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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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9.姫、聞きにいく〈後編〉

 ユリウスが戦場へ出て以来、プリムラはずっと動きやすい格好をしている。

 着飾りはしない。今宵は緑を基調とした平服に準じた服装だ。ユリウスが帰還と聞いて、おしゃれを考えないでもない。でも結果は過酷なものときている。王国騎兵団の暴走によって、戦況は最悪と言っていい。


 控え目に色味だけで狙ってみた。かつて帝都で同じ屋根の下としていた時期に、森の妖精だと感激してくれた緑をもって固めてみた。


 王国へ帰還したユリウスに休む暇はない。もはやグラジオスは単なる門で、砦の機能を果たしていない。当面の守りを固めたうえで、次の戦いへ備えなければいけない。最初の婚約者が登場に惑い、帝国の総指揮官を打ち損ねた悔悟もあるだろう。

 プリムラの姿に感激する余裕さえなかったようだ。いつもなら必ずしてくれるのに。


「プリムラ王女ならお分かりいただけるはずです。自国を守りたいとする我らの心を、暴虐な侵攻を目の前にして自国の兵団が大人しくなどしていられません」


 相手が黙っていることをいいことに、いやただ無反応に耐えられなかっただけかもしれない。まだ三十歳手前で騎士長まで昇り詰めたヘクター騎士長だ。異例の早さで出世しただけあって弁舌が回る。失敗に対し、しゃべることで安心を覚えている。自分だけに向けた言動だから、相手の感情を害すことおびただしい。


 プリムラは殺意さえ湧いた。ついツバキへ命令しそうになる。

 踏み止まれたのは、ユリウスが浮かんだからだ。


 本来ならヘクターは処刑ものだ。ユリウスはまだしもイザーク辺りが許さないだろう。けれども責さえ問わない。現状、戦力として欠くわけにいかないせいだ。それだけ王国側は窮状にある。


 キキョウの報告によれば、ヘクターの騎士長としての是非はともかくだ。戦いぶりは文句の付けようがない。王国騎兵団は全体として脆くても、騎兵長とその周囲は勇敢に立ち向かっていた。戦闘技術も帝国兵に決して劣っていない。戦力として数えていいくらいの強さは持っている。


 ただプリムラからすれば意味のない口上にこれ以上は付き合いたくない。言い訳など聞きたくない。さらにいつかユリウスの騎兵団も負けるなどと言い出されたら黙っていられない。ヘクターへ蔑む目つきを向けて、ぴしゃりと言う。


「いい加減にしなさい、ヘクター騎士長。貴方の判断の誤りから生じた王国騎兵団の失敗で、我が王国は敗北するのです。そこに間違いはありません」


 本当はヘクターもわかってはいただろう。だが事が重大すぎて認められない。認めたら精神が保てない。し、しかし……、と反駁しかける。悪あがきをやめられない。


「出立前のユリウスさまとイザーク様から、今回の戦略意図を説明されていたはずです。聞いていないとは言わせません、ヘクター騎士長!」


 その華奢な身体から、どうしてそんな力強い、とする声が発せられた。プリムラは相手をたじろがせる迫力で糾弾する。


 がっくり、ヘクターは肯定の頭だけでなく肩まで落とした。すっかり観念した。そう確かに、ユリウスらと打ち合わせている。


 この戦いは大きく開いた戦力差から、王国が防戦一方でしかなくなる、帝国の攻勢にひたすら守勢に回るだけと誰もが予想するだろう。


 けれど見方を変えればこの戦い、王国が耐え切ったら勝ちなのである。


 かつてない兵の動員が帝国の財政を圧迫することは目に見えている。現に帝国の友好国とされるアドリア・ビュザン・トラークーの三公国に莫大な資金と物資の援助を要請ではなく強制している。対等とするグネルス皇国まで武力をちらつかせて物資の提供を求めるほどだ。


 帝国は今回の侵攻において戦費が追いついていない。長引けば財政的に無視できなくなる。戦況全体が見渡せられる者であれば、砦門の攻略は早急を要すことに気づく。

 帝国は先端を尖らせた大きな丸太を積んだ車、通称『破砕車』を多く用意していた。また高所車もかなりの数を準備する。乗り越える機会まで窺っている。


 ならば砦門から気を逸らす戦い方をしたら? 予定しない戦いを強いられた帝国の戦線は王国領土の侵攻に対して滞る。長期戦への道筋が開く。


 これはディディエ卿がイザークと歓談した際に披露した戦略だ。だが決して簡単なことではない。連戦連勝の影に隠れているが、砦門にこもるより外から仕掛けていくやり方は遊撃騎兵団の壊滅の危険性を含む。


 ユリウスの騎兵団は連勝で応えてみせた。


 さっさと落とさなければならない砦門を放って一ヶ月以上になる。失った兵数に対し、また補充をかけている。さらに戦費を圧迫していれば、財政的な理由で侵攻を諦めるしかなくなる日が近づく。


 良くて一年、早ければ半年で帝国は根を上げるとユリウスたちは見立てていた。侵攻という遠征は四十万以上の兵を支える医療や雑務などの支援員を含めれば五十万近くの人数になる。経験ないだけに計算できない出費の部分も多いだろう。


 帝国が立ち行かなくなった時期に講和を持ちかける。ハナナ王国リュド王自らその節はそれなりの土産を持たせてやればいい、と政治的バランスの優れた約束をしてくれた。しかもユリウスが王を継いだら、帝国もおいそれ抹殺といかないだろう。ユリウス王の存在は亜人迫害に対する抑止力にもなりそうだ。他地域への侵攻も財政的に当分の間は難しいはずである。


 とても良い方向へ進んでいたのに……と思えば、プリムラは頭が熱くなる。


 どうしてここに住む者たちは自分から愛すべき人を取り上げようとするのか。

 母といい、この騎士長といい、自分の大事な人へ敵意を抱くのか。排除に努めようとするのか。


 この後、ユリウスは八千にも満たない騎兵で、総指揮官を討ちに出る。ウイン皇弟の首を上げれば帝国兵団は混乱を来たす、と見た。王国側としてはその一点しか活路を見出せない状況なのであった。四十万を数える兵が敷く陣へ突破かけて向かう。


 いくらユリウスの騎兵団が強くても、プリムラには無茶としか考えられない。


 だが現時点の講和となれば、帝国は間違いなくユリウスの首を所望する。四天の四人を始めとする騎兵たちは、そんな条件など受け入れるくらいならば命がけで無謀へ挑むほうがずっとマシだと考えている。


 ここまでユリウスたちを追い込んだのは、王国の者たちだ。


 そしてプリムラに追い込んだ側の人間とする自覚がある。助けてもらうばかりで報えないうちの一人だと自責の念が絶えない。


 ヘクター騎士長! とプリムラは再び強く呼ぶ。


 は、はい……、とヘクターは返事しながら自然と片膝を着いていた。頭も垂れている。


「これから貴方たち王国騎兵団はわたくしの麾下へ就くこととします。反論は受け付けません。良いですね、これは命令なのです」


 返事はなかった。する必要がないほど、有無を言わせぬ王女の下知であった。


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