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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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15.漢、その最初の婚約者(念願は叶えても)

 決して怯懦から退いたわけではない。

 周囲の強い勧めに押されて仕方なくだ。指揮官に何かあっては任された兵団が瓦解してしまう。

 システィアは冷静に自身へ言い聞かせて、馬を後方へ走らせた。


 戦乙女は安全な場所へ! ここは自分らに任せてください!


 騎兵たちの声も聞こえてくる。率いる者たちの意思によって、私は下がっている。


 だから怖れてではない。


 なぜなら勇気ある行動によって、指揮する任を得た。闘神(とうしん)と呼ばれるまでになったユリウスの行手を塞いだ功績だった。武器も持たず素手で向かっていた姿を見た騎兵は感激が抑えられないようだ。武勇伝として口伝えで広まれば、その夜には念願が叶えられた。


 初の女性指揮官として兵団を与えられただけではない。ウイン皇弟に次ぐ権限まで与えられた。騎士団長に匹敵する采配可能な地位を手に入れた。


 立てた作戦も読み通りとなった。


 ユリウスは、ユリウスならば大元を叩きに突撃する。きっと帝国の陣形を押し分けていく。


 そこが狙い目だった。


 周囲へ目もくれず一直線に向かうユリウス騎兵団なら、いとも容易く後背を突けるだろう。戦端が開かれれば、あまり予想が当たりすぎて拍子抜けしたくらいだ。どんな戦闘集団でも速度に乗って前進しているところを背後から攻められたら対応しきれない。不敗で名高い元帝国第十三騎兵団をついに敗北させる栄誉は間近だ。


 そう思っていた。


 なんなのよ、あいつら! システィアは胸の内で吐き捨てた。戦乙女として表面は何もないかのように装う。が、内心では湧き上がる怒りが抑えられない。


 ユリウスの腰巾着くらいにしか認識がなかった。傭兵崩れに、貧民街出に、ハーフエルフとくる。なんでこんな連中と仲良くできるか、わからなかった。イザークを含めて五人が雑談するさまは、とても愉しそうだった。婚約者だった時分を思い出せば、疎外感を持たせるくらい揺るぎない仲間たちであった。


 なによ、とシスティアはまた胸の裡で怒気を吐き出す。


 戦略として完璧だった。絶対にユリウス騎兵団を瓦解させられるはずだった。

 なのに……なんで、あんなに強い。こちらはそれこそ湯水の如く兵を繰り出している。

 対して迎撃兵は千もいるかどうかだ。あっという間に呑み込んで然るべきだ。


 ところが悉く弾き返されている。


 ユリウスの騎兵団は考えていた以上だった。特に中心の三人は化け物じみている。システィアの姿が見えたら、わざとだろう。殺傷の仕方が残酷になった。帝国兵をただ命を奪うではなく、なるべく顔を潰すようになる。無惨に戦死するさまを敵の指揮官へ見せつけてくる。推測にすぎないとするには、剣戟のヨシツネと目が合った際だ。にやり、と笑われたような気がした。


 バカにするな、と怒鳴りたくなった。


 けれど背筋が一瞬ではあるものの、震えた。


 直後に後退を促す騎兵が寄ってくる。絶妙のタイミングだったから、従っただけだ。


 馬を返し、指揮官が本来あるべき位置へ向かう。陣の最奥を目指す。

 道を開ける騎兵の誰もが好意的な視線を送ってくれる。従うというより慕う感じだ。若い兵においては顕著に見られた。女だからと戦場に出させてもらえなかったが、今こうしてようやく叶えられた。しかも指揮する立場に就いてである。


 気分を持ち直せば、自分の役割りが思い出せた。


 笑みと檄を振り撒こうとしたら、目に飛び込んできた。

 馬上から見渡す騎兵の群れからある一人が目へ映る。目が離せなくなる。

 所詮は女だな、と蔑むように笑っているようだったからだ。

 もし許されるならその兵を引きずり出したい。問い詰めてやりたい。


 そんな暇があるはずもなく、手綱を握り馬を走らせ続けた。


 陣形の最後方へ辿り着き息を吐けば、また胸が騒ぎだす。

 これまでになく腹が立ってくる。何がなんでも、あの三人だけでなく、ユリウスの騎兵団を全滅させてやりたい。


 システィアは腰元に刺さった剣を抜く。

 一斉に攻勢をかけるよう高らかに命令を下そうとした。


 ぴくり、音を捉えて耳が動く。あり得ないとする方面だったから、仔細でも敏感に拾えた。


 騎乗のシスティアは反射的に振り向く。


 想像だにしていなかった事態が生じていた。


 黄色の国旗を掲げて騎兵団が向かってくる。

 背後を突いた帝国兵団の、さらに後ろを取られた。


 システィアは唖然とするも、たちまちにして笑みが浮かんでくる。ユリウスの騎兵団を討つ邪魔をされたにも関わらず、愉悦が口もとを象る。


 まだ王国の騎兵団に戦う気力が残っていたようだ。敗北を決定づける大失態を犯していれば、もう戦力にならないと踏んでいた。現にユリウスの騎兵団は味方の失敗を被るように決死の突撃戦を試みている。他に戦い方の選択肢がないほど追い込んだ張本人たちだ。


 王国騎兵団は自国を滅亡に導く自責の念から立ち上がれないだろう。

 どうやらその結論は早急すぎたらしい。


 王国も帝国の真似をして打ちひしがれた騎兵たちを奮起させた。


 男たち相手なら女がいい。

 精神的支柱なら、女神となれるような人物がいい。

 王女の身分が神秘性を与えやすいだろう。学識や教養がない男ほど、高貴な立場というだけで簡単に絆される。


 以前にこっそり窺ったことが役に立った。

 懲りずにまた婚約したユリウスの相手がどんなものか、見に行った。

 小さく愛らしい少女のような女性だった。それでいてどこか近寄り難いオーラも放っている。

 何よりシャンデリアのきらびやかさも霞ませる豪奢な黄金の髪が素敵だった。


 帝国兵団へ突進してくる王国騎兵団。先頭で馬を駆る女性は遠目でもわかる。ユリウスに皇帝の御前であっても、婚約者のためならば一歩も引かないとする態度を取らせた彼女だ。帝国中の話題をさらって、ユリウスの婚約者の中で最も有名となった。


 その女が黄金の髪をなびかせて向かってきている。


 システィアは自分自身でもよくわからないまま、込み上げてくる笑いを抑えきれなかった。 


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