私が本当にしたかったこと
今日もよろしくお願いします。
ルイーズ嬢との話を終えた次の日、ルイーズ嬢から告白の結果を聞いた。
ルイーズ嬢は
「遠い昔からずっと、ずっと想っている人がいる」
と殿下に言われ、振られてしまったそうだ。
でも、ルイーズ嬢は殿下の本音を聞けてどうにか殿下のことを思い出にできそうとのことだった。
そして、ルイーズ嬢は
「マクガーン様も頑張ってくださいね」
と言い残し、さわやかな笑顔で去っていった。
そんな私は、現在悩んでいる。
ここ最近、寝ている時に、夢で前世のことを見る事が多くなった。でも、何故か私の詳しい死因はわからないし、いつも隣にいてくれた誰かに関してだけは思い出せない。
どうしてか、あの湖は私にとって落ち着く場所となっているので、あの湖でも見て何か考えようかしら。と思い、ルイーズ嬢との話し合いの場でも使った湖に向かった。
そうして、湖に向かっている時だった。
「どうして。どうして、オレだけは異能も持たないで、魔法も得意ではなくて、何ができるからこの立場なんだ。もう嫌だ」
そういう呟きが聞こえた。
その呟きの主はシャグラン様だった。
シャグラン様は辛そうに、そして、泣くことを我慢しているように見えた。
私は、どうしようか迷っていた。
シャグラン様の側で慰めるのか、それとも見ていないフリをして立ち去るべきか。
私は思い至った。人には誰しも少なからずプライドがある。きっと、誰にも見られない場所で悩みを吐き出したかったから、この落ち着いた水面の湖の前で呟いているのだろう。
この水面を見るだけで、自分も落ち着きを取り戻せるから。
だったら今日はシャグラン様に場所を譲ろう。
そう思って立ち去ろうとした時だった。
「メイベル嬢、君はいいよね。
魔法の才能も持ち、きっと異能も持っているんだろう?」
「っっっ」
シャグラン様は、私に気づいていたようで、私が結論を出す間に、私の前に立っていた。
「気づいていたんですか」
「まぁ。一応、名ばかりで周りから不要だと思われてかるけど、第1王子だしね〜。
人の気配を読むことくらいはできないと」
「シャグラン様が不要ってことはないと思いますよ」
「君に何がわかるの。君は、魔法の才能もあるし、異能も持っているし、人生勝ち組だよね」
「私は、異能と言っても特に何もできません。魔法は、願いを込めているだけなんです」
「でも、魔法が使えるからいいじゃないか。オレは髪が黒いという理由で、周りに異能持ちだと勝手に期待されて、挙げ句の果て失望されたんだ。この気持ちがわかるか?きっとわからないだろう」
「……わかります」
そう。何故か、私は、共感してしまった。
そして、私は、また少し前世を思い出した。
小さい時に何故か両親に期待されて、沢山の勉強を習っていたのに、それを結果に出せず失望させてしまった経験を。
「わかります。今経験しているわけではないんですけど……
でも、結局自分の人生は自分のものなのだから、自分の持っている力を伸ばして、生かすのも自分しかいないと思うんです。
王族の方は難しいかもしれませんが、自分の本当の気持ちを大事にするのも大切ですよ」
「……オレは、髪が黒いのに異能を持っていない。でも、王族として我が民たちを守り抜きたい」
「ええ。きっとシャグラン様ならできると思います」
シャグラン様は、女性から人気があったが、一人ひとり丁寧に対応するということで、さらに評判が良かった。
私はそんな評判を思い出して、一人ひとりを大切にできるシャグラン様は、きっと立派な王様になるのでしょうね。と思った。
「でも、オレはまだ周りを守る力がない。だから、魔法をうまく使えるようになりたい」
「ええ、きっとできると思います」
「ああ。ありがとう。ところでだが、さっき言っていた"願う"とは何だ?」
「ええと、頭の中でイメージするんです。
例えば、風魔法のそよ風を吹かせたいなら、優しいサワサワと流れる風をイメージして、その風が欲しいな。って願っているんです」
