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9.漢、揉め事に対処する1(力を合わせていこう)

 ユリウスは人間の規格を外れている。とてもとても、大きく。

 馬鹿力の発揮は通常では考えられないほど威力だ

 おかげで消化作業は早々に済んだ。


 森林火災は規模によって大災害へつながる。被害は焼かれた当地だけに止まらない。草木の消失によって降雨が堰き止められず、甚大な洪水を招いた歴史的事実もある。


「ユリウス団長って、なんて言うか。ヨシツネの言い方を真似るなら、人をやめているよね。でもおかげで助かった」


 ベルが火を叩いていた布をたたんでいる。森の国で育ったハーフエルフだけに火災は恐れた。軽口にも疲労が滲んでいる。


「やっぱりユリウスは凄い、凄いよ。森で暮らすエルフとして、ボクからも言わせて。ありがとう、本当に」


 グレイのほうは今にも手を取りそうなほど感激で打ち震えている。

 感謝しているエルフが少年のなりだからか、ハットリも気安く乗ってくる。


「本当、ほんと。ユリウスがいきなり剣で火をぶっ叩きだした時は、どうしちゃったんだと思ったもん」


 はっはっは! ユリウスが大剣を空へ向けて掲げた。  

 

「これもブラギが磨き直してくれたおかげだ。でなければ俺だって地面など割れやしない」


 いやいやいや、とこの場にいる全員が首を横に振ってくる。

 ドワーフの名匠に大剣の焼き直しを受ける前でもやってのけたに違いない。


 燃え盛る草木へ振り下ろされたユリウスの大剣は炎を払う。勢い余って届いた地面を大きく抉る。起きた地割れへ火元は落ちていく。地中に没すれば微かな煙を残して消えていった。


「いつか山まで斬り倒しそうだのぉ」


 顎髭を撫でながらアルフォンスが、ほぉっほっほっと笑った。


「さすがに規模によるだろう。かなり難しいだろうが、俺はそれくらいを目指して精進していきたいと思っているぞ」


 ユリウスの真に受けた返答に、当初は笑いそうになったものの、もしかしてと四天(してん)の四人は考えてしまう。


 いつかユリウスならやりそぉー、とハットリはけっこう期待していそうである。


 だが笑い話しで着地はしなかった。


「これで判明しましたね。暗殺団ルゥナーはわたくしを狙って追ってきています」


 心穏やかでいられない事実をプリムラ自ら告げてくる。毅然としていれば、高貴が漂うようだ。闘神(とうしん)と呼ばれる婚約者がそばにいることも大きいだろう。


 どんっとユリウスは大剣を地面へ突き立てる。


「だがおかげで俺は気持ちが吹っ切れた。我が婚約者プリムラを同行させて良かったのか、実はまだ悩んでいたんだ。けれどもエルフの里ではアサシンの襲撃をしのぎきれないかもしれないし、迷惑もかかりそうだ。常にそばへ居てもらうほうが安全だと確認した次第だ」


 返事はなくても賛同の意は伝わってくる。


 プリムラがユリウスの腰へ抱きついた。これは好機と見た顔つきを一瞬で消して、怯えたようにすがりつく。 


「わたくしは足手まといとわかっていても、いつもいっつもユリウスさまにつきまと……一緒にいたいです」

「足手まといなわけがあるものか。俺は我が婚約者プリムラお手製のお守りをもらった時には、共にいたいとする気持ちはカナンに負けてなるものか、と思ったぞ」


 ほぉ? とアルフォンスが首を傾げている。


 横で聞き留めたベルは髭面の仲間が何に疑問を抱いているか、当てはついている。


 ユリウスがプリムラからお手製のお守りをもらった日は、十年ぶりの再会時であった。ユリウスにすれば記憶の糸を辿らなければ思い出せないほど久方ぶりだ。交流もなければ情報もない。カナンの存在など知らなかった時点でもらったはずである。


「まぁ、いつもことだよね」自然とベルの口から吐いて出てくる。

「姫が気にしてないしのぉ」アルフォンスものんびりしたものである。

 細かな事柄に拘泥しないプリムラで良かったとする結論へ至る。


 ユリウスは幸せ者らしく周囲の仲間たちへ訴えた。


「ムートへ向かう道中ですら困難が多そうだ。だがな、俺たちならばきっと大丈夫だ。皆で力を合わせていこう」


 おぅー、とハットリはノリがいい。


 他は呼応はしない。さすがに恥ずかしいようである。


 なんだなんだ、とプリムラが腰に抱きつくユリウスは不服そうである。


 だよね、とハットリだけが唯一の味方だ。


 ささっとキキョウが寄ってくる。ニンジャの紅一点はあどけない少女の見た目でも、しっかり者と他が認めるところである。二人とも! と厳しく呼んでは人差し指で交互に差しながらだ。


「どうでもいい確認はいいです。急ぐんでしょ、行きますよ、いいですか」


 「お、おぅ、」とユリウスが、「わかったよ」とハットリがする。「はい」とプリムラまでも一緒に返事をしていた。


 敵の追手もあれば、ぐずぐずなどしていられない。ゼノンが率いる暗殺団ルゥナーの襲撃に時間を喰わされた。これまでの亜人種と違い魚人族とは面識がない。会談も容易ではないことが予想される。出立は急ぐべきだった。


 心を入れ替えたユリウスは地面から引き抜いた大剣を背の鞘へ収める。イザーク、と旅程立案の要へ呼びかけた。


「いい加減にキモチ悪いんだよ、おまえ!」


 突如、グレイの怒声が響いてくる。相手が誰と問うまでもない呼称も混ざっている。


 傍目で窺えるくらい槍使いの長身が冷や汗をかいていた。


「ま、待ってくれ。確かにでしゃばっていたかもしれない。けれどもキミのことを、グレイの気持ちを考えてこそという点はわかって欲しい」

「わかるか、バカっ!」


 グレイがイザークを怒鳴り散らす場面は、ユリウス一行にすれば見慣れた感しかない。

 現にベルが「またぁ」の一言で切っている。


「仲が良いほど喧嘩するって言うぞ」


 ユリウスなどは好意的に捉えている。もっとも喩えが違っているから正される。


「喧嘩するほど仲がいいだろ、それ」


 ニンジャの少年サイゾウがぶっきらぼうに指摘する。


「なになに意味は同じだ」とユリウスは言って、はっはっは! と豪快に笑い飛ばす。


 それを聞いた者たちは、同じではないがあまりこだわってもしょうがない、とした。


 今は先へ進むことが優先である。

 取り敢えずイザークというよりグレイをなだめ透かそう。


 ところが揉め事は他にも発生していた。

 しかもこちらは命の取り合いとする様相を示していた。


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