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37.漢、検討に入る2(そう簡単にはまとめません)

 なかなか判断は難しい。


 プリムラ暗殺の依頼を受け、つい先ほどまで死闘を繰り広げていた相手である。傭兵の暴走に手を組んだものの、済めば関係は従来へ戻っておかしくない。


 まだ狙って送り込まれてきた可能性を否定できない。


 ただ黒づくめ格好はむしろ正体を隠していないと解釈できる。

 何より覆面を取って素顔を晒していた。

 揃ってまだ若く、一人が懸命にしゃべってくる。


 元はロマニア帝国第六騎兵団に所属していたそうだ。グノーシス賢國との戦闘中に脱走したとして処理されている。暗殺団の一員として活動するなかで知った。


「そうか、第六か……」


 何やらユリウスが眉間に皺を寄せている。

 あそこかぁ〜、とヨシツネが額に手を当てている。

 元帝国騎兵の他の四天(してん)も思い当たるとした顔をしている。


「そのご様子だと大体は察していただけているようですね」


 名前はローエンと言う暗殺団ルゥナーの格好をした一人が答える。黒髪の利発そうな面立ちだ。後に判明するがユリウスと同い年らしい。年齢より下に見られやすい容貌だけでなく、比較対象がもろおっさんである。年少とする態度に不自然さがない。


「ああ、あそこの評判は聞いている。騎士団長のレナードは出自による扱いの差が酷いと聞いている」

「我々は平民で、しかも税が納められない代わりに徴兵とされたもので……」


 それは! とヨシツネが割り込んでくる。


「かなりいびられただろう。レナードって野郎、平民なんか人間だと思ってなさそうだしな。それにあれだろ、税を払えずきたやつらだとしてイビられたじゃねーか」

「はい、よくご存知ですね。ミケルの鼻が曲がっているのもレナード騎士団長にやられたようなものです」


 ローエンが黒い姿の仲間を見やる。暗殺者と思えない朴訥な感じがする茶色の髪した青年だ。ミケルと呼ばれたその人物の顔には癒えない暴行の跡が残っていた。


「でもよぉー、そこまでのことされたなら直角髭じゃねーや、ヘッセン総騎士団長に訴えれば配置換えくらいしてくれるぜ。行かされる所は間違いなくオレらの十三騎兵団だけどな」


 にやり、ヨシツネは不敵な笑みを向けた。


 ローエンは笑みに釣られるどころか、さらに表情を固くする。


「ミケルが殴打されたのは戦場や訓練中ではありません。グノーシスとの戦役において、あるエルフの女性が連れてこられたことが発端です。それは……」


 それ以上言われなくてもわかるぞ、と始めたユリウスがまとう空気は重い。 


「なぐさみものとして連れてこられたのだろう。帝国と賢國(けんこく)の国境で拉致したエルフやドワーフを閉じ込める館が存在していたからな」


 無理っす、と鼻の曲がったミケルがここで初めて声を発した。


「レナード騎士団長に、亜人は家畜と一緒だから人間が好きにしていいんだ、なんて言われても無理ですよ。どう見たってヒトですよ、女の人ですよ」


 つとグレイが出てきた。

 一目でエルフと判別つく人物に、黒づくめ三人は多少の緊張が走っていく。


 ありがとう、とグレイがかける言葉は三人にとって意外だった。


「君たちは自分の立場も顧みず、ボクの同胞を助けてくれようとしたんだね。人間なんてみんな同じだ、と一括りしていた自分が恥ずかしいよ」


 感謝なんかしないでください! とミケルが顔を歪ませる。


「結局、何もできなかったっす。ひどい目に遭っているところを見ているだけだったっす。その挙句に口封じされるところをルゥナーに救ってもらわなければ今頃……」


 その先は涙が取って代わった。ぼたぼた路面を濡らすほど落としている。


 だがこれでユリウス一行は事情が飲み込めた。


 この三人は帝国第六騎兵団へ所属時に目の当たりにした横暴が我慢ならなかった。けれども所詮は雑兵に位置すれば手も足も出ない。口を割らないよう始末されそうになったところで、狼人ルゥナーに助けてもらったものの、故国へ戻れなければ行き場所などない。そのまま暗殺団へ身を寄せた。


 グレイが泣いてうつむくミケルの手を取った。顔を上げさせる。


「気持ちだけで充分だよ。君たちのような人たちが居てくれるなら、ボクは人間を信じられる」


 ううっ、とミケルはまた嗚咽を漏らした。

 このたびはローエンと残るもう一人のリデルも目頭を熱くしている。


 俺だって感動だ、とユリウスまで太い腕で目許を覆っている。どうやらもらい泣きしているらしい。


「それが真実ならば、私も感動しよう」


 水を差すようにイザークが冷徹に言い放ってきた。

 むっとしたグレイがミケルの手を離して発言者へ喰ってかかった。


「おまえさ、どうしてそんなこと、言うわけ? いいヤツらじゃん」

「以前において、そうしたキミの甘さが落ち込む事態を招いたこと、もう忘れたのか」

「それとこれとは別だろ。ミケルたちに失礼だぞ」

「プリムラ王女暗殺のためならば、どんな策でも打ってくると考えるべきだ。数時間前まで敵だったことを失念したわけではあるまい」

「おまえ、ホント、性格悪いな」

「性格が悪くなければ、私がここにいる意味はない」


 イザークは終始冷静であるものの、口論には違いない。

 仲裁へ入る者がくる。

 ただ人物がユリウスだったため一筋縄ではいかない。


「グレイよ、話し合いに人格否定を出してはダメだ」

 と、ここまではいい。

 そうだね、とグレイはイザークへ、ぺこり頭を下げる。ごめん、ボクが悪かった。仕草だけでなく言葉の謝罪もある。

 あまりに素直だからイザークも途惑う。こっちも言いすぎた、すまなかった。自分の非を伝えている。


 喧嘩両成敗の形で話しはまとまった。せっかく良い流れへなったにも関わらずだ。


「だがな、やっぱりイザークが悪いぞ。グレイは悪くないぞ」


 まとめたはずのユリウスがややこしくしてきた。


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