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33.漢たち、騒擾の夜を迎える2(プライドはあります)

 街の火災は夜空を照らしている。


 タガが外れた傭兵は強奪の徒と化す。

 闘神(とうしん)とやり合うなど命を捨てるに等しい。逃げ出すしかないが、ただでは今後しばらくの生活が成り立たない。幸いにも経済豊かな都に住まう魚人(ぎょじん)はひ弱で、戦闘訓練を受けた人間に対抗し得ない。

 弱いところからいく。絶対的な強敵から対象を移したことが略奪行為を勢いづかせたか。火の手だけでなく悲鳴までが上がりだせば、街は騒擾の渦を激しく巻き出した。


「頼む、金なら出す。出すから傭兵どもを追っ払ってくれ」


 懸命にデボラが謎の暗殺団へ訴える。

 謎とする暗殺団の首魁が四方から声を飛ばしてくる。


「闘神の首のほうが価値は高い」


 断られてもデボラはなお喰い下がる。


「いくらだ。闘神ユリウスの首にかかった報奨金より出そう」

「価値といったはずだ。魚人その一族全ての命を持ってしても闘神ユリウスには及ばない」


 無情に断じた声は、そのまま対象を別にして呼びかける。


「アサシンとしての矜持があるならば、ルゥナーも共に向かえ。闘神の首を取れれば、大きな見返りを約束しよう」


 プリムラを片腕にするユリウスの行く手へ黒づくめの暗殺者が立つ。ルゥナーの手の者たちだ。四人が群れなしている。


「加勢を得た今こそ、プリムラ王女の暗殺を果たす時だ。一斉にいくぞ」


 合図に相当する声を挙げたゼノンが吹き矢を飛ばす。

 建物上に展開する謎の暗殺団も弓を射る。 


 馬鹿野郎、と歯軋りするように吐くユリウスは大剣を上げた。

 飛んでくる矢を振り払おうとした瞬間だった。

 宙を舞って目前を横切る。


 攻撃の矢が路面へ音を立てて落ちていく。


 ユリウスの傍へ、白き狼ルゥナーが着地した。

 近くに現れた暗殺者たちも簡易な盾で防御に加わっている。


「ルゥナーよ、それにおまえたち……」


 人の良さ全開でユリウスが感極まっている。 

 ちゃんと名前が言えるようになったようだな、と白き狼ルゥナーが笑うように答えている。


「ルゥナー、貴方は裏切るのですか」


 ゼノンが憤懣やる方なしといった調子だが、責められたほうは平然としていた。


「ゼノン。おまえこそ、こんな眉唾な話しに乗るのか。いきなり割り込んできた正体不明な連中と、なぜ手が組める」

「正体不明と言いますが、目的は共とします」

「ゼノンならわかるはずだろう。暗殺団ほど素性の知れないものはない。物騒な取り引きをする両者の間において、信頼は金銭以外の他にない。そして現状において、どちらが確実な支払いに期待ができるか、言うまでもない」


 朗々と響かせる白き狼ルゥナーの説明が、どっちつかずとしていた暗殺者に判断を下させた。黒づくめの者たちがユリウスの周囲へ続々集まってくる。


「いけ、ユリウス。ヨシツネ、アル、ツバキたちも。ここは私と弓矢使いの二人だけで充分だ」


 イザークの指示に異を唱える者はいない。


 任せたぞ、とユリウスは快活な返事と共に駆け出す。

 そこを狙う矢は黒づくめとするルゥナーの暗殺者が叩き落とす。近くに立つ四人だった。


「すまん、助かる」


 ユリウスの感謝に、「あ、いえ……」と答えた一人の声は男でけっこう若そうだ。しどろもどろが初々しささえ感じさせた。


「所詮は、アサシンだな」


 四方から飛んでくる謎の声には侮蔑が混じっているかのようだ。


「どうやらアサシンかどうかでさえ怪しい相手のようだ。もしアサシンに甘言を弄すならば具体的な信頼性ある提案を欠かさないことだ」


 白き狼ルゥナーは己の見識が正しさを確認できたせいか、満足そうでさえある。


「闘神ユリウスのいない残りものと失敗を繰り返すばかりのアサシンなど、ここで始末してくれよう。後悔するがいい」


 謎の声は憐れむようだ。侮辱しているとも捉えられる。

 屋根や建物の間から人影も出現してくる。こちらは剣や盾といった武装だ。どうやら暗殺団ルゥナーが味方にならないとなり、隠してきた戦力を出してきたらしい。


 だが白き狼ルゥナーにわずかな怯みさえ浮かばない。むしろ笑いながらだ。


「おまえたちも我々同様の失策を仕出かしているようではないか。闘神の強烈な存在感に目を奪われすぎだ」

「同じにするな」

「するだろう。闘神ユリウスに付き従う者たちの実力を見誤ると、我々同様に壊滅まで追い込まれるだろう。それに何よりこのルゥナーの力をわかっていない」

「亜人が、それも絶滅寸前の狼人(ろうじん)がなんとする」

「今宵の月は我が狼の血を最大限に発揮させる。この姿が示す通りの力を発揮しよう。本来なら無敵を称してもいいくらいなんだが……」


 ここで白き狼ルゥナーの口振りは苦っぽくなる。


「闘神ユリウスには全く敵わず、配下の剣戟兵にはほぼ互角とくる。まったく自信を失いそうだ。だから試してみよう、この力が衰えたのか、単なる相手が悪かっただけなのか」


 どうやら狼人の力が落ちたわけでないことの証明まで、さほど時間は要しなかった。

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