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12.漢、揉め事に対処する4(なんとか理解する)

 はっはっは! もう何回目だよ、とする高笑いが起こった。


 問題は笑いを収めた後だ。

 なぜかユリウスが黙り込む。

 グレイの問いかけに答えなければならないのに、一向に口を開かない。


 なるほどな、とイザークは独り言をしてから、少し言い辛そうに指摘する。


「ユリウス。何を言おうとしていたか、忘れているのだろ?」

「そそそそんなことないぞ、ぜんぜん」


 そうだとユリウスは言っている。


 変なところでミエ張らなくていいのにー、とベルの陽気な声が却って自尊心を刺激したようだ。うううぅーなどと唸りだす。ど忘れしている証左をより披露していた。


 別にそこまで無理しなくてもいいよ、とグレイが気遣いを見せたくらいだ。


 そうだった、とユリウスが右の拳で左手のひらを叩いている。ぽんっと可愛らしく鳴れば、もはや自分が忘れていたことすら忘れていたように映る。

 グレイよ、とようやく待たせていた相手を呼んだ。


「身体に気をつけろ、ということだ。どんな些細な不調でも、どんな悪影響を及ぼすかわからないものだぞ」


 イザークは眉間に皺を寄せ、ヨシツネは頭をかいている。散々待たされた挙句に、薄すぎる中身に途惑いしかない。ほぉ? とアルフォンスは首を傾げ、「ねぇ、ユリウス団長」とベルは真意の問い質しにかかる。

 もし当事者が理解を示さなければ、ユリウスと四天(してん)の四人の間で、しょうもないとする言葉の応酬が繰り広げられたはずだ。


「そうか、そうだね。わかった、わかったよ、ユリウス」


 なにやらグレイは納得した足で駆け寄っていく。

 商家の丁稚とした格好のキキョウとサイゾウへ、ごめん! と頭を下げた。


「簡単に射つなんてしちゃ、ダメだったんだ。ボクは脅かすだけなんて思っていたけれど、ちょっとした怪我が戦いにどんな影響をもたらすか、わからない。もっと慎重に考えるべきだったんだ……味方なんだから」


 伝え終わったグレイは振り向く。最初に疑問を投げかけたプリムラへ眩しいほどの表情を向けていく。


 はい、とプリムラも相手に劣らぬ笑顔で返した。


 やはりキミは、グレイは素晴らしい女性だ、とイザークが例の如く褒め称えてくる。


「ありがとう、ユリウスが気づかせてくれたんだ」 


 グレイの感謝には一片の曇りもない。


 対してユリウスの反応と言えばである。……おおおぅ、と歯切れが悪いにも程がある。

 イザークを除く四天の三人は何か言いたくなったが長年の付き合いである。何も言わずに置いた。


「別に射ったっていいんだけど」


 ぽつり、サイゾウが意外なことを言い出す。


 えっ? と向き直るグレイへ、今度はキキョウが応じる。


「必要があったら射ってもらって構わないです。特にわたしやサイゾウ、ハットリに対しては勝機と判断したら遠慮せずに矢を放ってください。むしろそれを期待します」

「え、えっ? なんで、そんなに話しが変わるんだ」


 なぜかキキョウばかりでなくサイゾウまで口許を緩ませる。


「ただわたしたちはツバキ姐さんを傷つけて欲しくなかった。それだけです」


 あっ、とグレイは叫んでは自分の頭をかきむしる。してやられた、とする仕草を見たキキョウが今度は謝る番だった。


「すみません。ニンジャって勝手なんです」

「でも凄いよ。ユリウスが君たちを自分の自慢みたく話してくるの、わかる」


 グレイとキキョウの交わす視線はつい先ほどと感じががらり変わっている。感情の齟齬があったからこそ生まれた良い結果だった。ボクは射たれるのヤダなんだけど、とハットリの茶々がむしろ関係を強くするようだった。


「良かったな、うんうん、良かった良かった」


 グレイとニンジャたちの光景にユリウスも喜んではいる。ただ今ひとつ事態を掌握していなそうだ。今日の流れなら、ここで高笑いをするところだ。わかっていないから大人しい。


「はい、良かったです。これもユリウスさまのお言葉から始まったことですよ」


 そっと横に立ったプリムラが巨漢のユリウスを見上げている。 

 婚約者の一言に全ての懸念が吹き飛ぶ、闘神と名高い(おとこ)である。そうだな、と嬉しそうに答える。はっはっは! とようやく豪快に笑い飛ばした。


 ところで姫さん、とヨシツネが寄ってきた。はい、と応じるプリムラへ告げる。


「身辺警護の者を、キキョウって言いましたっけ。その女の子に替えませんか?」


 はっ? とユリウスが高笑いの末尾を驚嘆で結んだ。


「ヨシツネよ。何を言い出す。我が婚約者プリムラの護衛といえばツバキだろ」

「でもエルフの里を出てから、こいつ、集中力がないですよ。わかっているでしょ、団長も。さっきのルゥナーって連中が姫さん狙って射ってきた吹き矢。あれ、オレじゃなくて位置的にツバキが落とさなきゃダメでしょ」


 批難をされたメイド服の侍女は一言の反論も上げない。


 ユリウスと言えば、おどおどしだしていた。


「ま、まぁ、なんだ。ツバキだって調子が悪い日だってあるだろう。そんな厳しく責めるな、ヨシツネよ」

「団長だって、わかっているはずですよ。たった一突きで命を落とすなんて、よくあるじゃないですか。たった一本の矢ですら見逃したら、誰かを失うはめになるかもしれないんですよ」


 普段がお調子者とするだけに、より真剣さが伝わってくる。


 うーむ、とユリウスは両腕を胸の前で組む。

 護衛の交代など結論を急ぎすぎな気もする。が、言い分はもっともである。けれども当人の気持ちも考えれば、そう簡単に断を下せない。


 ヨシツネ様、と呼ぶ声が横から立ち昇ってきた。


 どうした我が婚約者プリムラよ、とユリウスが見下ろせば、すみれ色の瞳とかち合う。

 揺るぎない返事が閃いていた。

 答えは言葉を交わすまでもなかった。

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