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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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12.漢、単なる励ましでなかったと知る(順調です)

 ユリウスとしては正直、首を差し出しても良かった。


 この戦いは砦門(とりでもん)の死守が絶対条件だった。四十万という人数を倒し切れるはずもなく、補給がままならなくなるほど財政的に追い込むほかない。勝利とするまでの道のりは長く苦しいものになるだろう。


 帝国は兵団の構成において疑問符がつくものの、侵攻は本気であった。現にディディエ卿を討ち、エルベウス地方の掌握を果たした。


 残りの目的が息子のユリウスを葬るだけ。ならば、これ以上の戦禍を防ぐために我が身を引き換えていい。


 けれども頑と伝わってくる。

 イザークとアルフォンスにベル、ヨシツネの四人だけではない。率いてきた騎兵の全てが、戦う姿勢を崩さない。むしろ勝手に止めるなよ、と口にはしなくても態度で告げてくる。


 最後まで戦うしかないか、と腹をくくれば、いろいろ思いつく。


 帝国が『元とする帝国兵』を許すはずはない。裏切り者には制裁だろう。少なくとも敗戦濃厚ゆえに望む講和の条件へ配慮が働くはずもない。

 ユリウスの騎兵たちが死すなら処刑場より戦場を選ぶは当然だった。


 それに何よりプリムラのことがある。 


 帝国侵攻兵団の総指揮官ウイン皇弟は婚約者がいると承知しつつ彼女に迫った。当たり前が通用しない、それが権力者という連中である。特に生まれた時から与えられる一方だった人物にその傾向は強い。何でもかんでも我が物にならないと駄々をこねる。こねれば、叶えられてきた。女性に関しての噂は悪いものばかりだ。人妻でさえ気に入ったら愛妾とすべく手を尽くすらしい。そして大抵が成功を収めれば、失敗などあり得ないとする思考で固まったようだ。


 現在の状況なら、ウイン皇弟が休戦の条件としてプリムラを望むかもしれない。戦利品とされた女性が、どういう扱いを受けるか。想像するだけで身体中から憤怒が吹き上がりそうだ。


 結果的に敗北で終わろうとも、せめてウイン皇弟だけは討ち取っておきたい。後のことを思えば、こいつだけは道連れにしておきたい。先に逝った義理父の敵討ちではないが、顔向け出来るような気もする。


 やや弱気も過ったユリウスだったが敵陣へ突撃する時はすっかり気を取り直していた。


 戦端を開いてしばらくすれば、イザークへ謝りたい気分になる。

 戦闘前にした口舌は味方を鼓舞するために行ったと思っていた。

 ところが、ちゃんと解析した結論を述べていたにすぎなかった。


 ユリウスの騎兵団は帝国が敷く陣形の奥深くまで突入していた。

 あっという間だった、と言えるくらい短時間で進入を果たしていた。

 うおぉおおおー、とユリウスは気合充分で先頭を走る。すると前面の敵陣は驚くべき行動を見せた。向かってこないだけではない。退きだす始末である。


 まったくイザークの指摘通りだった。

 その僚友が傍で長槍を振いながら、まるで諭すようにこぼす。


「だから傭兵だけに任すなどしてはならない。せめて帝国騎兵を監視役として配置すべきだ。これは戦場どうこうではなく組織を運営する上での常識を忘れている」


 そうだな、とユリウスはつい笑いそうになる。


 帝国の陣は単純と評せる縦列だ。総指揮官ウイン皇弟は前に四十万の人壁を作った。材質と呼べる兵の構成は傭兵から始まり、内へ向かうほど騎兵が占めるようになっている。前者が全体の半分以上であれば、中段までは、やすやすといけた。


 黒い騎兵服の騎乗者が視界に混じるようになると、少し様相が変わった。指示のみに徹する騎士団長が馬の上から叫んでいる。


「我らには戦乙女(ヴァルキュリア)がついている、闘神(とうしん)相手でも怖れる必要はない。亜人を人間と同等にしようなどと愚考に憑かれた輩であれば粛清するのだ」


 おぅ、と帝国騎兵の間から歓声にも似た応答が起きる。敵兵自ら避けてくれていたみたいな進撃が、ここに至り向かってくるようになった。


 もっともユリウスの騎兵団が怯むことはない。


 ようやくかよ、とうそぶくヨシツネは一人を斬り伏せながらだ。


「いつからおまえら賢國(けんこく)へ鞍替えしたんだ。ま、どっちもオレにすれば同じようなもんだけどな」


 亜人めー、と剣を振り上げた騎兵の目が矢で射抜かれた。放ったばかりとする姿勢のベルが困ったもんだとする感じで言う。


「聞き捨てならないことを言う奴には残酷でいくしかなくなるなー」


 そこへ、ふざけるなーと騎兵が突進してくる。亜人が偉そうに言うな、とベルへ槍を突き出そうとしている。むんずと後ろから頭をつかまれた。攻撃どころではない、足が宙に浮くほど持ち上げられていく。


「いかんのぉー。お主も亜人に恋すればいいのぉ、そうすれば誰もが一緒だと考えられるようになれるものだのぉ」


 ふぉっほっほ、とアルフォンスが片手で大の男を持ち上げる怪力を発揮しつつも優しく諭す。

 残念ながら相手にはちっとも届かなかったようだ。


「人間が亜人になどと穢らわしい。亜人の価値など人間の欲求に奉仕する程度のものだ」


 次の瞬間、ぐしゃりと鈍く響いた。滴る鮮血と共に、どさり、身体が落ちていく。柘榴が潰れたみたいな顔下半分だけになった騎兵の屍体が転がった。


「いかんのぉ、こういう人間は本当にいかんのぉ」


 涼しい顔でアルフォンスは頭部を失って転がる屍体を見下ろす。盾を持たない右手は真っ赤に彩られていた。

 見せつけるような所業だったため、帝国兵の熱狂は一部分ながら冷めていく。圧倒的な力による残虐さが、使命より己の命を大事にしたい気持ちを呼び起こしたようだ。


 帝国騎兵の間に動きの鈍りが見えた。


「ユリウス、一気にいくぞ。間違っても勝利の気運を相手に渡すわけにいかない。渡したら他の、特に傭兵が面倒になる」


 冷静にイザークが意見してくる。


 わかっている、とユリウスは返した。自己犠牲に無縁な傭兵だからこそ、報奨金に結びつく手柄を欲する。相手の敗北が確実の段階にきたら、これまでの及び腰が嘘のように攻めてくるはずだ。ユリウスを初めとして莫大な額が支払われる賞金首は多くいる。


 帝国兵の半数以上を占める傭兵がその気になる前で目標の人物を討つ。

 叶えられそうな雰囲気がユリウスの騎兵団に漂いだした、その時だった。


 勝利などあり得ないと嘲笑うかのような事態が起こった。

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