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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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14.漢たち、戦乙女と相対す(怒ります)

 戦乙女(ヴァルキュリア)と共に! と、叫ぶ帝国兵は果敢だった。

 先ほどは及び腰だった傭兵を含め、一部の騎兵まで混じって襲いかかる。


 どうやら騎士団長の位置に等しいらしいシスティアの指揮下、進撃するユリウス騎兵団の背後を突く。


 迎撃はヨシツネとベルとアルフォンスが僅かな手勢で引き受けた。


「ずいぶんやる気を出しとるのぉ」


 笑うようなアルフォンスが左手の盾を押し出し、右手で棍棒を振る。今回は防御だけでなく攻撃にも出ていた。


 突っ込んできた敵の隊列の頭上をヨシツネは楽々と飛び越えた。背後へ着地するや否や長剣を繰り出す。血飛沫が上がり、ばたばた倒れていけば、普段の所作とは結びつかないかわいい顔に不気味な笑みを浮かべる。


 だが敵兵は多い。


 ヨシツネの背へ、猛然と帝国兵が迫る。剣を掲げて今にも振り降ろそうとした時、殺気に満ちた額は矢で射抜かれた。近くにいた帝国兵も次々同様な目に遭う。


「相変わらず、いい腕してるね〜、ベルは。助かったわ」


 お礼を欠かさないヨシツネに、ハーフエルフの弓手はまたまたーとした笑みで応える。


「僕の援護なんかなくたって、どうにかしたくせに」


 一方で帝国兵の一群が同じ向きを取った。一斉にベルへ襲いかかっていく。悪魔を殺せ! そう口々に叫んでいる。

 だが標的に近づくことさえ出来なかった。

 全身の骨が砕けるような盾と棍棒の打撃に、素早く追いついた剣によって首を刎ねられていく。


亜人(あじん)が悪魔などと、とても許し難いことを言うのぉ」


 のんびりした口調が癖になっているだけでアルフォンスは紛れもなく怒っていた。 

 

 二人ともー、とベルが笑いかけてくる。


「ここはこっちにやらせるところじゃないかな。言われたの、僕だよ」


 そう言うなって、とヨシツネはまだ息があった帝国兵の頭へ剣を突き立てた。


 四天(してん)と呼ばれるうちの三人は、まるで強さを誇示するかのよう応戦していた。


 けれども帝国兵は怯まない。戦乙女がついている、と唱えながら向かってくる。


 バカだねー、とヨシツネは揶揄を交えて呟く。


 信じた者のために戦う威勢のいい帝国兵だ。これまでとは打って変わって気迫に満ちた攻勢だった。にも関わらず、少数でしかない後駆(しりがり)に押し返されてしまう。ユリウス騎兵団の大半を総指揮官が詰める本営へ向かわせてしまっている。焦りがある帝国の騎兵を叫ばせた。


「なぜだ。どうして人間が亜人なんかのために戦う」


 ハーフエルフと肩を並べて陣取る相手に尋ねる内容ではない。バカバカしすぎるからこそヨシツネは普段以上にいつも通りとした。


「なに勘違いしてんだ。別にオレは亜人のために戦っているんじゃねーよ」


 多くの帝国兵に予想外だったためか、目に見えた動揺が走る。


 ヨシツネは手にした長剣を前へ突き出した。


「オレは帝国のお偉いさん方が気に入らねー。あいつら、自分ら以外のヤツは家畜ぐらいにしか思ってねーぞ。人種なんかじゃねー、自分ら以外は人を人として見てねーぞ、あれ」


 問いかけてきた帝国騎兵から返答はない。思い当たる節が大いにあるのだろう。ヨシツネの声が届いた範囲は明らかな停滞が見える。


 そこへ、だった。


 帝国の隊列が波を裂くように分かれる。兵たちが畏敬をもって通路を作る。


 馬上から、ややくすんだ金髪をなびかせてやってくる。銀の甲冑を着込む女性だ。濃青の瞳で敵対者を睥睨する。右手にした剣を振り上げては、さながら戦神の態で朗々と宣言を響かせる。


「人間の誇りを失ってはいけません。尊厳を忘れてはなりません。人間があらゆる種の上に立ち亜人を律した社会とすれば、いずれの困難も解決されるでしょう」


 なに話しをすり替えて……、とヨシツネは叫び返しかけた。


 が、大きな歓声によってかき消されてしまう。

 そうだ、我らは人間だ、亜人とは違う!

 戦乙女システィアの一声で疑問から戦意へ引っ繰り返った。


 熱狂で包まれる帝国兵に、ベルはやれやれと味方へこぼす。まるで信徒だね、信じるだけで考えることをやめている。


 戦いの女神よろしくとする声が再び聞こえてきた。


「ユリウスは今や、かつて闘神(とうしん)と呼ばれた強き武人ではありません。恩を忘れ、信義の心も持たない。亜人を同列などと捉えた時点で、人間の矜持を失っています。多くの者を謀ることに長けた叛逆者です、ただの卑怯者です」


 だから怖れることなく向かいなさい、と最後に号令をかけた。


 おおっー、と一斉に帝国兵が挙げた。やる気を取り戻せば、けしかけられた犬のように襲いかかる。

 より人数が増え、気持ちが乗っていた。


 ユリウス騎兵団の後駆は以前に比べ苦戦の態を為す。


 けれども突破は出来ない。


 つまり帝国兵は目的を叶えられなかった。

 ユリウスと共にある騎兵たちは前進を続けている。


 戦乙女システィアの檄が飛ぶ。

 それに応えられない帝国騎兵のある一人が、またも叫ぶ。


「なぜ、なぜだ。ヴァルキュリアの下で振るう我らの剣が悪心に取り憑かれた者どもを打ち破れない」


 斬り伏せながらヨシツネが大声で返す。


「あったりめーだろ。のこのこ後からやってきた女に戦う気持ちを上げてもらっているようなおまえらが、オレたちに敵うわけねーだろ」


 そうそう、とベルも一遍に五本の矢を放ちながら叫ぶ。


「僕らはとても怒っているんだ。僕らのユリウス団長を卑怯者呼ばわりされてね。冗談じゃない、君たちなんかに負けられないと思っているよ」


 ふぉっほっほ、とアルフォンスが盾と棍棒で殴りながら笑ってくる。


「お主ら、人間だけなんてもったいないのぉ。亜人に好い女がいたりするのにのぉ」


 これには敵方より味方のほうが反応した。まさかの人物よる意味深な匂わせ発言である。これはもう後で追求したい。


 なんだかんだ四天の三人が指揮する後駆は気持ちが乗っていた。敵に打ち破らせなかった。いつの間にか、趨勢が変わりだした。


 帝国兵は粘りきれない、押し返されだした。


 おやおや、とヨシツネは思うままを口にする。


「ヴァルキュリアという息巻いてた団長の元婚約者、いなくなっているじゃねーか。後ろへ下がったのか。ちょっと危なくなったくらいで」


 まさかな、とするニュアンスを含んでいたが、そのまさかだった。


 ある騎兵に先導されるまま戦乙女システィアは退いていた。


 陣形の最後方へ辿り着いたところで、新たな波乱の幕開けとなった。 


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