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68.漢、姫の心情を理解す(次の行き先も決まる)ー第4部・了ー

 か弱き女性が男性に助けを求めた際の見返りといえば……。

 しかも相手はプリムラに懸想していたカナン皇王である。


 懐へ手を差し入れたハットリを、ベルが見咎めた。


「なに、する気だい?」

「あいつ、許せないよ。姫様の弱みにつけ込んでさ。二人がどれだけ想い合っているか知ってて、これだよ」

「皇王に刃を向けるだけでも相応の覚悟が必要なんだけどな。殺すなんてなったら、大変なことになるよ」


 暗にベルは止めているのだが、通じないどころではない。ハットリは日常会話のように苛烈な内容を口にする。


「殺しなんてしないよ。ただ男としての機能を失くしてやるだけさ」

「いいんじゃねーか、それ。オレも協力できることがあったらするぜ」


 いつの間にかヨシツネが横へ来ていた。

 おい、とベルが顔をしかめる。まさかの支援の名乗りである。


「いいだろ、ベル。いろんな姉ちゃんと遊んできたオレでも、さっき団長と姫さんが抱き合う姿に感動してたんだぜ」


 敵を退けたユリウスの下へプリムラは戻るなり飛びつく。しっかり抱擁する二人は背後に広がる海の風景が誠によく似合った。絆そのものとする姿であった。


「そうだね、うん、そうだった。それに何よりもユリウス団長の幸せを守らなくちゃいけないな」


 思い出すようなベルの口振りだ。


 プリムラ、約束を守ってもらうよ! とカナンの甲高い声が聞こえてくる。


 ハットリとヨシツネにベルは気迫を全身にみなぎらせた。


「カナンよ、我が婚約者プリムラに何を求めた。教えろっ!」


 ユリウスが問いかけるなか、戦闘体勢に入った三人は今にも飛び出しそうだ。


「よく聞くがいい、ユリウス騎士(ナイト)! プリムラはこのカナン・キーファを……」

「我が婚約者がなんだというのだ、恋敵(こいがたき)カナンよ」  

「嫌いではなくなったのですよ、私を」


 ハットリとヨシツネにベルは攻撃より疑問が先に立つ。嫌な予感も走ってくる。

 予感は負の面のほうが当たるものである。


 にやり、カナンは笑う。


「プリムラは我らグネルス騎兵団の助力を得られるならば、私に対する嫌悪感を取り下げることも厭わないとしてきました」

「まさか恋敵カナンよ、それを……」

「ええ、快諾されましたよ。おかげで私はもうプリムラに嫌われていません。そういうことです」


 ははは、とカナンはユリウスの影響をもろに感じさせる高笑い上げた。


 ユリウスは腰にしがみつくプリムラの肩を抱いた。


「辛かったな。プリムラを好きと言っておきながら下半身は別物とする男など嫌って当然だ。それを俺のために……すまん」

「わたくしはユリウスさまのためならば、どんなことにも耐えられます。女の仇敵みたいななどうしようもない男に対してでも、嫌いじゃないと言えます」


 ユリウスは片腕でプリムラを抱き上げる。じっと痛ましいとした目を向ける。

 

「我が婚約者プリムラは素晴らしい女性だ。これだけは断言できる」

「わたくしはユリウスさまのためならば、どんな苦痛にも耐えられます」


 それから、ひしっと抱き合った。


 横ではカナンが上機嫌だ。プリムラに嫌われていないことになったぞ、と誰に言っているのか不明だが、叫んでいる。


 なんかよー、とヨシツネが不貞腐れたようにこぼす。すでに剣の柄から手は離れていた。


「うちの団長ってなんていうか、周りを巻き込む影響力あるよな。だんだん阿呆にさせていくというか、なんていうか」

「ユリウス団長に感化されるよね。姫様なんて最初は神秘的だったんだけどね」


 ベルも嘆息混じりの苦笑いを浮かべてくる。


 懐から手を抜いたハットリが続く。


「アホなカップルで割り切るしかないよ。それよりボクとしては、カナンという人みたくだけはなりたくないなぁ〜」


 口調は辛辣さより切実さが際立つ。

 それにヨシツネとベルは大袈裟なほど首を縦へ落とした。


「良いこと言うな。俺もあの皇王のようには間違ってもならねーぞ」

「たぶん指導者としては立派なんだろうね。でも私人としてあれでは、まともに送れなさそうだ」


 三人は顔を見合わせた。申し合わせたかのように、ふっと微笑する。身の破滅さえ覚悟したついさっきの自分たちを忘れたい、そんな表情を交わしていた。


「ユリウスー!」


 突如、この場にいなかった者の声が空から降りてきた。

 ただユリウス一行が知る声だったので慌てない。

 たいそう驚いている魚人たちと共に、仰ぐ。 


 プリムラを腕にするユリウスも、からりとした声で応じる。


「おぅ、レオナ。久しぶりではないか。いったい今まで何してた」


 名前を呼ばれた翼人の女性は答えない。背中の翼を羽ばたかせて、急降下してくる。

 顔が見えれば答えないのではない、答えられないのだと判明する。


 レオナの頬は泣き濡れていた。


 どうした、とするユリウスの胸へプリムラがいるにも関わらず飛び込んでいく。

 レオナはユリウスとプリムラに抱きつく格好となる。少々無理な体勢であったが気にもかけていないようだ。涙ながらある事実を絞り出す。


「里の……翼人が……どんどん……死んでいっちゃったよ……」


 ユリウス一行が次に目指す場所は決まった。

*感謝と次回予告

 ここまでお読みいただいた方々へ、厚くお礼を申し上げます。

 書き上がり次第、更新を致します。クライマックスへ向けていきます。でも次で終わるかどうかと問われれば……今後も引き続きお付き合いいただけると嬉しい限りです。

 どうぞこれからもよろしくお願い致します。

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