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13.漢、目的地を直前とする1(二の足を踏む)

 森を抜けると港町の風景が眼下に広がっていた。

 抜けるような青空の下、停泊する幾叟もの船に遠くまで居並ぶ堅牢な建物があった。


 ユリウス一行は魚人(ぎょじん)のムート部族が築いた都マルコを一望できる場所で立っていた。ここまで警戒してきた暗殺団の襲撃もなく目的地の近くまでやってこられた。


 旅は無事に来ている。だが平穏かと訊ねられたら、複雑にならざる得ない。


「素晴らしい光景ではないか」


 額に手をかざしてユリウスが感嘆している。


「ユリウスさまと見られて幸せです」


 プリムラの感激は隣りにいる人がいてこそとしている。


 そうなのかぁー、とユリウスも感動は外景ではなく気持ちへ移る。幸せいっぱいとなる。

 だからこそ気がかりが首をもたげる。 

 

「ヨシツネにツバキよ。そろそろ仲直りしたほうが良くないか。ムートと仲良し大作戦をしたい俺たちが仲悪そうでは、説得力が落ちてしまうと思うぞ」

「オレのほうは別段なにもないですよ。こいつが勝手に不貞腐れているだけです」


 何もないとするヨシツネの言い方は不穏を招くに充分だ。

 当然ながらツバキもおとなしくしていない。


「ユリウス様にお気を使わせてしまい申し訳なく思います。ただ私としては元々からして眼中にない男なので、思うも何もありませんわ」


 ヨシツネらしくないな、とベルが口にし、ツバキ姐さんも、とキキョウが続く。二人の小声を耳ざとくユリウスは拾う。まだ時期尚早として下手に修復を促すことを断念した。


 関係性で揉めているのは、この二人だけではない。


「なぜなんだ。なぜグレイは、私が気味悪いとなる。美しき光景はキミにこそよく似合うと言って、なぜ気味悪がられる」

「気味悪いじゃなくて、気持ち悪いだよ。キ・モ・チ悪いだ。変な誤解するな!」


 巨漢のユリウスをしのぐ長身のイザークと、プリムラに匹敵する小柄なグレイがまたやり合っている。


 こちらに関しては、コメントする者はいない。またやっているよ、とするくらいである。ただ「そうか誤解にすぎなかったか」と喜ぶイザークに四天(してん)の智将とする立場を与え続けていいものか、疑問が湧く他の三人である。


 おまえ、誤解を誤解しているだろ! とグレイの禅問答みたいな抗議が上がるなか、ハットリがユリウスへ近づいていく。


「ところでさぁ、ユリウス。これから、どうするの?」

「無論、都はマルコという名だったか。そこへ、突撃だ」

「えっ、戦うつもり?」

「いやいや、すまん、言い方が良くなかったな。訪問だ。表敬の意志を忘れずにだな、初めて行く場所にわくわくしているというわけだ」


 ハットリが少し考え込んでいる。容姿は少年だが内面の成熟度は見た目で測れないニンジャの一人だ。


「ユリウス。僕たち三人が先に行って様子を探ってこようか」

「なになに、魚人族も帝国が亜人に対し不穏な行動を取っているくらい耳にしているだろう。だがそこへ現れるのは誠意の塊みたいな俺たちだから、問題なしだ」


 問題あるとしか思えない見立てである。

 それでも意外にどうにかなってしまうのが、ユリウスである。

 ここは言う通り皆で正面から向かうとした。



  ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※



 数時間後、ユリウス一行は都ムートを一望した先ほどの場所へ戻っていた。


「俺たちの誠意が通じないとはな。これは手強いぞ」


 強敵だとする難しい顔をユリウスは作っている。

 ちなみに婚約者とその侍女を除く仲間から賛同を得られないだけではない。


「団長が誠意とか言って通じた試し、一度もないじゃないですか」


 そうヨシツネが始めれば、ベルもため息を吐くみたいに続く。


「そもそもユリウス団長のあれって誠意なの?」


 都ムートよりだいぶ手前に設けられた関所で追っ払われてしまった。関守に、怪しい連中だと決めつけられて取り付く島もない。だが仕方がない。いきなり高笑いした挙句に、仲良くなりにきた、と口上を垂れる人物に不審を抱かないほうがどうかしている。


 今度は私が話しに当たるとしよう、とイザークの申し出に周囲は一斉にうなずいた。


「次はイザークに任せるとして、問題はどこへ行くかだのぉ。他の道から別の関所へ当たる手もあるが、だいぶ遠回りになりそうだしのぉ」

「それとも人気のない場所からこっそり忍びこむ? それとも闘神ユリウスだぞ、と名乗るとか」


 アルフォンスが問題点を挙げ、ハットリが提案をする。


「俺の名前を出すには、もう少し様子を窺おう。ここはアルの考えでいくか。もしムートの指導者に会えても、関所をぶっちぎって入国した輩では話し合いの場にさえ着いてくれなさそうだぞ」


 今度のユリウスが下した決断は皆の納得を得られた。


「次は頼んだぞ、イザーク。おまえにかかっている」 


 どうしてそうなったかと原因を辿れば、プレッシャーをかけられたイザークは苦笑するしかない。それでも「任せておけ」と力強く返した。


 しっ、とベルが立てた人差し指を唇に当てた。

 どうした? とユリウスは囁き返す。

 ベルは静かにするよう求めた仕草を崩さない。


「車輪の音がする。馬車が……複数だ」


 どこかの騎兵団か傭兵の集団かもしれない可能性を秘めた報告だ。

 慎重第一として、取り敢えずは身を隠すことにした。


 結局はユリウスが、どうしてそう簡単に、とする飛び出し方をするのだが。


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