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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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31.漢、僚友の意外な事実を知る(願いもこめる)

 雨は上がる気配さえ見せない。


 忌々しい降りだが敵襲を止めている要因の一つと考えられる。傷ついた陣営に休息は必要だ。例え結果が変わらなくても。


 雨合羽のユリウスとイザークは黙々と歩む。


 先導の王国騎兵は早足だ。後ろは振り向かない。付いてこられる信頼だけでなく、いかに急いでいるか物語っている。


 再び砦門(とりでもん)の通路へ入れば、さっそくヘクター騎士長が申し訳なさそうに出迎えた。


 合羽の被りを外したユリウスが尋ねた。


「アルにどうしても会いたいという者がいると聞いたぞ」


 はい、とヘクターは返事して身を横へ引く。


 警戒する王国騎兵の剣に挟まれる形で立っていた。


 雨除けの外套にすっぽり覆われているが、女性な感じはする。かなり小柄であれば、子供か成人ならばドワーフだろう。


 ユリウスが隣りのイザークへ目をやる。憶えがないと首を横に振ってくれば、直接訊くしかない。


「アル……アルフォンスを知っているというが、俺たちはおまえが誰だか知らない。すまないが身元をはっきりさせてくれ。出来れば顔を見せてくれると助かるぞ」


 あまりに正体不明すぎる格好であれば、確認もそうだが守備する騎兵たちを落ち着かせたい。


 突然の訪問者が女性とわかる声で答えた。


「ヒドいものでお目を汚すこととなりますが、どうかお許しください」


 それは……、とユリウスが訊き返しかけたところで、相手の被りが取られた。


 周囲の騎兵は一斉に息を呑む。


 成人の女性であった。ドワーフに違いない。けれど亜人である点について驚いているわけではない。そもそも王国は多数の亜人種が住んでいる。


 問題は、顔だった。


 きっと本来なら綺麗と思われる肌へ、癒えない傷が幾筋も走っていた。顔中のそこかしこが抉れている。無惨すぎて暗闇の下では、怖しい。囲む騎兵たちは怯懦を表に出さずとも薄気味悪いとする目つきを隠せなかった。


 いろいろと聞きたいことはある。けれどもユリウスだけでなく、イザークも見た。


 傷だらけの顔をした女性は被りを外し、外套の前も開いた。艶やかな栗皮色のコクーンドレスだ。見覚えがある。確か魚人(ぎょじん)の都で女性陣それぞれへ気に入った服の購入をしようとなった。ちょっとした旅の催しだった。

 なぜかアルフォンスも一着を選んだ。理由を聞いても教えてくれなかったが、知らない間に手元から消えていた。たぶん配達に出したのだろう、と気にも止めていなかったが想像通りであったらしい。


 送り先は女性だった。けれどこれまで本人から言及された試しはない。


 静かにユリウスは名を問う。


 ラライア、と返ってきた。


「ラライアよ。アルは……アルフォンスはとても助かるとは思えない酷い有り様だ。それでもそばにいられる勇気はあるか」

「そのために来ました。このような女がアルフォンス様の近くにいてはいけないと考えておりましたが……こんなことになってやっとわかりました……自分の気持ちが」


 凛としているが今にも崩れ落ちそうなラライアの告白だった。


 わかった、とユリウスの返事も早い。自分らを先導してきた騎兵へ、ラライアの案内するよう頼む。


 雨の降りしきる中へ、突然な訪問者が消えていく。


「大丈夫でしょうか、彼女は。帝国の手の者とは考えられませんか」


 ヘクターがもっともな懸念を示す。


 はっはっは、とユリウスが挙げた。何をいきなりとヘクターは思うものの、馴れれば安心の音色に聴こえてくるから不思議だ。


「今さらこっちの内情など探っても出てくるものはないしな。まぁ、うろちょろするならちょっと警戒したほうがいいだろう」


 わかりました、とヘクターは近くの配下へ命令する。いちおう見張りを置くとなった。


 たぶん大丈夫だと思うぞ、とユリウスの言葉を王国騎兵は任務に対する労いと解釈した。


 イザークは本気で言っていると採っていた。


 なぜならラライアがここまで来ること自体が命がけだ。砦門まで来た時間を計れば帝国の陣営内にいたことは間違いない。戦いの最中にある騎兵団へ接近が許される余所の女性と言えば娼婦しかない。戦闘が続くなか自陣から離れたら間諜(スパイ)が疑われる。兵の享楽を満たす立場にすぎない者であれば、処分はその場で行われるだろう。大雨を突いて出てきたのだろうが、もし見つかっていれば確実に殺されていた。


 無論、間諜とする策略の可能性は捨てきれない。


 けれどもアルフォンスは選んだドレスを愛おしそうに眺めていた。誰かの贈り物かと尋ねても、頑として答えを拒んでいた。あれは今思えば照れ隠しだけでなく、いろいろありそうなラライアの事情を慮ったのだろう。


 死の淵を彷徨っているアルフォンスへ、今は彼女だけが力になれる。

 彼女がいれば大丈夫と信じることは、ユリウスにとっても切なる願いなのだろう。


 出会った頃から変わらない、本当にこの漢は変わらない。


 だからこそイザークはユリウスと二人きりになれば頭を下げた。

 私は自分の我がままを通した、と謝罪した。


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