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51.漢と暗殺団7(とても貴重な情報をいただきました)

 ちょうどユリウスが雪の国から出かかった地点だった。


 翼人(つばさびと)の特性を活かし先行していたレオナがやってきた。これから向かう先だったディディエ卿とシスイからの手紙を預かってきたそうだ。


「俺は婚約者のため、愛に生きるべきだ、と教えられたぞ」


 そう言ってユリウスは懐から二通の手紙を取り出す。プリムラから始まり順々に回覧され、全員が目を通し終えた時点で確認してきた。


「どうだ、これでわかってくれただろう。一方はバカかもしれないが、二人とも俺に道を示してくれる立派な親父たちだ」


 感激で打ち震えているから、誰もがとてもとても反応に困っていた。

 なにせ書面の内容ときたらである。


『またレオナがやらかしましたね。ユリウスもそうですが、もう少し落ち着いて状況を判断しなさい。私は大丈夫ですから今は婚約者のそばにいてあげなさい』

『このバカ、さっさと王女の下へ戻れ。こっちは全然問題ないわ。今は婚約者を何よりとしろ、このバカ息子』


 シスイとディディエ卿の手紙がどちらどっちなど確かめるまでもない。


 セネカは読み終えれば何か言いたそうだった。が、ちょうど視線が合ったイザークが手のひらを見せてくる。止めるポーズにその意を汲んで口をつぐんだ。


 代わりと言っては何だが、時期を見計らっていたであろうヨシツネが口を開く。


「つまり団長はこれで愛に目覚めて戻ってきたというわけですね」

「そうだ。本人を目の前にしたら、ちょっと恥ずかしくて口に出来ないがな」


 答えるユリウスの隣りにプリムラが座っている。


「だからですね。愛に覚醒した団長だから、洞窟を塞いでいた雪崩をぶち飛ばせたわけですか」

「バカを言うな、ヨシツネ。本当の雪崩が入口を埋めていたら、人間の力ではそう簡単に退けられるものか」


 ユリウスが呆れたとばかりの物言いだ。


「よく言いますね」とヨシツネが返せば、「ユリウス団長ならやれそうだけどね」とベルも続く。早く解答を言え、と二人は表情で語っている。


 見かねたセネカが種明かしを買って出る。


 どうやら洞窟の上方に板を張って雪を溜めたそうだ。セネカたち暗殺者が洞窟内へ飛び込むタイミングを見計らって板を下ろす。閉じ込めたと相手に思わせられるし、もし外から仲間が戻ってきても多少の時間稼ぎになる。


「でも結局、闘神(とうしん)の前には役に立たなかったけどね」


 しみじみセネカが回顧すれば、はっはっは! とユリウスが高笑いする。


「わかっただろう。俺が愛に生きるべきと悟ったことが」

「ただいつものようにヒトをやめた力を発揮しただけじゃないですか」


 ヨシツネは褒める口調で、憎まれ口を叩いている。

 ホントに人間じゃないみたいよね、とセネカも同意してくる。

 雪がなければもっと早かったぞ! とするユリウスの発言に、この話題はこれ以上続けても無駄とする空気が漂う。


 ここでイザークがユリウスを突く。


「彼女に訊きたいことがあるだろ」


 ユリウスは、そうだそうだ、とセネカへ向く。


「俺は帝国の宰相が異世界人と疑っている。だが他の世界からやってきているみたいだ、と噂を出ない程度しか知らん。全く知らないと言っていい」

「いいわよ、あたしの経験を話してあげる。でも大したことはないわよ」


 これにはユリウス以下、聞き手となる全員が居住まいを正した。


 セネカが元の世界で戦闘行動を終え、一人で道を歩いていた。目の前に魔法陣のような紋様が出現してくる。次に文字が浮かんでくれば、部隊を率いられるだけの優秀な戦士を求める、と書いてある。ちょうど自身のキャリアに行き詰まっており、現在の軍にも居場所を失いつつあったから、半ば自棄気味で飛び込んでみた。そうしたらこの世界へやって来ていたそうだ。


「セネカよ。召喚された場所はわかるか」


 いつになくユリウスが真剣だ。

 悪いわねとばかりにセネカは肩をすくめる。


「呼ばれた部屋から出る前に目隠しされたのよ。それからルゥナーの前へ連れていかれるまで外されなかったの。だから、どこかはさっぱり。ごめんね」

「いやいや、とてもありがたい情報だぞ。そうか、異世界人はいるんだな」

「異世界から来ましたなんて、自分からは言わないわよね。それにここ、人種間における差別が強いみたいじゃない。外の世界からやって来たなんて知られると生き辛くなりそうだから黙るわよね」


 皆は納得したからこそ簡単に返事が出来ない。


「もしかして、けっこう異世界人っているもんなのかなぁ〜」


 ふとベルが訊くというより独り言みたいに挙げる。


「どうかしらね。こんな一か八かみたいな勧誘に、元いた場所から余程逃げ出したいと思っていなければ乗らないんじゃない」

「そんな簡単にこちらの世界へ来る人間などいないというわけか」


 胸の前でユリウスは両腕を組む。こういう場面では考え込む姿がさまになっている。


 まさに雰囲気が深刻になっていくなか、セネカが言う。


「もし帝国の宰相が召喚に応じた異世界人だとしたら、けっこう権勢欲が強すぎて元の世界にいられなくなったような人物である気はするわよね。あたしからすれば帝国の執政は、皇帝とその周辺のためだけって思えるもの」


 帝国の外にいる者の見解であれば、重かった。ユリウスは組む腕を解けない。うむむ、と唸ったりもする。


「取り敢えず異世界人の件は置いておかないか。それより我々が当面の懸念とすべきは、プリムラ王女が狙われていることだと思うが」


 イザークが、こういう時は頼りなる人物像を発揮してくる。

 婚約者に関すればユリウスは途端に活気づく。


「そうだとも。俺は愛に生きろ、と怒られたばかりだった。一方はバカでも子として父親の言うことは聞くべきだろう」


 調子よく持ち出してきますねぇ〜、とヨシツネはちゃかしてくる。

 なんだと! とユリウスの反駁は、むしろこの場を和ませた。


 もしプリムラが声を挙げなければ談笑を始めていたはずだ。


「わたくしの暗殺を依頼した相手がどこか、見当ついた気がします」


 なんだと! とユリウスは言葉が同じでも反応の大きさにおいて今までとまるきり違っていた。


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