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47.漢と暗殺団3(全員、揃いました)

 ぽっかり、丸くなりきれない月が夜空の中心で輝きを放つ。

 久方ぶりに吹雪が収まれば、穏やかな白さが一帯に広がっている。

 静謐な雪景色が騒擾な世など無縁としていた。


「なんだ、すっかり夜だなぁー」


 のほほんとしたユリウスの声がなければ風情この上ない。


「今晩は月が明るくて良かったですよ。それにしても雪って、光りをけっこう反射するんですね」


 共に洞窟から出たヨシツネが雪に慣れていない感想を口にするr。


 真っ白な表面が月明かりを受けて鈍くも光り輝く。


 逃亡を図ろうとする者には最悪な環境かもしれない。

 暗殺者二人はユリウスに外まで吹っ飛ばさられるほど殴られた。意識などあるはずもない。ただ一人だけ殴打から逃れた暗殺者が他を起こしにかかる。追っ手の姿を目にすれば、それはもう慌てた。先方も自分らの位置をつかめているに違いない。


 闘神と呼ばれる人物は並外れた身体能力を発揮する。


 逃亡するに当たって唯一の希望が、夜闇に紛れてであった。

 それが断たれている。

 目を覚ましたゼノンに自爆の考えが再び浮上する。ただでは終わらない。けれども上半身に巻き付けた筒状の爆発物は雪のせいですっかり濡れていた。


 しかも前方に三つの影が現れた。

 ぼんやりした中でも、誰と認識できれば絶望しかない。

 荷物を共の者に任せて、戦場で名高き三人がこちらへ向かってくる。

 ユリウスと四天(してん)の四人が揃ってしまった。


「悪いようにしないから、降参しろ。聞きたいこともあるしな」


 暗殺者たちはまだ剣を捨てられない。


 けれど声がけしてきたユリウスがずんずん近づいてくる。


 傍までやって来る頃には、暗殺者の三人は自然と剣を投げ捨てていた。


 ユリウスたちに取り囲まれれば、ゼノンは雪の上へ胡座をかく。腹を据えていた。


「なんだ、何が聞きたい。だが必ず答えるとは約束しない。なぶり殺しにされようとも、我らの団を売るような真似は決してしない」

「おお、立派ではないか。だが俺は立場上、褒めてやるわけにはいかん。できれば素直に答えてくれ、と祈るのみだ」


 ゼノンは今までにないユリウスの姿を見ていた。

 まさしく闘神とするオーラを放っている。

 婚約者を前にしなければ、いつもとは言わないが、大陸最強の騎士とされるだけの人物像へ落ち着いていく。


 ある意味ゼノンが不幸だったのは、これまでプリムラを前にしたユリウスしか知らなかったことだ。おかしな言動で振り回す奇人でしかなかった。

 評判通りの威光をいきなり当てられて気圧されてしまった。


 さて、とユリウスは普段通り偉そうに始めた。


「ゼノンよ。おまえは王女じゃなくて……、いやここは王女で良かったな。プリムラ王女の暗殺に最初から参加していたのか」

「ああ、そうだ。虎を操るエルフが王女の殺害に失敗したということで、我々へ依頼があった」

「つまり今回の襲撃は三度目となるんだな」

「笑うがいい。今回の失敗で我々も消されるだろう。それが組織の倣いだ」

「王女じゃなくてプリムラが言う通り、それでは一回足りないぞ」


 ユリウスが何を言っているか、ゼノンはわからない。


 真向かいに立つイザークが、なるほどとした顔で口を開く。


「ドラゴ部族と戦いの最中に、どさくさで王女の命を狙われた件が不明だな」

「あれって、グネルスの皇王の指示じゃないんだ」


 へぇ〜とした調子でベルが問えば、囚われのゼノンら暗殺者三人も耳を立てる。


「暗殺のために用意された傭兵の数や、味方のふりした偽装騎兵といい、手の込み方からして後ろ盾は皇国だろうと思い込んだことが失敗だったか……」

「グネルスではいろいろあって、早々に引き揚げるしかなかったから、しょうがないんじゃない」


 迂闊とするイザークを、ベルがなだめる。


 おい、とユリウスはゼノンらへ向かう。


「おまえたちに王女の暗殺を依頼した者は誰だ。教えろ」

「我々に依頼者は誰かなど告げられることはない。ただ実行するだけだ」


 ゼノンの堂々といった返答である。疑いにくい。


「俺の知らない王女暗殺を謀る者が、まだいるということか」


 ユリウスは声だけでなく表情も厳しい。


 雰囲気が重くなれば、ヨシツネの出番だ。


「団長ぉ〜。こいつらという餌があるじゃないですか。暗殺団なんて仕事柄、いろいろしゃべられては困るでしょうから、先方さんから始末にやってくるでしょ」


 そうだな、とユリウスの表情が少しほぐれた。他の四天からも言葉にしなくても了解の意が伝わってくる。


 じゃ、行きますか! とヨシツネが号令をかけつつゼノンら三人を引き立たせた。

 プリムラたちが待つ洞窟へ戻るべく足を向ける。

 ユリウスと四天の四人による人質を囲う輪が解かれていく。


 その一瞬を突かれてしまった。

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