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52.漢は覚悟を決めるー第3部・了ー

 エルフの中央集落で、ユリウスが真っ先に出迎えた。


「よく戻ったな、三人とも別々な所へ行ったのに帰ってくる時間がだいたい一緒とはな。本当に仲いいのだなぁ」


 たまたまだってば、とキキョウが答える横で、ハットリが「そうそう」と相槌を打っている。


 サイゾウは挨拶もそこそこにイザークの下へ行く。なにやら二人だけで少し離れて話し込んでいる。


 ユリウスは無理に呼び込む真似をしなかった。

 キキョウとハットリをプリムラとツバキが待つ焚き場へ連れていく。待っていた二人は煮立つ鍋からお椀にすくいながら労いの言葉をかけてくる。

 キキョウとハットリは腰掛け食事を始めた。報告は食ってからだ、とユリウスの指示に従った形だ。


「そんなに急いで食わなくていいぞ」


 ユリウスは笑うが、食べる速度に鈍りはない。いつもこうだよ、とハットリが口にものを入れたまま答えてくる。


 さっさとすませてくれたと感じたユリウスは遠慮せず訊くことにした。


「キキョウ。エルベウスに向かった帝国騎兵団の規模はわかるか」


 ユリウスの、バカが付くこともある親父殿のディディエ辺境伯が治めるエルベウス地方。どうやら大勢の帝国騎兵が向かっているらしい。


 口を開きかけたところでキキョウは、ふと思いついたような顔をした。


「そういえば途中で翼人(つばさびと)のお姉さんと会ったよ。ユリウスの婚約者で、ディディエ卿との連絡係もやっているって」

「ああ、レオナだな。あれは俺と一緒で大雑把すぎてダメだ。世間に出ていないから知識はあっても詰めが甘い。今回だって騎兵がいっぱいいる、だからな。詳しくならば、やはりニンジャだぞ」


 そうなんだ、とキキョウはちょっと嬉しそうである。報告も張り切ってとくる。


 どうやら失踪となっているユリウスらの行方を尋ねる使者という名目らしい。グネルス皇国からは、知らぬ間にいなくなった、とする主旨の返答だったそうだ。ならば義理の父親の下にいるかどうか確認するまでは理解できる。だがそれならば文書で構わない。端から疑っているから使者だけでなく、騎兵団を随行させている。


 きっと会談の裏で探索し、見つけたらその場で仕掛けるつもりだろう。


 ディディエ辺境伯の帝国内における立場の危うさを示す一連の動きだった。


 ユリウスの眉根が寄る。やはり迷惑をかけているようであれば、今後の行動を予定通りでいいのか。再考を要する。


 だがキキョウから騎兵団の内訳を聞けば、愁眉は開いた。


「使者は第二副宰相のカスパー・タウフェンっていう人。引き連れてきた騎兵団は第二と第四というので間違いないよ」


 一拍の間を置いてからだ。


 はっはっは! とユリウスはいつもの、けれども普段以上に大笑いしてくる。

 ユリウスさま? とプリムラが思わず呼んでしまったほどだ。

 すまんすまん、とユリウスは涙を拭かんばかりだ。


「確かに親父殿が帰れ、というわけだ。総団長が出てこないばかりか、第二と第四とはな」

「でもユリウスさま。ディディエ卿が有す騎兵数より倍の数ではありませんか」

「第二副宰相といい、第二と第四の騎士団長なんか、どうしてその地位に就けたか謎とされる連中だぞ。親父殿に敵うわけがない。いやこれはこれで俺たちがまだ自由に動ける時間稼ぎとなるか」


 誠に嬉しそうなユリウスであれば、プリムラもまた笑顔になる。


「では当初の予定としていた魚人(ぎょじん)族のムートへ向かいますか」

「ああ、それからアーゼクスの所へ寄ろうと思うのだが……」


 ここでユリウスはハットリへ目を向ける。少年の面立ちを強く残すニンジャは心得たと身を乗り出す。


「ドラゴ部族は了解だって。姫様と共に訪れてくれること、首を長くして待っているってさ」

龍人(りゅうじん)は気のいい奴らだが、見た目はいかついからな。怖くなかったか」

「まさか。それにドラゴ部族はニンジャを受け入れてくれる感じだったし、中身はいいヤツでも見た目がおっかないはユリウスで慣れているよ」


 ……ハットリ、とツバキは低く呼ぶ。遠慮がないというよりなさすぎる。姐貴分としては注意せずにいられない。


 そうか、そうか、はっはっは! と不遜な内容に気づいてか気づかずか。どちらにしろ、ユリウスは豪快に笑い飛ばした。


「では準備が出来次第に行くぞ、といっても明朝になりそうだがな。今回はニンジャ三人とも一緒に来てくれ」


 これからの旅程に加わるよう頼む意味をキキョウとハットリは理解した。

 これまでより戦力を必要とするようだ。

 つまり向かう先は危険な場所というわけである。

 

「ユリウスさま。わたくしを置いていかないでくださいね」


 するっとプリムラが念を入れてくる。

 多少とはいえユリウスの目許に困惑が漂う。


「……やっぱり王女じゃなくてプリムラは残ったほうがいいんじゃないか、とする考えを俺は捨てきれないんだが」

「一人残されたところへアサシンがやってきたら同じです。まだわたくしを暗殺する依頼は生きているのでしょう」


 そうなんだが、とユリウスも指摘通りだけに歯切れが悪い。確かに暗殺団の首魁ルゥナーは諦めていない。エルフに暗殺者と対抗できるほどの護衛は期待できない。


「……そうだ、そうだな。俺が守らなくてどうするだな」


 どちらにしろ危険ならば傍に、とユリウスは腹を括った。


「わたくしはユリウスさまから一時も離れません、離れられません」

「そうだな、そうだ。俺も一時だって離れないぞ、離れてたまるか」


 今にもユリウスとプリムラは抱き合いそうだ。


 盛り上がっているそんな二人へ、キキョウがそう言えばといった調子で訊く。


「ところで初めてのチューはすませたのですか?」


 抱きつかなくても真っ赤になった二人であった。



 ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※



 朝日が稜線を染め一日の始まりを告げてくる。


「いくぞ。今さらだが覚悟はいいな」


 ユリウスの確認に一行は一斉にうなずく。

 シルフィーら大勢のエルフが見送るなか、旅立つ。


 目的地は魚人族の大半が住まう北のムート立国だ。


 ハナナ王国第八王女暗殺を目論んだ本丸とされる場所へ向かうのであった。 




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