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10、漢、揉め事に対処する2(あっちと思ったら、こっち)

 何が起こったか、最初は誰もわからなかった。


 金属同士が弾く、冷たく硬い音がする。

 立て続けに鳴れば、敵襲かと疑う。


 ユリウスなどは急いでプリムラを背にかばう。


「ねぇ、なにやってんのさ。ヨシツネ、ツバキ」


 組んだ両手を頭にのせたベルの言葉が周囲に状況を呑み込ます。


 なぁーんだとする声が聞こえてきそうな雰囲気に包まれた。


 ツバキが投擲する手裏剣を、ヨシツネが長剣で払い除けている。

 攻防は目にも止まらない早さになっていく。


「まったくぅ、ツバキ(ねえ)。なにやってんだよぉ」


 ハットリがぶうたれている。


「おお、訓練か。本気としか思えない真剣さがいいな」


 ユリウスはとても羨ましそうだ。そろそろアーゼクスと剣を合わせたいものだ、と遠い目をして付け加えてもいた。


 ユリウス! と呼ぶイザークは危惧で満ちていた。


「本気とわかっているなら、止めろ。放って置いたら、どちらかが命の失うかもしれない」


 はっはっは、とユリウスは高笑いしてから言う。そんなバカな。


「ツバキ姐さん、もういい加減にして」


 キキョウが焦燥をにじませている。


「どうしたんだよ、ツバキの姐御。なにヤバくなってんだ」


 サイゾウがいつになく強く発している。


「えっ、あいつら本気でやっているのか」


 ニンジャの反応を受けてユリウスが信じられないとしている。 

 

「ユリウスが本気で戦っていると指摘していたんだぞ」


 まったくとするイザークだが呆れ返ってもいられない。


「では私とユリウスに、アルも手伝ってくれ。取り敢えずツバキの飛び道具をなんとか防ぎつつといこう」

「弓矢で射とうか? 目の前の敵に集中している今は隙だらけだ」


 傍まで来たグレイは弓を手にしている。

 それは……、とイザークが答えかけた。

 それを遮るキキョウとサイゾウだ。


「ずいぶん簡単に卑怯な方法を選べるね」

「いつもそんなことばっかりやっているのか、エルフって」


 途端に空気が険悪と化した。

 キキョウとサイゾウは懐に手を忍ばせる。

 グレイの右手も背負う矢袋へ伸びていく。


 身内同士の新たな戦いの火種が上がりかけていた。


 お、おい、とイザークは慌ててグレイへ止めに入る。

 ちなみに強力な助けとなれる両人は当初の予定通り駆け出している。

 俺も混ぜろー、とユリウスの台詞がこちらの仲介にこないことを教えてくる。


 懸命に頭を巡らすイザークは、人数的に不利な方へ回るべく槍を取る。

 確かにグレイは弓の腕がいい。けれどもニンジャ相手では一対一でも敵わないだろう。実力差は歴然と見立てている。無駄だとわかっていても最後にもう一度「やめないか」と訴えた。


 グレイが背中から矢を引き抜いた。


 キキョウとサイゾウの二人はすでに懐から手が出ている。先手はニンジャ側にあり、勝敗に直結するだろう。


「おやめなさい、二人とも」


 凛とした命令が下された。

 キキョウとサイゾウだけなく、イザークとグレイまで届く。


 プリムラの王族とする威圧が手裏剣を投げようとした寸前で止めさせ、弓や槍を持つ手を降ろさせる。しずしずと両者の間に割って入ってくれば、まず自分のお付きとする者たちへ目を向ける。


「サイゾウ。どんなに腹立たしくても相手の出自に言及する真似をされてはかばいようがありません。ユリウスさまは人間亜人関係なく奔走しているのです。わたくしが何を言いたいか、わかりますね」


 ……はい、と数瞬の間の後にサイゾウから返事があった。


 くるり、プリムラは振り返る。グレイと真正面で向き合えば、黄金の髪が前へ倒れた。


 姫様! とニンジャ二人の叫びに、イザークも慌てふためく。


「ちょ、ちょっとプリムラ王女。貴女のような方が、そんな簡単に頭を下げてはいけない」


 頭を上げたプリムラは、にっこりしてくる。笑顔とするには得体の知れない迫力を備えていた。


「わたくしは王女といっても所詮は第八に位置する者です。それにこれからは騎士の……いえ市井の民となった方へ嫁ぐ身です。妙な上流意識など抱く気もございません。皆様もそう心していただきたいものです」


 そう言われましても……、とイザークは困り果てている。


「そう。じゃ、そうさせてもらうよ、プリムラ」


 グレイがぶっきらぼうに了承を示した。

 キキョウとサイゾウが再び態度を硬化させた。

 イザークはともかく慌てた。


「おい、グレイ。いくらプリムラ王女が良いと言っても、それは……」

「本人が良いっているんだから、いいだろ。それにボクは王女だろうが一般人だろうが、プリムラを守る意志に変わりはないよ」


 イザークから返答はなかった。その代わりに、目を閉じ胸へ手を当てている。じーんと鳴らしているような仕草と取っていた。おまえ、とグレイに呼ばれてようやく口を開いた。


「やはりキミは……いや名前で呼ぼう。グレイは素晴らしい。女性としてだけではない、人としても自信を持つべきだ」

「おまえさ、いっつもいつも気持ち悪いんだけど」

「なぜ、そのように思う。私には理解不能だ」


 あのぉ……、とプリムラがおずおずかけてくる。楽しそうなところを邪魔して申し訳ないとする声が聞こえてきそうな調子だ。


 だからグレイはさっさと切り上げる。まだ話し足りそうなイザークを無視して、「なに、プリムラ」と応じた。


 ためらうプリムラだったが、意を決めて口を開く。


「誠に申し上げ難いのですが、グレイ様では守護の任はきついかと思われます」


 えっ? と言われた当事者でなくイザークがとても驚いていた。


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