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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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22.漢の、盾と剣(最後の……)

 円陣とした弓兵が一斉に矢を射った。


 放たれた瞬間に、プリムラとツバキを囲む陣形の一角が崩された。甲冑兵をまるで人形のように跳ね飛ばし、驚異的な速さで王女と侍女の二人へ覆い被さる。

 前と左右は両手の盾でふせぐ。

 そして……後方からは自らの肉体で引き受ける。甲冑に阻まれる矢はあった。けれど多数は貫き刺さる。流れる血は庇うプリムラとツバキへ落ちていった。


 プリムラから視線を上げたツバキは血を流す顔を間近にする。酷い負傷なのは一目で知れる。なのに、笑みが向けられた。


「すまんのぉ、遅れて。姫は……」


 目を落とした髭面がたちまちだ。落胆で染まっていく。


「そうか……吾輩(わがはい)は間に合わなかったか……すまん、姫……ユリウス……」


 そう言ってアルフォンスは、がくり顔を落とす。けれども己の身体を盾とする体勢は動かさない。


 ツバキは聞いた。

 矢が盾に当たり、庇う巨漢に刺さる音を。

 トドメの第二射が放たれた。


 アルフォンス様っ、とツバキは叫ぶ。

 返事はない。身体がぴくりとも動かない。

 アルフォンスという肉体の壁の向こうから敵兵の声が聞こえてくる。


「さっさとこいつを退けて、中の王女と女にトドメを刺すぞ」


 四方から足音が聞こえてくる。

 ツバキは短剣を拾い、構え直した。自分の腕力ではプリムラを抱えて無事に突破など考えられない。ならば時間を稼ぐしかない。誰かがと奇跡にすがるような話しでも、命を捨てて守り通すしかない。

 気配で敵兵が囲んだのを知る。このデカブツを退けるぞ、と聞こえてくる。短剣の柄を握り締めた。


 いきなり覆いが取っ払われた。盾もまた動く。


 殴打によるものだろう、ぐしゃりとした音が次々に起こった。


 滅多に驚かないツバキが呆気に取られた。周囲は血の海だ。頭や顔が潰れた赤く染まる屍体が散乱している。


 中心に位置する人物はプリムラとツバキの傍にいた。両手に盾を持ち、背中に矢を生やしてそびえ立つ。


 四天(してん)の盾がこと、アルフォンスもまた屍体と遜色ないくらい全身を血で染めている。けれども生きている証拠に、笑ってみせてくる。ふぉっほっほ、といつもながらの、でも違う響きを立ててくる。


「お主ら、いかんのぉ〜。選りによって姫に手を出すなんてのぉ。ユリウスが百人斬りしてた折、二人が手をつなぐ姿は今でも思い出すのぉ。本当にお似合いだった……それをよくもやってくれた!」


 どんな凄惨な場面に出会しても驚かないツバキの背筋が、ぞくりとした。


 ゆらり揺らめく巨漢は生者に見えない。けれど見開く目は光りを、爛々と放つ。睨まれた帝国兵は恐怖ですくみ上がっている。その証拠に、誰も向かっていかない。戦乙女システィアは命令を出すべきところを息を呑んでいる。


 もう意識がないのか。アルフォンスは自ら突っ込んでいく。たった一人で敵陣へ襲いかかっていく。


 戦闘は阿鼻叫喚を極めた。

 まさしく帝国兵は潰されていく。ぐしゃりとした頭部が量産されていく。だが生産を行う襲撃者も矢が刺したままの血まみれだ。どちらが屍死へ属しているか、わからない。


「おい、ツバキ。なに、ぼけっとしてやがる。さっさと姫さん連れて逃げろ」


 突如こいつだけには言われたくないヤツが怒鳴ってきた。状況を忘れて、むっとなる。弱気が吹き飛んだツバキは膝立ちで振り返る。


「なにを偉そうに……」


 途中で言葉だけでなく息まで呑んだ。


 頭から流す血で顔を染めているだけではない。所々甲冑は砕け、負傷の跡が見える。剣で突き刺された箇所は数えきれない。


「ツバキなら姫さんくらい抱えられるだろ。道はオレが作るから、行け」

「それよりヨシツネ様が……」


 そのままにしておいたら死んでしまう、とツバキが言うより早くだ。


「バカヤロウ、助けなきゃいけねー順番を間違えるな。もうツバキしかいねーんだ。ハットリもサイゾウもダメだ。ベルやキキョウもだ」


 残酷な事実の報告がツバキの足を動かした。地面に伏せったまま血を広げていくプリムラへ腕を伸ばす。


 その顔へ目掛けて、長槍が伸びてきた。


 ぐさっと抉った場所は甲冑が壊れた腹部だった。

 ヨシツネ! と助けられたツバキが、悲痛に叫ぶ。 


「……そういや、ツバキに呼び捨てされるの初めてだった……あれ、前にもなかったっけな」


 長槍に刺されたままヨシツネが可笑しそうに笑っている。

 長槍の柄を握る帝国兵にすれば薄気味悪くて仕方がない。思わず動揺から口走る。


「ええい、さっさと死ね。この叛逆者っ!」

「おお、いいね、それ。オレがどんなヤツだったか思い出させてくれるぜ」


 ヨシツネは刺さる長槍の逆輪を握った。にやり、今度は目にした者を震撼させる笑みを向ける。

 相手の帝国兵は必死に抜こうとした。けれど半死半生でありながらどこからそんな力が、と驚かされる。叛逆者と罵った相手が平気な顔してしゃべってくれば怖しい。


「オレはたまたまそこで生まれただけだ。あの掃き溜めみたいな帝都でいつ死んでもおかしくない生活を送りながら、思ったぜ。帝国は敵だってな。いつか潰してやりたいってな」

「なら、なんで帝国騎兵になった。初めから裏切る気だったなら、やはり叛逆者ではないか」


 帝国兵の正しいと信じた返答が執行の合図となった。長槍を左手で押さえたヨシツネは右手にした剣を振るう。首が宙を舞い、後を追うように切り口から血飛沫が噴き出てきた。


「正しいをてめぇの境遇だけに合わせてんじゃねー。少しは団長を見習え……」


 がくり、ヨシツネの膝が落ちた。背後ではアルフォンスの力尽きた気配が感じられる。自分の名を呼ぶツバキの声が遠くに聞こえた。


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