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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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8.姫、聞きにいく〈前編〉

 プリムラは向かった先で嘆息を吐いた。


 生まれてこの方、戦場はユリウスに付いてでしか行ったことがない。婚約して、帝都に残しては危険とする状況になったため随行したきりである。

 初めて目にする血生臭い光景を怖いと思わなかった。きっとユリウスがいたからだろう。今もその考えは変わっていない。


 けれどここに至って、気がついた事柄がある。


 ユリウスや四天(してん)の四人だけではない、率いられた騎兵の全てが勇猛だった。龍人(りゅうじん)兵に同数で挑み、対等な戦線を展開できる果敢な戦士であった。だからプリムラは安心していられた。


 自国の騎兵団を前にして、つくづくそう思う。


「プリムラ王女、我々の行動は間違いだけではなかったと思います」


 ヘクター騎兵長は未だ言い逃れしようとしている始末だ。


 呆れすぎてプリムラは声すら出ない。ため息を吐くだけである。


 戦さもなく、多くの人種が集うハナナ王国。二人の異世界人による知識と技術をもって、食糧生産と医療が飛躍的に進歩した。大陸全体などと視野を広げず一国に限れば、ここに幸せがある。住人へ、なに不自由ない生活が与えられている。


 けれども人は人である限り、不満から逃れらないのか。世情が落ち着くに従って世代間人種間で対立が起きてくる。日に日に大きくなれば、近頃に至っては由々しき事態まで発展した例もあるようだ。王国内に不平がこもっていく。


 閉塞感はやがて、囲われた平和を嫌だ、とする意見を挙げさせた。騎兵長が公言はしなくても支持する姿勢を見せれば、鎖国へ疑問を唱える声は徐々に広まりつつあった。


 帝国の宣戦布告は現在の施策に異を唱える者からすれば好機と映っただろう。


 特に功績を挙げたい王国騎兵団にすれば絶好の機会だ。だから敵の攻勢がなく砦門(とりでもん)に詰めるばかりで、打って出たユリウスの騎兵団が連戦連勝している報に焦れた。自分達も、となったに違いない。


「いくら高名であろうとも外から来た者たちばかりに活躍されては我々としても立つ瀬がありません。王国民に自分たちの騎兵団も決して指を咥えて見ていただけではないと知らしめられたはずです」


 黙っているプリムラにヘクター騎士長は耐えられなかったのだろう。自ら砦門を開放した証左とする発言をしてくる。


 返事がなければ、篝火の爆ぜる音はやたら大きい。


 近くに王国騎兵団が集っている。けれども一声すら立たない。まるで息を殺しているかのようだ。自身の存在を消したいみたいに。長き道程を疾駆してきたユリウスの騎兵団より、疲弊しきっていた。身体もさることながら精神的が大きいのだろう、とプリムラの傍らにあるツバキは推察する。


 彼らにとって初めての戦争だった。そして、現実を知った。


 プリムラ王女、我々は……、とヘクターが再び話し出しかけたところを、プリムラは手の仕草で止める、誰の目にもはっきりわかるほど、うんざりと顔に描いている。だがここへ目的あってやってきている。確認すべき事項は多々ある。


「ヘクター騎士長。王国の騎兵で戦える者はどれほど残っていますか」


 別に難しくないはずだが、ヘクターは言い淀んでいる。やはり良くない内容のせいだった。

 ようやく回答された数は、三千人に届くかどうか。王国騎兵団は八千人いたはずだ。半分にも満たない。


「それだけの戦死者や負傷者が出たということですか」


 想定外すぎてプリムラの問い合わせは強くなる。


 ヘクターが声を潜めて答えるところによれば、だ。

 死傷者は三千人に及んだらしい。奇襲をかけた側が見事に返り討ちされる光景をありあり浮かべさせる数だ。半日もしないうちに王国騎兵団は三分の一以上の戦力を削られてしまった。帝国兵の王国領土への侵入を許すわけである。


 比べてユリウスの騎兵団は敵陣を突破ながら、死傷者が千もいかない。いくらウイン皇弟の保身に走った命令で助けられたとはいえ、かなり少ない。優秀さが際立つ撤退であったから、王国騎兵団の無様さは浮き彫りになる。


 だが本当の衝撃はこの後に待っていた。


 単純な引き算ならば、王国騎兵団の残りは五千であるはずだ。


「……二千が……戻ってきません」


 ヘクターがとても小さな声で答える。どうやら王国内に侵入した帝国兵の追跡へ出たきり帰ってこない者が続出しているらしい。


 憚りなくプリムラは嘆息を吐いた。


 ここまで至っても王女の態度が癪に障るのか。ヘクターがやや息を吹き返したように意見してくる。


「確かに我々王国騎兵団は敗北を喫しました。けれどもそれはユリウスの騎兵団も一緒でしょう。いずれ連勝は止まったはずです」


 烈火のごとき怒りがプリムラを包んだ。


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