連れているし、弓だってベルほどじゃないけれどけっこういい腕しているんだぞ」

「私が知る限りでもキミは大虎を少なくとも三匹は使役できるはずだ。なのになぜ今回は一匹しか連れてこなかった」


 改めてグレイは思い知った。なぜイザークが智将とされるか。指摘が鋭い。すでにこちらの真意は見抜かれている。だから普段だったら出てきそうな言い訳が出てこない。


 するとイザークが黙ってしまったグレイの代わりとばかり口を開く。


「キミは優しい、とても心優しい女性だ。グレイを初めて見た晩だ、ユリウスに斬られて転がる大虎たちへ向ける目は酷く悲しげだった」


 グレイはグネルス皇国カナン皇王の助力で帝国貴族の舞踏会を襲撃したことがある。自身が抱く復讐とエルフへの暴虐に対する警告を含めて、大虎で参加貴族の多くを殺戮した。報いはユリウスの剣戟によって、これまで手塩にかけて育ててきた大虎の三匹を失うことだった。


「キミは自分の道連れとしたくなかったから一匹としたのだろう。それでもキミは心を痛めているはずだ。アムールに申し訳ないと思っているはずだ」


 次々と的中されてグレイは答えに詰まった。逸らす視線は仮設小屋の隅へ向けた。アムールが静かに寝そべっている。ふと戦場で無数の長槍と矢に射抜かれている光景が浮かんでくれば、目許は辛く歪む。それを振り払うようにイザークへ再び顔を向けた。


「イザークは腹が立たないのかい、亜人たちに。ちっとも戦いへ参加しない連中に」

「ないな。これはユリウスと共にあれば、いずれ起きた戦いだ。亜人どうこうは関係ない」

「ボクはそう思わない。だって帝国の奴らは亜人を対等とするユリウスが許せないみたいじゃないか。ここで王国が負けて帝国が力を伸ばしたら、どうなるか。亜人の各部族だってわかっているはずだ。なのに、ちっとも動こうとしないんだよ」

「仕方がないことだ。それぞれに事情があり思惑もある。こちらの争いに巻き込まれる必要はない」


 毅然とイザークに言われても、言われたかこそグレイは地団駄を踏むように荒げた。


「違う、そんなの間違ってる。友好だなんだ持ち上げておきながら、ユリウスたちだけに戦ってくれなんてどういうことだよ。任せておくしかないなんて、なんだよ。エルフだから戦えないなんて言うんだったら、せめてボクが一緒に戦うよ」


 エルフの部族長らとグレイにどんな経緯があったか、一端を窺える内容だった。


 ふっとイザークの表情は緩んだ。普段ではお目にかかれない暖かい微笑を浮かべていた。


「ありがとう、グレイ。本当にキミは素敵だ。女性としてもチャーミングだし、何より人として優れている」


 グレイはまだとても感情が昂っていた。


「いいよ、そういうのは! ダメだって言われようとも、ボクは戦うからな。このまま何もしないまま、もうこの世で会えなくなったなんてイヤだよ。ユリウスだけじゃない……イザークにだって」


 言い切った時の顔色までグレイは意識が回らなかった。ただ身体中がずいぶん熱い自覚はある。


 イザークが初めてとする神妙さを見せた。聞いてくれるだろうか、と言ってくる。グレイが拒否するわけはない。すると、意外な告白がなされた。


 私など生まれてはならなかった、と始まった。


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