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38.漢、検討に入る3(彼が本命です)

 せっかく丸く収まったのに、と残念がる者は多い。

 そのうちの一人のヨシツネが「団長ぉ〜」と呼ぶ。なんだ、と返事があれば、さっそくだ。


「副長が悪いんですかー、今はどっちもどっちという感じに思えるんですがー」


 大きく一つ、ユリウスがうなずく。


「ヨシツネの言う通りだ。二人とも不要な諍いへ走りすぎだ」

「じゃ、なんで副長が、なんてなったんです。団長にしては途中まで珍しくいい感じで話せてたのに」

「ヨシツネはわかっていないな。グレイが神経を尖らせてしまうのは、全部イザークのせいだ。気持ち悪がられる普段の態度が良くないからだ。言い争いの原因は、そこだ!」


 ヨシツネとしてはユリウスがどうして変に自信満々にくるか、知りたくてしょうがない。暇はないとわかっていながら、つい訊いてしまう。 

 

「でも、団長ぉ〜。人格攻撃はダメだって、自分で言ってませんでしたっけ?」

「もちろんだ。問題と人間性は切り離さないと、話し合いは成り立たないからな」

「わかってくせに、副長の性格が悪いせいだと言ってません?」

「なにを言う。イザーク本人が性格悪いと言っているんだ。悪いに決まっているだろ。そこは呑んでやれ」


 どうやらユリウスなりにイザークの意向を汲んだらしい。だが汲むポイントがずれている気がしないでもない。流れ的にも言うタイミングも悪い。でもヨシツネは「そうですね、まったくです」と答えておいた。ちらり目に入ったイザークが、先を急ぐぞ、と目で訴えてきたからだ。


 ここで元帝国兵だったと言う暗殺団ルゥナーの三人組も心得を示してきた。ローエンが代表して決意を述べてくる。

 イザークの懸念はもっともだとし、これから信用してもらうだけの行動を見せたい。だから付いていくことを許して欲しい。自前の馬車は用意してある。 


「大丈夫なのか、暗殺団のほうは」


 ユリウスの懸念に、ローエンは何やら気まずそうにこめかみをかく。


「ルゥナーに言わせると我々三人はアサシンに向いていないそうで……それにルゥナー自身もそろそろ暗殺団を止める方向で考えていたそうです。ある依頼を引き受けて以来、人員が大幅に目減りしてからは潮時を考えていたそうです」

「暗殺団ゆえに明日をも知れない身だ。そうか、大変な目にあったようだな」


 ユリウスの思い当たる節がないとする口調である。

 当事者意識のある四天の四人だけでなく、ローエンもさすがに苦笑を抑えきれない。

 このまま話しを終えていたら少し先行き不安な指揮官だった。


「これから俺たちは逃亡した傭兵を追う。おまえたちの働きはまずそこで見せてもらう。取り敢えず追って来る馬車にはイザークとグレイを乗せてくれ。今度どうするかは、あの二人に判断を委ねたい」


 感嘆したくなるユリウスの指示だった。

 名指しされた二人及び元暗殺団の三人にも異存はない。


 了解を認めたユリウスは、残る闖入者へ向かう。


「ハリアとか言ったか。申し訳ないが俺たちは急いで傭兵どもを抑えなければならん。話しは馬車の中でいいか」


 ユリウスを追ってきた者の最後の一人。名前を呼ばれた魚人の青年はうなずいた。



 ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※



 馬車の扱いはベルとキキョウに任せた。

 幌が覆う荷台においてユリウスとプリムラにツバキ、そしてヨシツネとアルフォンスとハットリが聴取側である。


 ハリアは魚人の特徴であるえらの耳がなければ、騎士と名乗られたら受け入れてしまいそうな精悍な面立ちをしている。とても小太りなデボラの息子には見えない。


「いくら頭を下げても許されないでしょうが、どうか皆様には自分の話しを聞いていただきたいのです」


 尊大な父親と違って謙虚でもある。


 ならばと対面に座るユリウスが出た。


「まず聞かせもらおう。どうして我が婚約者プリムラを狙った。まったく理由が見えないぞ」

「それは自分の姉、エルナを原因とします」

「おお、兄弟がいるのか。亜人の場合は珍しいからな。俺なんかドワーフでしか兄妹を知らないぞ」


 我が事のようにユリウスが喜んでいる。だが早くも目許が険しく寄ることになる。


「自分は他に男兄弟が二人おりますから、四兄弟です。それぞれ母親は違いますが」 

「なんだと! つまりデボラはカナンと一緒なのか。ダメだな、少なくとも我が婚約者プリムラには相応しくない」


 相手にわかるはずもない喩えをしてくる。

 ええと……、とハリアの目が泳いでいる。相談したいと無理に乗り込んできた手前、強く出難いだろう。


「カナンとはグネルス皇国皇王のことですか」


 まずする確認には、ヨシツネが立てた右手を顔の前へ持ってくる。謝る仕草を取りつつ、けっこういろいろあって知り合いなんだわ、と説明する。


「自分の父親はプリムラ王女様に懸想しておりません」


 真面目に受け取ったため生じた誤解を、真剣な顔で正そうとしている。ハリアの気持ちに対し、当事者が声を挙げた。


「ええ、わかっております。ハリア様のお父様は確かに暗殺を企てかもしれませんが、それはカナンも同じこと。女性なら誰でもいいとするだらしなさというわけですよね」


 プリムラもまた、いかんともし難い内容を述べてくる。


 事前の予想と違う困難がハリアには待ち受けているようであった。


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