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18.漢は滝壺で語らう③(結局は、となる)

 ユリウスを放っておけば、滝行はいつまでも続けられるだろう。


 プリムラ並び四天(してん)の四人の結論であった。

 ならば頃合いを見て迎えに行く者が必要だろう、となる。


 ここは婚約者に任せることに、異存はない。

 ただプリムラが一人きりで行くとくれば、侍女が黙っていられない。

 元々がニンジャという裏の顔を持つツバキである。身の回りの世話以上に護衛の任としてそばにいる。承服しかねる旨を強く訴えた。


「森の国の奥深くですから、ツバキが心配するには及びません。それにここは二人だけで話しをさせて欲しいの、お願い」


 プリムラの気持ちはツバキだってわかる。ユリウスの問題だからこそ、将来を誓う婚約者として考えを分かち合いたい。今回は特に事の重さが違う。じっくり話し合うべきだと理解はする。だが安全とされても、初めて訪れた土地である。心配はどうしても先立つ。


 おい、ツバキ、とヨシツネが呼んできた。


「姫さん、一人で行かせてやれよ」


 むっとなってもツバキは面に出さない。チャラ男がうざい、とする苛つきは口まで迫り上がってきたところで止める。普段通りの冷たいに寄った口調で返す。


「不慣れな土地なれば、用心に越したことはありませんわ。姫様に万が一があったら、私は生きていられません」


 そうなんだけどよぉ〜、とヨシツネがあっさり首肯してくる。

 ツバキとしては少々拍子抜けしたくらいだ。だから次の切り返しに、してやられてしまう。


「でもよぉー、今回ばかりは団長と姫さんの二人だけで話し合わせなきゃいけなくねーか。二人は人生重大の岐路に立たされているって感じ、おまえだってするだろ」


 ツバキは内心で、このヤロウ、と悪態を吐く。こんな言い方されたら、強く出られない。しかし……、とあくまで反対を示すもののだ。

 わたくし、独りで行きます! とプリムラの強い決意に引き留められなかった。


 拭き布を持ってプリムラが会談の広場から出ていく。


 残されたツバキは余計な真似をしたヤツを睨みつけてやるつもりだった。


「そんじゃ、行くとしますか」


 明るいヨシツネが右の拳で左の手のひらを叩いている。張り切っているようなのは明白だ。

 行こ行こ、とベルが当然のように返事している。

 二人の、特にヨシツネの豹変ぶりにツバキは声を尖らさずいられない。


「ちょっと。一体なにを考えているのですか」

「ナニって、それは盗み……姫さんの安全を影から見守るに決まってんだろ」


 ツバキは内心にて、こいつぅ〜、と歯軋りする。こっそり追いかける前提でプリムラを行かせた、たちの悪さである。さらに腹立たしいのはそれが自分にとって望む行動である。悔しいが一本を取られてしまった。


「では、まいりましょう」


 懸命に平静を装って返事をしたら、ヨシツネが意外そうに返してきた。


「えー、なに。おまえも行くのかよ。いいよ、来なくて」

「なんですか、それ。姫様の侍女である私は行って然るべきでしょ」


 かちんときた感情を、今度こそツバキは隠せない。


「でもなぁ、おまえと一緒だと、ほら、バレそうじゃん。前がそうだったからよ」


 以前にツバキはヨシツネと二人でユリウスとプリムラの逢瀬を覗いている。途中で発覚して、非常に肩身が狭い想いをした。初めての口づけを交わす機会を邪魔したと目されている。

 さすがに二度目はまずいだろ、とヨシツネが後がないと調子で言ってくる。


「でもあれは私というよりヨシツネ様の脇の甘さが原因の多くを占めているように思われますわ」 

「おぅおう、こっちになすり付けか。オレからすれば、そっちのせいだろ。他のニンジャより力が劣ってんじゃねーの」


 なんですって! とツバキは怒りをぶち上げた。

 ともかくおまえは来るなってことだよ、とヨシツネは火に油を注ぐ。

 喧々諤々な言い争いが開始された。

 が、長くは続かない。


「おい、どこへ行くんだよ」


 口論を中断したヨシツネが向く方向へ、ツバキも釣られるように視線を持っていく。

 広場を出て行こうとする四天の二人がいた。揃って振り返ってくる。


「別にー。ただ予定通り影から姫様の護衛をするついでに、ユリウス団長の様子も探るのさ」

吾輩(わがはい)も気になってしょうがないからのぉ」


 ベルとアルフォンスは事も無げに述べてくる。

 でもおかげでヨシツネとツバキの双方が同じ結論へ辿り着く。こんなところで言い争いをしている場合ではない。見合わせた顔を同じタイミングで振り向けた。


「待てよ、オレたちも」「すみません、私たちも」


 どう捉えても呼吸が合っている、声の重なり方だった。


 にやにや人の悪い笑みのベルに、ほぉーとアルフォンスは妙に感心してくる。言葉とされないゆえ、ヨシツネに返す刀がない。下手にこだわっているほうが、妙な勘繰りを受けかねない。

 なので、ごまかすように別へ振った。


「副長は行かないんですか」


 一人だけまだ当初の位置で動かないイザークへ尋ねる。


「ああ、とりあえずプリムラ姫はヨシツネたちに任せる。私は長たちともう少し話したいことがある」


 了解です、とヨシツネは本来の快活さを取り戻した。仲間同士とする阿吽の呼吸が気持ちを平常へ帰らせていく。

 オレたちは先に、と覗き見するための合流を果たし出ていった。



  ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※



 遅れてやってきたイザークは腰を屈めた。

 草木の影に身を潜める他の三人とツバキへ寄れば、さっそくだ。


「どうだ、ユリウスたち……」


 訊いている途中で気がついた。

 先に来ていた四人も同様に察知したらしい。


 暗闇でもお互いの表情がわかるくらい顔を寄せ合う。

 無言でうなずき合えば、一斉に振り返る。


 四天の四人とツバキが立ち上がれば、予想通りだった。

 夜闇のせいで黒いシルエットにすぎないが、確かに人影はある。

 しかも、多数だ。


「あら、さすが。やっぱり勇将とする評判は伊達じゃないわね」


 女の声には聞き覚えがある。

 雲が退いたおかげで、月の灯りが地上へ届く。

 見覚えのある顔を照らしだす。


「つけられたか」


 イザークの呟きに、先だって知り合いになった女暗殺者は哄笑で迎えた。


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