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17.漢、目的地へ到着す2(価格は優遇いたします)

 何か起こすなら、やはりユリウスからである。


「なにぃー、くれるのか」

「いえ、さすがにタダはちょっと……けれども半額でお好きなものをお譲りできますよ」


 いい加減ノーズも慣れてきたか、苦笑を浮かべることもない。


「そうだろう。タダは駄目だぞ、タダは。バ……親父殿が言っていたが、金額が高ければ高いほどタダで提供しようとするヤツは何か面倒な思惑を持っているそうだ。つまり都合良すぎる話しには気をつけろということだな」


 いい事は言っている。だが無料ではないと言っている。タダと決めつけてきたユリウス本人が諭してくる。さすがにノーズも困ったような笑みを抑えきれない。


 そこへイザークが割り込んできた。妙に張り切っている。困っているノーズを助けるという感じではない。


「どうだ、ユ……キコリ。ここは女性陣に着飾ってもらってファッションショーといかないか」 

 

 うーむ、となぜかユリウスが難色を示してくる。

 プリムラに着せたいはずだと信じていたイザークだから、こちらも真剣そのもので疑う。


「どうした、キコリ。婚約者の新しい格好をそこまで思い詰めて想像しなくてもいいではないか」

「勝手なことをいうな。想像はこれからだ。それより俺はその提案はいかんと思っているぞ」

「なんだ、服を買うことに反対だったのか」

「逆だ、買うことは大いに賛成だ。だが見せ物にするような真似を女性だけに押し付けるのはどうか、と俺は考えただけだ。それは我が婚約者をさらしものにする真似ではないかと思うわけだ」


 どうやら複雑な男心があるらしい。イザークは学校からの付き合いである。婚約を破棄された場面を三回も見ている。ならばと諦める気はない新たな提案をする。


「ならばキコリも選ぶか。皆で着ればいいのだろう」

「いや、俺は何を着ても同じだ。買うなど金がもったいない」


 ユリウスの意見にイザークは、どうしようか考える。無しとするにはもったいない、せっかくの機会だ。とりあえず黙っておくのもなんだから皆に、衣服が格安の購入が可能を伝えた。


「ユリウスさまー。わたくしたちが新しい服を着たところを、見ていただけますか」


 プリムラがはしゃぐように婚約者へ願い出てきた。


「もちろんだ、俺は見たかったんだぞ。やっぱり着飾るなら女性だな、男はダメだ!」


 意見を翻すにも程がある。だがこれがユリウスだ、とイザークは諦めの境地で落ち着く。長年の付き合いが仇となっていた。


 存分に選んでください、とにこやかなノーズの声が倉庫に響き渡る。


 ハンガーにかけられた大量の服へ女性陣が駆けつける、とはならなかった。

 張り切っている女性はプリムラとそれに付き添うツバキだけだった。

 どういうわけかヨシツネとアルフォンスも参加して服を選んでいる。


「あいつらも俺たちに着て見せたいのか」とユリウスが若干引いているところへ「そんなわけないだろ」とイザークは即座に否定する。女性ものを漁っている僚友二人に女装趣味があるなど思えない。普通に考えれば、誰かの土産だろう。


 誰か? それはそれで興味が湧く。


 おもしろそうだとイザークは悪い笑みが出かかったところで、目に付いた。

 倉庫の片隅で亜麻色の髪をしたエルフがじっとしている。


「どうした、キミは選ばないのか」


 そそくさと近づいていけば、グレイがとても嫌そうな顔で出迎えた。


「なんで来んだよ。気持ち悪いな」

「しかし放っておけないだろう。着飾れば際立つに違いない美少女が何も選ばないとは」

「あのなぁー、ボクみたいなヤツが何着ようが似合うわけないだろ。こういうのはプリムラやシルフィー姉さんみたいな女性がすることだよ」


 はぁー、とイザークが大きく吐いては呆れたように首を横に振っている。

 グレイはちょっとむきになってしまう。


「なんだよ、変な感じがして、気持ち悪いぞ」

「私はあいつに王へなってもらいたいと思っている。学舎で共に過ごした頃から抱いている野望である」


 名前を出さずとも、誰を指すか。グレイはわかるし、何より唐突な話題に途惑う。


「だから、なんだよ」

「王の器はある。だが本人に心構えが今ひとつ出来ていない。おう……姫には悪いが妃を一人に決めるなど、現在においては悪手だ。好色の評判が立とうと、より多くと縁戚を結ぶ姿勢を見せるべきだと考えている」


 真っ直ぐなイザークの視線に、グレイは顔を逸らしてしまう。


「もうシルフィー姉さんがいるんだから、いいじゃないか」

「別に増える分には問題はないだろう。マゴル部族長などはエルフから妃を複数出す気でいたようではないか。それともキミは自分一人だけにして欲しいと願っているのか?」 

「そんなわけないだろ。受け入れてくれれば、もう充分だよ」


 思わず強く出ていた己の姿に気づいたのだろう。グレイはたちまち真っ赤になって、うつむいた。


「ならばここは私に任せたまえ。ユ……キコリとは長年の付き合いだ。ヤツの好みに合う服を選ぶなど造作もない」


 自信満々なイザークである。四天(してん)の他なら危うい兆候を見とっただろう。

 グレイは話しをするようになってから日は浅い。なら、と素直に従う。


 壁際で待つユリウスはすっかり退屈してそばへやって来たハットリとサイゾウへ語りかける。


「あの二人、すっかりわだかまりが消えたようではないか。良かったぞ」


 ニンジャの二人が誰のことを指しているか、ユリウスの視線を追う。


 先には服選びで肩を寄せ合うグレイとイザークがいた。


 楽しそうで何よりだ、とユリウスが満足そうに呟いている。

 なのにプリムラによる新しい服のお披露目には、色良い反応を示さなかった。


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