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11.漢、揉め事に対処する3(対処されるほうになる)

 はっはっは! と高笑いが大樹を飛び越え空へ届くようだ。


「なんでツバキもヨシツネもかかってこない。本気でくるだろ、ここは」


 大剣を肩に載せてユリウスがのっしのっしと歩く。


 後を追う者たちは複雑な心中を吐露してくる。


「そんなの無理ですわ。ユリウス様には敵いませんし、そもそも刃が向けられません」


 つい今まで殺気立っていたメイド服の侍女は相手が変わるとしおらしい。


「冗談じゃないですよ。マジでやったら、どう考えたってオレ、死にます」


 ユリウスの影に隠れがちであるものの技量は相当な四天(してん)の剣士がふざけた口調で真面目に答えている。


 さらにツバキとヨシツネの後にいる二人の発言が続く。


「なんだよー、こっちのほうがおもしろそうだと思ってきたのにさ」


 ニンジャの少年ハットリは遊びに参加できなかった子供みたいだ。


「吾輩もいた意味がなかったしのぉ」


 武器は盾とする巨躯で鳴らすアルフォンスがぼやいている。


 はっはっは! とユリウスが肩越しに横顔を見せた。


「身内同士とはいえ、戦ったら危ない連中ばかりだからな。何もなくて良かったではないか」

「団長ぉ〜、今さっきオレに本気でぶつかってこいみたいなこと言ってませんでしたっけ」


 こういう人だとわかっていてもヨシツネはこぼさずにいられない。


 またユリウスの高笑いが轟いた。

 ただし今回は上がるまでやや間があり、どこか意識的な響きが感じ取れる。後ろの者たちには誤魔化すためだと推察する。


「まぁ、あれだ。これからが旅の本番だからな。みんな仲良く……おっ、どうした、イザーク」


 ユリウスはプリムラの元へ戻るなり、異変に気づく。


「い、いやそれが彼女……グレイのことなのだが、プリムラ王女によると護衛の役は重いという意見で……困っている」


 おろおろするイザークは今にも頭を抱えそうである。


 へぇ〜、とヨシツネが、ほぉ〜、とアルフォンスが上げる。軽い驚嘆を催していた。


「どうしてだよ、プリムラ。なにがボクをダメとするんだ。弱いからか」


 かみつくようなグレイに対し、プリムラは緩く首を横に振る。


「グレイ様の戦闘技量は特別に劣っているとは申しません。問題は精神的にと申しましょうか、心構えが危うい、と感じます」

「ボクは敵を前に怖れるなんてしないぞ。ベルには遠く及ばないけど、弓だってちゃんと扱える。今度こそ役に立ってみせる」


 グレイが少し前のめりになって訴えてくる。


 はっはっは! とユリウスが哄笑を上げた。


 いきなりどうした? とする顔が並ぶなか、ヨシツネとアルフォンスが揃ってわずかに肩をすくめている。再三となれば、もう完全に意図して笑っているくらいわかる。

 これでもけっこう気を使っている、などと思ったが実は早計であった。


 ユリウスはキキョウとサイゾウを見て、なるほど! と大剣を握っていなければ両手を打っていそうだ。


「グレイよ。俺は婚約を三回破棄された男だが、我が婚約者プリムラの言いたいことがわかった気がしないでもない」


 余計な前口上に加え、理解できているのかできていないのか、はっきりしない。何が言いたいんだよ、とグレイのぶっきらぼうな返事は自然に思えた。


 つまりだな、とユリウスは説明を始めるに当たって肩の大剣を降ろす。


「あれほど敵対していたセネカが味方に裏切られたせいで身体の一部が不全になってな。戦士としての活躍を諦めると言ってきた姿はとても寂しそうだったんだ。俺は泣くのを必死でこらえたぞ」

「あの色っぽいお姉さんの話しが、こんなボクとどうつながるんだよ」


 グレイは態度が良くないけれど、素直に聞く姿勢は示している。


 イザークなどはこれから本筋へどう持っていくのか、わくわくしだしている。相変わらず何を言い出すかわからないユリウスに、困惑は吹き飛んでいた。


 ふっとユリウスは似合わない微笑と共に枝葉が覆う上空を仰ぐ。


「人とは脆いものだ。人間も亜人も関係なくどんな者も、ちょっとした不運で明日には動けなくなるような傷を負うかもしれない。俺たちのような者は特に心すべきだろう」


 良い話しだと思う者はいた。ユリウスさま……、とプリムラは感激で瞳を潤ませている。


 一方で、おいおいとする仲間たちがいた。


「いやぁ〜、団長がそれ言います? 槍が背中に五本くらい突き立っても、ピンピンして敵陣へ突っ込むじゃないですか」


 ヨシツネが何を今さら感満載の指摘してくる。


「ユリウス団長ってさ。どれだけ血を流したら足りなくなるんだろう、て思うよ。どびゅーと噴き立たせながら笑って走っていくじゃない」


 ベルの感心するやら呆れるやらとする態度だ。


 ふぉっほっほ、とアルフォンスは笑うだけだ。敢えて寸評は避けた様子である。


 ここでユリウスの選択は笑い飛ばすではなく反駁だった。


「おまえたちな、化け物みたいに言うな。そんなことあるわけないだろ。俺は単なる人だ!」

「ただ事実を言っているだけですよ」

「そうそう、いつだったか言えるけど」


 ヨシツネとベルのする気がなかった誘いに、ユリウスはまんまと乗った。言ってみろ、と促せば、二人が指を折って具体的な戦場名を挙げてくる。そうだったのぉ、とアルフォンスが、懐かしいな、とイザークまでが追随してくる。


 勝負はあった。

 うぐぐっとなったユリウスはまさしく敗残の将である。

 掃討戦が行われなかったのは、本来の目的へ戻す声が上がったからだ。


「それでユリウスはボクに何が言いたいの?」


 そうだった、と応じたユリウスの顔はとても助かったとしていた。

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