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43.漢、海の向こうを見る3(方針を決めます)

 ユリウスが呼ぶまでもなかった。

 ささっとベルだけでなくグレイも丘の先端へ走る。人間より視覚が優れているエルフである。特に前者はハーフエルフながら純粋種に勝る。


「人数は……そうだな千くらいかな」


 帆を張った大型の丸木舟であれば、積載状況は一目で判別できる。


「なんだー、その程度ならオレらでやってやれるじゃーねか」


 ヨシツネののんびりした声に、ベルは厳しさを滲ませる。


「ハリアの言う通り、騎兵らしき者には馬が割り当てられている」

「別に馬くらい良くねーか。馬に乗って戦うのが得意なんだろ」 

「こっちにはいない馬の体格なんだ。それにあれは……」

「なんだよ」

「馬そのものが武装している」


 戦い方の相違は想像以上に開いているようだ。


「数で計っては痛い目を見そうだ。相手の実力も全くと言っていいほど掴めていない」


 イザークの分析に、ユリウスはうなずきつつハリアへ向く。


「ムートがキバ一族を使って他国へ侵攻を開始するまで、どれくらいかかりそうだ」

「予定よりずっと早い海流の変化です。正直、期間はわかりかねます。ただ常に潮目は気にかけなければならない状況下ですから急ぎはするでしょう」


 長ければ第二弾第三弾とキバの騎兵を乗せた船団が上陸を果たす。仮に今回限りとしても、デボラにすれば想定内だろう。各国の騎兵団に相当する役目を任せ、さらに傭兵を加えて戦力の充実も図る。

 兵力が整ったら、ハナナ王国へ攻め込む。


「ただしユリウス様たちがムートから傭兵を追っ払った直後です。もしキバ一族に追加の渡航がなければ、他国の侵攻まではかなり時間を要すはずです」


 ハリアの長い説明と見解が伝えられた。

 今はそれに基づき今後を検討するしかない。

 顎をつかんだイザークは考えつつとした態で述べてくる。


「だがハナナを攻め入るには、渓間の一箇所しかない。しかもそこまで辿り着く間には他国がある」

「つまりムート立国はより版図を広げて、強大としなければならないというわけですね」


 ユリウスの横にいたプリムラがイザークの意見に反応した。ハナナ王国の王女であれば他人事ではないどころか当事者として意識せざる得ない。


 父デボラは、とハリアがおずおず切り出す。


「本心は娘のエルナを連れて去った王に対する憎しみですが、表面上は亜人迫害に備えるを理由としています。帝国と賢國(けんこく)によるエルフやドワーフに対する悪行の噂は流れてきていますから」

「亜人が迫害されるという不安感は、ムートの民にまで及んでいるのか」


 イザークは考え込む姿勢を解かないまま、ユリウスへ向く。


「どうだろう、ムートと隣り合わせの国々に急いで協力を求めないか。むしろ不穏な外来を理由に結束を促せる好機になるかもしれない」


 ハリアが叫ぶように割って入ってきた。


「しかしムートの隣国といえば、エルフと人間のグネルス皇国、それにあの龍人(りゅうじん)ですよ。どこかの一国ならともかく、三国同時は……」


 途中で切ったのは、ユリウスがノリノリな状態を認めたからだ。


「なんか、凄いな。アーゼクスと恋敵が一緒かー。恐妻家として、欲情に振り回される皇王をどう思うか。おもしろい話しが聞けそうだぞ」


 呆れる者が続出して当然だった。

 おい、とイザークの声は厳しい。

 団長ぉ〜、とヨシツネは勘弁してくれよと言わんばかりだ。

 出会って間もないハリアや暗殺団ルゥナーから離れてきた元帝国騎兵三人組は目を瞬いている。


 さすがのユリウスも察した。


「じょ、冗談だ、冗談。俺としては二人の会話を物凄く聞いてみたいが、今でなくてもいいと、残念だがそう思えるようになっている」


 やっぱり本気で考えていたんだね、とベルは達観したように笑っている。

 

 ともかくだ! とユリウスが困り果てての大声を出した。


「幸いにも国境にグネルスの騎兵団が詰めているようだから、そこへ向かおう。まず事情を話して、今後を決めよう。これはな、下手すると大陸全体にかかわる大ごとになるかもしれないぞ」


 いい判断だったが、前段にユリウスのしょうもなさが置かせていたせいで緊張とはならない。


「まぁ、そうなんですけどね」


 ヨシツネの脱力した響きがこの場の空気を表していた。

 だがいつまでも緩んでいられない。事態は切迫している。


 こういう時はイザークだ。

 グレイとキキョウはエルフの報告へ、サイゾウとハットリは念の為ここに残り、キバ一族の動向を監視し続ける。残りはグルネス皇国騎兵団を率いるカナン皇王と謁見し、それからドラゴ部族の集落へ向かう。

 以上の素早い提案に異存を挟む者はいない。


 ただハリアだけが不安そうに意見してくる。


魚人(ぎょじん)族のためにグネルスはまだしも、龍人族が動いてくれるものでしょうか」


 はっはっは! とユリウスが高笑いする。名誉挽回というわけでもないだろうが、どんっと胸まで叩く。


「大丈夫だ。なにせアーゼクスが戦闘頭(せんとうがしら)だからな」


 相手の懸念を理解していない説明なしの返答だ。

 ハリアは内容ではなく豪快さに納得したというより、させられた。


 頼んだぞ、とユリウスはニンジャ三人とグレイへ言い渡す。


 馬車は一台とした。

 元帝国騎兵だったとする暗殺者三人も今回は同乗させた。イザークの提案はまだ信頼できないからこそ、目が届かないところに置けない。交渉へ行くだけに勝手な真似をしないよう監視下に置いたほうがいい。


 こうしてユリウス一行は三手に分かれた。


 再びの集合は、誰も想像しない形だった。


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