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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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6.漢、言い訳を聞く(事態は深刻だけれども……)

 ともかく、なぜだ? と問うしかなかった。


 ハナナ王国内にて砦門(とりでもん)を背にユリウスは事の次第を求めた。

 四天(してん)の四人に騎兵団の全員もいる。別に威嚇でずらり揃えたわけではない。いつ何時、帝国兵団が攻めてくるかわからないからだ。砦門の通路に置かれた障害物は簡単なものだ。応急処置でしかない。


 何より本来なら詰めているはずの王国騎兵団がいない。


 ユリウスの騎兵団は守りに就くしかなかった。とにかく王国騎兵団を探し出し、事情を訊くためハットリ以下何人かを放つ。


 陽が西の地平へ差し掛かりだした頃、ヘクター騎士長を先頭にハナナ王国騎兵団が戻ってきた。


 聞きもしないうちから、王国内に侵入した帝国兵を追っていたと言ってくる。敵はもういない、と断言もしてくる。この後に、ゼノンがレオナを負傷させている。帝国兵による王国内突入のどさくさで紛れ込んでいたに違いない。報告は嘘だったとは言わないが穴だらけだであった。


 何より問題なのは持ち場を離れたことだ。ここだけは突破されてはならない砦門を放り出して敵を追うなど言語道断である。現にヨシツネを筆頭に背後で控える騎兵に憤りが渦巻いていた。


 指揮するユリウスと言えば、大きく息を吐いていた。嘆息か、それとも気を落ち着かせるための深呼吸か。ともかく問う声は普段より低い。


「なぜだ、なぜ自ら門を開けた」


 砦門の扉へ続く通路を塞いでいた障壁物は綺麗に取り除かれていた。無理やりこじ開けるような侵入しかない外敵が出来ることでない。


 返答は王国騎兵団を統括する者がする、というか、するしかない。


「我々は王国を守るべき行動に一点の曇りはない。自国の兵団こそ動きべきだと考えたゆえだ」


 声の張り上げが虚勢と知れるし、何よりきちんと答えていない。具体性ではなく精神論に逃げていれば、ごまかしが如実すぎる。


 うむ、とユリウスが一つ唸っては珍しく黙り込む。呆れたようにアルフォンスは顎髭を撫で、ベルはため息を吐く。バカじゃねーか、との台詞が喉まで迫り上がってくるヨシツネの前へ立ったイザークは顎に手を当てている。


 五人とも大体の事情は察しがついた。


 ユリウスの騎兵団が連戦連勝の報に、王国騎兵団は息巻いたのであろう。一向に攻められない砦門の守護であれば功績は上がらない。我らこそ国の防衛の要と存在感を出そうとした。


 功を上げることに先走れば見立ては甘くなる。実戦経験なしの兵団だからこそ、机上にすぎない考えで行動を開始する。要は敵を舐めて、こちらからわざわざ門戸を解放して打って出た。帝国騎兵団は賢國(けんこく)と長き戦争状態にある。傭兵は戦いを生業にする荒くれ者だ。味方同士の模擬戦がせいぜいの騎兵が挑んだところで、結果は火を見るより明らかだ。


 ユリウスたちが帝国に所属していた頃も、真実(ほんとう)の敵は味方だったとする経験をしてきた。王国に来ても変わらなかったようだ。しかもこちらはタチが悪いことにかなり無能とくる。敗北した挙句に帝国兵の侵入を許してしまい恐慌をきたした点を考慮してもだ。砦門を放っぽり出していくなど、どういう了見か。頭が痛いではすまない話しだ。


 ふんっとユリウスが鼻で息を吐いた。気合いを入れました、とする感じが伝わってくる。熊かゴリラが愛嬌を振る舞っている様にも映る。


 気を取り直した姿を見せてきた。


 イザーク、とユリウスの呼びかけに、槍使いであり騎兵団の頭脳でもある人物が背筋を伸ばした。


「わかっている、ユリウス騎士団長。どうするか考えるとしよう。取り敢えず敵の侵入に備えて砦門前で陣を張りつつ話し合うとしよう」


 背が高いうえに声がいつもより大きい。聞かせるよう発している。ユリウスの騎兵たちが落ち着いていく様子に意図の成功が窺えた。


 ユリウスたちが移動を開始しようとした時だ。


「ま、待て。何を勝手に動こうとしている」


 王国騎兵団騎兵長ヘクターが右腕を伸ばす。足は一歩も動いてはいない。


 背を見せかけたユリウスが向きを戻す。きちんと顔を合わせて言う。


「我々は必要最低限を行うだけだ。それよりヘクターよ、おまえはしなければいけないことがあるだろう」

「な、何をすることがあるというのだ、我々が」


 わからないから憤って見せるヘクター騎士長に、ヨシツネはおいおいとばかりの言葉を口にしかけた。

 それより先にユリウスが冷静に意見する。


「ヘクター騎士長は自分が指揮する騎兵団の現状を把握すべきだろう。見ただけで通常から遠い状態だとわかるぞ」


 返事はなかった。指摘されたほうも自覚があるのだろう。

 騎士長に従う騎兵数が極端に少ない。王国内へ侵入した帝国兵を討ちにいったとしても、そろそろ戻ってきていい頃だ。そもそも大きな混乱は起きていない。ユリウスが捕縛した帝国兵の証言によれば、ウイン皇弟を守れとの帰還命令が出ている。急ぎで、だ。ゼノンのような潜伏を目的した侵入者でなければ留まりなどしない。一時的なものかもしれないが、王国は平静を取り戻している。


 立て直すなら今だ、とする時間だ。


「俺たちは砦門の通路前にいる。王国騎兵団が原状回復したなら、話し合おう。これからの作戦を考えなければならないからな」


 そう言い残してユリウスが今度こそ踵を返す。

 大剣を提げる頑健な大きい背中へぶつけるようにヘッセンが叫んだ。


「ユリウス、貴方が来なければ、王国はこんな目に遭っていなかった」


 名を呼ばれた(おとこ)の足が止まった。ビクッと震えたようでもある。

 微かに見せた反応をヘクターは見逃さない。


「聞いていますよ、帝国が我が王国へ侵攻した本当の目的を。闘神(とうしん)ユリウスの討伐であったようではありませんか。我々王国はそれに巻き込まれただけだ」 


 てめぇ、とヨシツネの堪忍袋の緒はついに切れた。言うに事欠いてわけわからないことをよー、と腰に差さった剣を抜く。


 周囲にいた騎兵は止めなかった。


 イザークは立場上から間に入った。


「やめろ、ヨシツネ。あれでも味方だ。それに今は争っている場合ではない」

「でもよぉー、イザーク。てめえらで散々やらかしておきながら、さすがにあれはねーだろ」

「確かにヨシツネの言う通りだ。自分の失敗を糊塗すべく他人に責を負わせようとする。どこにでもいる手合いだ。特別なことではない。それにこういう人物には共通の特徴がある」


 いきなりなんですか、とヨシツネは怒りより警戒が条件反射で働く。長年共にしてきたせいで、この同僚がユリウスとまた違う面倒を起こすような気がしてならない。


 ヨシツネの野性とする勘は正しかった。


 ふふふ、とイザークが怪しげに笑う。王国騎兵長へ顔を向ける。


 古くから人物像を知る者に限らず、初めてとするヘクターですら気づく。

 こいつ、変な感じで入っていないのか、と。


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