ひとときの穏やかな日常
今日もジャンル別日間ランキングに載っていました。
いつも読んだくださっている皆さん、本当にありがとうございます。
ここ1ヶ月の間で交友関係を広げられたと思う。
スザンヌにルイーズ嬢、シャグラン様。
一人ひとりそれぞれの悩みや問題があったんだな。と改めて気づき、私だけが大変な状況にいるわけではなく、皆それぞれ大変なのね。と学んだ。
そんなこんなで、私は、今のところは悪役令嬢にならないで日々を過ごせていると思う。
そして、昨日は大発表があった。
「1ヶ月後に魔法戦を開催する」
とクララ先生から伝えられた。
当初の動機とは少し変わるが、まだ、殿下と距離を置きたいという気持ちは残っていた。
ゆっくりと、前世から好きな人に対するこの気持ちを整理したいわ。
そして、私はこの世界で結ばれることはないけど、好きな人がいるのだし、殿下にもぜひ素敵な恋をしてほしいわ。
さらに、攻略対象のような見た目のケイン様の側にいたら、いつケイン様の婚約者である私が悪役令嬢ポジションになるのかわからないわね。これは私と、私の家族にも悪影響が出るわ。
だから、私はケイン様がヒロインを見つけるまでは距離を置いておきたいわ。という気持ちがあった。
この目的を達成するためにはこの魔法戦を制さなければならない!
そう、私が気合を入れていた時だった。
シャグラン様から声をかけられた。
「メイベル嬢〜。魔法戦で少しでも結果を残したいから、ぜひ私に魔法を教えてくれないか?」
「ええ。いいですよ。一緒に練習しましょう」
練習相手がいるのは、私にとってもいいことね。そう思って、シャグラン様の提案を快諾した時だった。
ケイン様がやってきた。
「魔法戦の練習だったら、沢山いる方がいいよな。だったら、俺も一緒に練習させてくれ」
「ええ、もちろん、いいですよ」
ケイン様はお強いから、私も強くなれるし、とても良い練習になるわね。と思って、ワクワクしているうちに、どんどん仲間が集まってきた。
結局は、ケイン様、シャグラン様、スザンヌ、クリスティナ、ルーカス、オリバー、私というメンバーで練習することになった。
そして、いつも通りに私はケイン様の隣を歩いていると、急にケイン様が話しかけてきた。
「何があるかわからないから、魔法戦は気をつけろよ」
「はい。でも優勝が目標です」
「ということは、俺に勝つということだな?勝てるといいな」
ケイン様は少しからかいを含めた口調でそういった。私は負けたくない!という気持ちで改めて会話のキャッチボールを続けた。
「ええ。絶対勝ってみせますからね。覚悟していてくださいよ」
あら?このセリフは少し悪役令嬢っぽいんじゃないかしら?そう思っていた時だった。
「ふっ。ははっ」
ケイン様が微かに笑った。
初めて見る笑顔で、とても美しいと思い、危うく心臓を撃たれかけた。
きっと、こんなに素敵な笑顔の持ち主だから、令嬢たちからも人気があるのね。と納得のいく笑顔だった。
2人の間に和やかな空気が流れ、2人とも2人の世界に入り込みすぎて、それを見るある者が恨みがましい目をしていたことに気づいていなかった。
そして、魔法戦の練習場にやってきた。
またもや、あの美しい湖の前だ。
この美しい湖のそばには芝生の敷地が広がっていて、魔法の練習にはうってつけの場所だった。
「さぁ。始めようか〜」
そう、シャグラン様が言って、まずは私とシャグラン様が練習をし、残りのメンバーは各々でペアを作ることになった。
「ねぇ、メイベル嬢〜。強い風はどうやって起こすのかな?」
「それでしたら、竜巻や台風をイメージしてみるといいですよ。シャグラン様は魔法の素質はあるので、あとはイメージだけだと思います」
「そうか〜。イメージだけね……」
シャグラン様の距離の近さに慣れたつもりではいたけれど、やっぱり、今日も距離感が近いのね。でも、友達同士なのだし大丈夫かしら。
そう思って楽しく練習を続けていた。
そして、ペア交換の時間となり、ケイン様とペアになった。
「じゃあ、勝負をしようか」
「はい、受けて立ちます」
私とケイン様はケイン様の攻撃スタートで実践をすることにした。実践時には、万が一のことを考慮して、危険とみなされた時は魔法が無効化するブレスレットをつけることになっている。この無効化が起きたら、決着が決まるというシステムだった。
「ファイアー・ボム」
「ウォーター・シールド。ウィンド・カッター」
「アース・ウォール」
私は連発で魔法を出した。しかし、ケイン様も強いのでここで勝負が決まることはない。
私は、魔法が得意なので、普通の学生との試合だったら、1分ほどで終わるだろう。でも、殿下はとても強くて、10分ほどお互いに魔法を繰り出しても決着はつかない。
そんなこんなで、私は体力勝負となった。
闇魔法はかなり体力を使うので、最後の切り札として残しておこうと思い、この火魔法で勝ってみせるわ。と思い魔法を発動した。
「ファイアー・バースト」
私は、勝ちたい!という気持ちを込めて、でもケイン様なら軽々と避けそうね。という気持ちの半々を持って結果を見た。
すると、魔法の無効化が起き、ケイン様は膝をついていた。
っっ大変。大丈夫かしら?
私は慌てて、ケイン様の方に走り出した。
「っっケイン様。大丈夫ですか?」
「あぁ。やっと、俺を見てくれたな。(君が俺の元に……こんな近くに来てくれた)」
最後の一言は聞こえなかったけど、私は慌てて右手を差し出した。
「ケイン様。立てますか?私の手を掴んでください」
「あぁ。ありがとう」
そう言って、私はケイン様に右手を差し出したのだが、ケイン様の力が思ったより強く、バランスが保てなかった。そうして、逆にケイン様の腕にすっぽりと包まれるような形になった。
「……すみません。」
「いや。大丈夫だ。(あぁ。俺の腕の中に彼女がいる。……幸せだ。)」
またもや、最後の一言は聞こえなかったけれど、私は、私を包む大きい筋力に気づいた。私は、自分の筋力不足を自覚し、こんなに筋力がないのに、ケイン様に手を貸すなんて100年くらい早いかしら?と思い、恥ずかしくなり顔が赤くなった。
そんな2人を見て、スザンヌ、クリスティナ、ルーカス、オリバーはこんな会話を繰り広げていた。
「遂に、殿下ターンでしょうか?」
「ええ、殿下が本気を出してきたわね」
「ああ。あれは本気だ。ずっと昔から、メイベル嬢への思いが爆発してるもんな」
「膝をついて、負けたのも抱きしめる機会を狙ってのことだと思います。なぜメイベル嬢は気づかないんですかね?」
「でも、意識はしているんじゃないか?」
「うーん。メイベル嬢の性格から考えると、別の子とも考えてそうよね」
私は、この会話があったことを露知らず、結局、この試合の後、全員が練習に満足したようで帰ることになった。
私は今回の練習を踏まえて、強くなるためには、本格的に筋力をつけるべきかしら?と思い悩んでいた。
ーー後に起こる出来事の原因となる不穏な空気に気づくこともなく。
読んでいただきありがとうございます。




