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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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28.漢、傷心を思いやる(決意も、また)

 土砂降りが続いている。


 部屋の外で待っていたイザークと、ユリウスが合流した。


 仮設小屋から出たところであった。


 滝のような雨に打たれて土下座している青年がいる。面を上げてくれ、とユリウスの要望に応えた顔は鼻が曲がっていた。ミケルが天候に関係なく濡らした顔で声を絞り出す。


「ユリウス様、すみませんでした。僕はローエンとずっと一緒にいたのに気づけませんでした」

「しょうがないだろ。俺たちだって、ぜんぜん気づけなかったぞ。むしろミケルこそ辛いだろう。これまでずっと仲間としてきたのだからな」


 それよりいつまでもそうしていたら身体を壊すぞ、とユリウスが気遣う。


 優しさが身に堪えた。雨に打たれるままミケルは再び額を水溜まりへ乗せる。血を吐く想いを絞りだす。


「僕の間抜けさは万死に値します。ユリウス様にここで斬られて当然です。でももしお許し願えるなら、あと少しだけ生かしてください」

「ミケルよ。おまえは何をしようとしている」

「ローエンを殺したい。差し違えてでも、殺します」


 大量の雨が景色を煙らせている。大地は痛みを訴えるかのように鳴り、あらゆるものが冷え冷えと濡れそぼつ。殺意にたぎる青年も寒々しい光景に溶け込んでいた。


 ミケルよ、とユリウスが呼ぶ。はい、と答える者はまだ顔を伏せたままだ。


「おまえはローエンを殺しにいかなくていい」


 えっ? とミケルは濡れた髪がべったり貼り付く顔を上げた。驚きを描いている。


「すまないが、ミケルよ。その我慢ならない気持ちは俺のために役立てくれないか」

「それはどういうことですか」

「プリムラは絶対に死の淵から帰ってくる!」


 いきなりとするユリウスの断言に、ミケルは疑念を挟まない。「それで僕は?」と受け入れ訊き返していた。


「けれどもプリムラを執拗に付け狙うヤツがいる。誰だか、ミケルならわかるだろう」


 こくんとミケルはうなずく。ローエンがプリムラを刺したのは、帝国の皇弟にして侵攻兵団の総指揮官であるウインの依頼だ、と。暗殺を実行した本人が言っていた。


「ヤツだけは、どうしても野放しにするわけいかない。プリムラの未来のためにも、ウインだけは討ちたいぞ。だからミケルよ」


 そう言ってユリウスは雨が降りしきる中へ出ていく。まだ跪いているミケルの手を取った。共に濡れながら、静かに訴える。


「ローエンではなく、ウインを討つほうに手を貸してくれ」


 仮設小屋の庇からイザークは出ていないから、ミケルの返事が聞き取れなかった。雨のせいとするほど降りは強い。だがわざわざ確認するまでもない。様子から充分に返事は読み取れた。



 ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※



 砦門(とりでもん)の通路はけっこうな長さがある。


 現在は雨よけとして絶好な場所になっていた。


 騎兵らは役目として詰めていた。黄色の王国騎兵服を着用している。いつ何時、敵が来てもいいよう武具は傍に置いている。臨戦態勢にあるが、どの顔にも覇気はない。憔悴しきっている感じだ。とても攻め込まれたら持ち堪えられそうもない。


 誰も口を開かず、ただ雨を眺めている。ずっと時間を止めているかのようだった。


 二人の登場人物によって通路の凍りついていた空気が動きだす。


 大漢と長身の名だたる武人が訪れれば、緊張感が張り詰めていく。

 重苦しい雰囲気に耐えられないように、王国騎兵団の長が叫ぶ。


「やはりいらっしゃいましたか、闘神(とうしん)ユリウス」


 騎士長のヘクターは動揺を露わにしていた。もはや隠せる余裕など持てないようだ。


 ユリウスは頭に被っていたフードを払うように退かす。水滴が跳ね飛べば、体格を浮かび上がらせるようだ。まるで山のごとしである。開く口から出る声も重々しい。


「戦闘直後にも関わらず、守備に就くとは素晴らしいな。有り難いぞ」


 思わぬ感謝にヘクターは耐えられる心境にない。取り乱すまま反駁する。


「闘神ユリウスがやってきたのは無能な指揮官が許せないからでしょう。大事な婚約者のプリムラ王女の出撃を許しただけでなく、あまつさえ守りきれなかった。斬り殺したくなって当然です、ええ、当たり前だと思います」 

「ヘクターよ。おまえの……変に気を遣うのは良くないな。プリムラがこうなったのは俺たちの責任だ。もっと突き詰めれば、原因は俺にある。プリムラが戦いに出るほど追い詰めさせたのは、俺だからな」

「この件に関しては、私にも責任がある」


 ユリウスに続いてイザークが始める。


「ウイン皇弟だけでなくヴァルキュリアなどと持て囃されているシスティア嬢まで仕止めなければ結果はついてこない点を失念していた。プリムラ王女の見立ては正鵠を射ており、王国騎兵団の出撃は誤りでない」


 冷静な分析が、責めにきたわけでないことを物語っていた。


 けれどもヘクターは当初のミケル同様に受け入れられない。違うでしょ! と喚く。


「闘神ユリウスとその騎兵団の連日に渡る戦勝に自らの功を焦った、このヘクターのせいです。せっかく塞いでいた通路の障害を退け挙句に扉まで開けた、バカな行いのせいです。我々が負け、王女が亡くなるのも、王国が滅ぶのも、全部自分のせいです。違いますかっ!」


 逆ギレとするには、心痛を読み取る。責任を感じているようであれば、一方的に責められない。ユリウスにはそんな人の良さがある。けれども今回は性格ゆえだけではない。伝えるべき事柄があればヘクターへ、聞け! となる。


 いいか、とユリウスは始める。


 これから勝ちにいくための算段をするぞ、と持ちかけた。


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