26.漢、暗殺団と対峙す2(戦況はついたようでつきません)
渾身の一撃ではあった。
相手が強敵ゆえ、数の優位性にかける。じっくり確実に仕留める戦法を取る。
このたびは闘神と名高き漢が率いる一団だ。強さは尋常でない。
初手から暗殺団は全力で向かっていく。
多少の負傷など構わずとした突進ぶりだ。
それでも四天と呼ばれる勇将たちと謎の少年少女、亜麻色髪のエルフに跳ね返される。
一斉に襲いかかっても傷の一つすらつけられない。
それでも標的を仕留める準備の形成までは成功していた。
プリムラを片腕にするユリウスの周りには誰もいない。
がら空きとなったところへ、白き狼ルゥナーが飛びかかっていく。
ヨシツネとの対峙で剣は折れないことが判明している。けれども力で押せば、相手の身体まで爪は届く。ユリウスが抱くプリムラの喉元を貫けばいい。
完全な戦闘体勢を取られる前に勝負を決めてしまう。
白き狼ルゥナーは素早く相手の懐へ入る。鋭い爪が伸びる前脚を振り下ろす。
と、同時だ。
なに! と驚きを吐き出した。
大剣で受け止められる、これは予想済みだ。
だが押し込むはずの爪が、ぴくりともしない。
左腕は王女を抱えていれば、大剣を握る腕は一本だ。
にも関わらず様子は悠々ときている。
「ノーズよ、いい攻め方だった。ただもう少し鍛えておくべきだったな」
ユリウスにそう言われた時に、かち合う爪に力を感じた。
抗す間も術もなく白き狼は宙を舞う。
押し込むどころか押し返されている。
あっさり跳ね飛ばされた。
なんとか無事に着地は決めたものの、白き狼ルゥナーは叫ばずにいられない。
「どういうことだ。今晩は狼として最高の力を発揮できている。なのに、なぜだ!」
はっはっは! と高笑いを上げた人物が諭してくる。
「ノーズよ、才能頼みは良くないぞ。鍛錬によって得た筋力こそが信じられるというものだ。よく言うではないか、才能の一パーセントでは努力の九十九パーセントに敵わない、と」
「そんな喩え、聞いた試しはないぞ」
なんだと! とユリウスは反駁など思いも寄らなかったとする顔をしている。こういう時に巻き込まれるのはイザークである。
「おい、士官学校で習ったよな」
「私も初耳だ」
暗殺者を長槍で払いつつ、端的ゆえに間違いない解答を寄越してきた。
一瞬の間の後に、はっはっは! つい先とはまるきり別の意味で高笑いが上げられた。
「まぁ、そういうことだ、ノーズよ。日々の努力は忘れてはダメだぞ」
「私はノーズではない。それは商人の体裁を取っている際の偽名だ。真実の名前はルゥナーだ、いい加減に覚えろっ」
力負けした挙句にユリウスの能天気さが、白き狼ルゥナーには癪に障る。
暗殺者たちは感情露わな首魁に息を呑んでいた。黒き覆面に隠されているが、表情は驚きを刻んでいそうだ。
|闘神《とうしんとされる漢は武力だけでなく精神的にも追い詰めるのを得意とするようだ。
「つまり、あれか。ノーズがルゥナーではなくて、ルゥナーがノーズなのか」
「それでは答えが一緒だ」
横で聞くヨシツネはルゥナーに付き合ったら負けだぞ、と教えてやりたい。
結局のところユリウスが出した結論ときたらである。
「どっちでもいいんじゃないか。ノーズでもルゥナーでも問題ないと思うぞ」
名前を、それも他人の名をなんだとする始末である。
うぐぐと白き狼ルゥナーは出かけた言葉をかみ殺す。ようやく話しても無駄だとする考えへ至ったらしい。
それに透かさずユリウスが提案してきた内容が、まさかだった。
「ところでどうだ。俺たち仲良くしようではないか」
ルゥナーは狼の顔でも皺が出来そうなほど眉間を寄せた。
「なにを言っている。殺しにきた相手に」
「そんなもの気にしていたら、誰とも仲良くなれないぞ。戦乱の世だからな、最初は殺し合いかもしれないが、戦っていくうちに気持ちが通じ合ったりするものだ」
「そんなこと信じられるか!」
ここでヨシツネがのんびりした調子で割り込んでくる。
「それがあるんだな、うちの団長、ユリウス・ラスボーンは。確認してもらったっていいぜ。ドラゴの連中とグネルスの皇王さんに」
具体例が強烈な説得力を付与した。暗殺団に目に見える動揺が広がっていく。
なのにユリウスときたらである。
「待て待てーい。言っておくがアーゼクスは強敵だし、カナンは恋敵だ。あくまで俺の大切な闘う相手だ」
ずいぶん難しいことを言う。
どっちなんだという話しだし、ヨシツネにしたらたまらない。勘弁してくださいよ〜、とぼやかずにいられない。
だが白き狼ルゥナーへ一石を投じられたようだ。
「人間が、あの龍人を大切な相手だと……」
「龍人は皆、気のいい連中だったぞ。それに指揮官がアーゼクスだからな、下は苦労が多そうだと俺は想像したりする」
自分を棚に上げてユリウスがしみじみ語っている。
白き狼ルゥナーといえば、唖然呆然としている。
「信じられない。あの気難しいとされる龍人族が……他の種族とは交わらないとしていたはずだ」
「ノーズ……いやルゥナーだったか。信じられないばかり連発しているが、どうだ、ここらで。信じてみないか、俺たちを」
返事がこない。
ならばとユリウスは取り囲む黒づくめの暗殺者たちをぐるり見渡した。
「どうだ、おまえたち。どうせ過酷な生きざまを選ぶならアサシンより俺たちと共にいかないか」
暗殺団はプリムラ暗殺の依頼を果たすためにきた。たった今まで暗殺の実行へ向けて動いていた。
それが……仲間に誘ってくるなどあり得ない。
戦いは思いも寄らない提案で硬直状態へ入っていた。




