今日も夢を見る(sideケイン)
今日もよろしくお願いします。
「愛している」
たった5文字のたった一言。
しかし、その言葉はとても、とても重いと思う。
◇◇◇◇
メイベル嬢がいないことに気づき、心配になり彼女を探した。そんな時にあの第1王子の口から発せられた「愛している」という言葉。
俺は、彼女があの第1王子に返事をする言葉を聞きたくなくて、その場にいたら告白の邪魔をしそうで、その場を離れた。
あの第1王子はいいよな。愛していることを自覚して、すぐに伝えることができて。
俺は、きっと一生伝えることはできないのだろう。
俺のこの言葉には代償が伴うのだから……
俺は生まれた瞬間から前世を覚えていた。
それを隠すため、幼少期は限られた人としか会うことができなかった。
そんな中、俺が6歳の時、メイベル嬢と出会った。
その瞬間、懐かしさと愛おしさを感じた。
そして、気づいた。
メイベル嬢って、俺が前世でも、今でも、好きだと思っている人にあげようと思っていた乙女ゲームの主人公じゃないか。と。
だったら、ここは俺が前世に予約したけど、結局は渡すことが叶わなかった乙女ゲームの世界なのか。と思い出した。
それから、俺はメイベル嬢を守ることを決意した。
俺が好きな人は、周りに困っている人がいたら必ず助ける人だったから、俺もそうしよう。と思っての決意だった。
メイベル嬢は主人公といっても、一見ヒロインではなく悪役令嬢に見え、さらには性格も悪役令嬢的なキャラだ。
そんなキャラがどんどん更生して、性格も優しくなり、外見もド派手から清楚な美人に大変身する。しかし、大変身できなかったり、ルートを間違えれば、バッドエンドもある。という乙女ゲームだったはずだ。
何と言っても、好きな人に渡す予定で、俺は乙女ゲームに興味がなかったし、彼女が乙女ゲームに飽きたら、
「そろそろ本格的な恋愛を俺としないか?」
とさりげなく告白する予定で、その予定の方が、俺の中で大きかったので、内容もよくわからない。
予約する時に読んだあらすじと、パッケージの攻略対象を何となく覚えている程度でしか、この世界のことは知らない。という状況で決めた決意だった。
だから、覚えている範囲で様々なことをした。
でも、まさか、乙女ゲームの舞台が都市ではなく、公爵家の領地の学校とは思いもしなかった。
メイベル嬢が突然、異例の早さで転校を決めた時に、もしかして、何か状況が変わったのではないか?
と何となく感じ、メイベル嬢を守るため、慌てて視察という名目を作り、後に同じ学校に転校することにした。
そんなこんなで、メイベル嬢が通うことになった学校の同じ教室に、先に着いて彼女が入室するのを待っていた。
そしたら、驚くべきことが起きたのだった。
メイベル嬢の自己紹介が終わった後に、落ち込んだ様子で肩を落とし、トボトボと歩きながら、少し指をモゾモゾする仕草。
それに、既視感を感じた。
お、俺の好きな人と同じ癖だ。
彼女も落ち込むと肩を落とし指をモゾモゾしていた。
ま、まさか彼女が転生したのか?そんなはずが……
そう思ったのだが、誤解ではなかった。
次々とヒロインに見せかけての悪役令嬢候補たちを救っていく。挙げ句の果てに、隠れ攻略対象の第1王子まで救っていた。
特に、彼女だと確信した出来事が、チルダーナ嬢がグリフォンに命を狙われた時、彼女が真っ先にチルダーナ嬢の前に飛び出したこと。
この出来事はあの日と一緒だ。
俺たちの幸せな日常消え去ったあの日。
転生をしても、人間性は変わらないのだろう。
俺が、あの日を何度も繰り返しても同じ行動をとるように、彼女の根本的な考え方も変わらないのだろう。
そう。きっと、神様が俺が死ぬ前の願いを叶えてくれたのだと気づいた瞬間だった。
それと同時に、俺の気持ちを一生伝えることができないことも悟った瞬間だった。
俺たちが死んだあの日。
彼女と出かけていた幸せだったあの日。
彼女の目の前を小さな女の子が横切り、大きなトラックが走る道路に飛び出してしまった。それを見た彼女は慌てて、女の子を守った。
俺は、きっと俺がどんなに助けようとしても、トラックのスピードを考慮すると、彼女は助からないと気づいた。俺にとって、彼女がいないのならこの世で生きる意味はない。そう思って、彼女を庇うように彼女に覆いかぶさり、共に死んだ。
その時に、俺が願ったのが3つだった。
「もう一度、彼女と同じ世界に生きたい。今度こそ思いを告げたい。そして、この死んだ瞬間の記憶は彼女に残らないでほしい」
2つの願いは無事に叶えてもらえた。それだけで感謝だ。
思いを告げることは叶わない。思いを告げたら、きっと彼女は前世を思い出してしまうかもしれない。
きっと、俺の死を自分のせいだと思って罪悪感に駆られてしまうだろう。
彼女にそんな辛い思いはさせたくない。
彼女が、辛い思いをしないで済むのなら、俺は思いを告げられなくても我慢できる……
君は、話すことが苦手な無口で無表情な前世の俺に、
「何も言わなくても、何が言いたいのか何となくわかるよ。だから、無理をして言葉を紡がなくていいよ」
と言ってくれた言葉に期待して。
前世でも、俺が君のことを"死ぬほど愛している"という気持ちには気づいてもらえなかったけど。
今度こそ、君が気づいてくれることに期待して。
今は前世の自分が、思いを伝えられる環境がどんなに幸せなのか思い出して、後悔することもあるけれど。
まずは、彼女の今世の安寧を築き上げてみせると意気込み、今日も自分の心に重い重い、蓋をする。
"いつか、この気持ちが届くように"
"いつか、このありったけの想いを言葉で伝えられるように"
そんなことを夢見ながら。
初めてのケイン視点でした。
読んでいただきありがとうございます。




