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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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24.漢の、弓は人生最大の苦渋(彼女の決意)

 軽々と、逃げ惑う帝国兵の上を飛び越えてくる。


 当初は嬉しく想うベルだった。けれども目前までやってくれば苦言を吐かずにはいられない。


「どうして来たんだ、グレイ。死にきたようなものだよ」


 亜麻色の短い髪したエルフは大虎にまたがっていた。名前の由来となった色の瞳を不服で彩る。


「なんだよ、せっかく助けにきたのに。ベルは小言が多いよな……ま、あいつよりマシだけど」

「わかっているのか。ここは戦場の只中で僕たちは動くことさえままならない」


 にこっとするグレイの態度は太々しい。大虎から降りるなりだ。


「アルフォンスだっけ? これだけ矢が刺さっても息があるよ。図体でかすぎだけど、アムールなら運べるだろ」


 グレイは大虎の名前を口にしてくる。

 言う通りだからこそ、ベルは承服できない。


「それじゃ、グレイはどうするつもりだ。まさか残って戦うなんてことじゃ……」

「プリムラも拾ってくれ。矢を射てないベルなんて邪魔なだけだよ」


 答えながらグレイは弓矢を取り出す。

 周囲の帝国兵は大虎に恐れ慄いているから、まだこちらを窺うだけで止まっている。もし脅威の猛獣がいなくなれば、一斉攻勢は見えている。ベルにすれば、いくら自分が役に立たなくても冗談じゃないとなる。


「なら、あたしもグレイさんと一緒に戦います」


 敢然とキキョウがベルにとって辛い決意を述べてくる。


 以前よりちょっぴり伸びたグレイの亜麻色した髪が横に振られた。


「キキョウだっけ? こんなに怪我したベルなんてただの厄介者だからさ、付いていってくれるかな」


 そんな、とキキョウもまた受け入れられない。一理は確かにあるけれども、首肯までいけない。


 ほら、とグレイからアルフォンスを大虎アムールに乗せよう急かされる。一人は左腕しか使えないため三人がかりで行った。


「さっさとプリムラも拾って、行く。途中、敵も多いだろうから、キキョウ、頼んだよ」


 てきぱき進めた勢いでグレイは二人と大虎に担がれた一人を送り出そうとする。


 だけどベルは決意できない。アルフォンスを乗せた大虎の頬へグレイはそっと顔を寄せて呟く。常人より遥かに優れた聴覚が聞き取ってしまった。


「頼んだよ、アムールとはここでお別れだ」


 どうすればいい。ベルはこれまで生きてきたなかで一番といっていい苦悩で胸が痛い。このままでは全員が敵の餌食になる。だからといって自分だけが助かるなんてあり得ない。せめてキキョウだけでも、と思う。でもやっぱりグレイだけを犠牲になんて考えられない。では僕が、となればキキョウだけでなくグレイも残りそうだ。


 人の命を、自分の感情を、数で割り切れたらどれほど楽だろう。

 取り囲む帝国兵に長槍兵と弓兵が揃いつつある。大虎に対抗する陣容が固まりつつある。これ以上ぐずぐずしていては全滅が近い。


 ぐっとベルは歯を噛んだ。決意を口にしようとした。


 バケモノだ! 悲鳴みたいな叫びが届けられてきた。


 何事かとベルたちだけではない、周りの帝国兵も目を向けた。

 帝国陣営の一部から派手に血飛沫が舞い上がっている。何やら振動まで伝わってくるようだ。気のせいではなく、途轍もない圧で迫ってきていた。


 バケモノだ! 再び聞こえてきた台詞は宙から聞こえてきた。たぶん、いやきっとあまりに素早く刎ねられたせいで、喚きが命果てても続いたのだろう。地面に頭が落ちた後、首下しかない胴体が倒れていく。

 次々に、何体も。


 無惨な屍体を押し退けて、来る。いくら戦場であっても事切れた相手を蹴飛ばすなどしてこなかった。敵でも味方同様に同じ亡骸として扱っていた。

 日常では無礼でも、戦いにおいて無法でない。戦場であればこそ出来る限りの礼節を尽くす。


 そんなユリウスが、退けとばかり生者も死者も関係なく押し分けている。前を立ち塞がる相手へ振るう大剣に微塵の躊躇もない。自然と働いてしまう手心は今、完全に消滅していた。首どころか胴体さえ真っ二つにする威力は一振りで何人にも及んだ。


 今のユリウスへそばに近づくだけで命は保障されない、確実に持っていかれる。大剣へ緋とする色を提供するだけだ。闘神など生易しい、まさにバケモノとする戦いぶりであった。


「さぁ、二人とも早く!」


 グレイが急かせば、「キキョウちゃんっ」とベルが呼ぶ。目が合えば、強い意志を込めた。アルフォンスを乗せた大虎アムールにベルは寄り添う。護衛役はキキョウだ。ユリウスたちと合流できれば、脱出の可能性は高い。


 さぁ、行け! グレイの促しにベルたちは走りだす。


 追おうとする帝国兵へ矢が飛んでいく。

 グレイの、行かせないとする援護射撃だ。弓矢を持つまま、挑発の笑みを浮かべる。


「おい、エルフだぞ」「悪魔の人種だ」「殺せ」


 帝国兵はまんまと乗った。乗りすぎて、少し怖いくらいである。

 グレイは矢を討つ。ベルと違って複数を飛ばせるわけではない。普通の弓手として一本をもって確実に射抜く。前方の敵は倒せた。後方から、そっと忍んできて体当たりされたらひとたまりもない。


 元々、小柄で華奢な女性である。あっという間に組み伏せられた。


 地面に押さえつけられてグレイは悔しい。身代わりを買って出た。敗北は仕方がない。死ぬ覚悟は出来ている。けれど稼ぎたかった時間が思ったより、ずっと短い。どうして自分はいつもこう役立たずなのか。がっかりしてしまう。


 あとはもう殺されるだけか、とグレイは諦めた。


 こいつ、女だぜ、と後ろから体当たりしてきた帝国兵の声が聞こえる。もう戦いは終わりそうだな、と誰かが言えば、やっちまうか、と鼻息が荒い声音がした。


 戦場のどさくさで男が捕らえた女に何をしようとするか。


 想像がついたグレイの身体は震え出す。囲む帝国兵に嘲笑されても抑えきれなかった。


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