「ああ。何となくわかった。具現化して、それが欲しい!と強く持つ。ということなんだな」
すると、シャグラン様はまた話を続けた。
「ここまで話したから話すのだが、オレは、きっと王族から邪魔者だと思われて、この国にやってきたんだと思う」
「どうしてですか?」
「オレたちの国では、異能を持つ人々は多いのだが、オレは異能も持たない。そして、血の繋がらない義理の弟がいるんだ。オレの母上が死んで、その次に、父上が娶った母上から生まれたんだが、父上と義理の母上はきっとその弟を王にしようとしている。」
「シャグラン様の国の内情はわからないのですが、異能を持たないということは、ある意味強みにもなると思います。例えば、異能を持たない人ならではの視点での考え方や、異能を持たない人にも寄り添える政策を作るとかがあると思います。
一人ひとりに寄り添えるシャグラン様はきっと何でもできると思いますよ」
「……そうか。そうか。ありがとう」
「はい。それでは」
そう言って、私はシャグラン様と別れようとしたのだが、シャグラン様は私の手首を掴んだ。
「待ってくれ。オレは君の瞳が美しいと言って告白したことを覚えているか?」
「ええ、あの時は、からかったんですよね」
「からかったとは違うが、君が異能持ちだと思って、嫉妬に駆られて、異能持ちの美しい君を異能を持たないオレに夢中にさせてみたかったんだ」
「……そうなんですか」
「あの時は悪かった。そして、仕切り直させて欲しい」
「大丈夫ですよ。仕切り直しとはなんでしょう?」
シャグラン様は、戸惑う私の両手を握りしめ、熱のこもった瞳で私を見つめながら続けた。
「君が好きなんだ。いや、きっとこれは愛している。きっと、初めて会って、君を夢中にさせたいと思ったあのときから、ずっとずっと好きで、今、愛していると思った。どうか、オレとの未来を考えてくれないか?」
愛している。という言葉を聞いた瞬間だった。私もその感情を知っている。と直感的に思い出した。
きっと、まだ何故か名前を思い出せない前世のあの人だけど。あの大切で大好きだった人。
ああ。私は誰かと恋愛をしたかったんじゃなくて、たった1人の、あの彼と恋愛をしたかったんだわ。
そうでなかったら、きっとシャグラン様の告白は素直に嬉しかったはずだもの。でも、今の私は応えられなくてつらい気持ちと、名前を思い出せない彼にどうしても会いたい。という気持ちに駆られてしまっているもの。
そう思い、私は急いで答えを出した。
「シャグラン様。ごめんなさい。私は心に決めた人がいるんです。だから、お気持ちには応えられません」
「そうか。皇太子か?でも、このまま友達は、続けてもらえるか?ぜひ、まだ魔法も教えてもらいたい」
「それは言えませんが……。友達は大歓迎です。魔法も答えられる範囲ならいくらでも教えられますよ」
そう言って、シャグラン様と別れた。
私は、前世でとても大切にしていたこの恋心を、今はいない彼だけど、今世でも大切にしたいし、もう少し思い出して、整理したいと思った。
そして、この気持ちをどうケイン様に説明するか悩んだ。婚約者なのに、別の、しかも前世からずっと好きな人がいるって言われても困るわよね。
あら?でも私はケイン様から逃げ出す予定だし、ケイン様も好きなお方がいるのだし、タイミングを見つけていつか話せばいいのかしら?
でも、まずは前世の彼の名前を思い出すことからかしら?
私は、突然思い出した恋心によって、混乱が生じてしまっていたからだろうか、誰かが途中までシャグラン様との会話を聞いていた事に、ちっとも気づかなかった。
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短編書きました。
改稿前
私は魔法を使えるらしいので、最低な婚約者とその相手に倍返しする〜その後の人生は私の自由ですわ〜
https://ncode.syosetu.com/n7508in/
改稿後
初級光魔法で婚約破棄してやります!(※ただし、禁忌の闇魔法をバレないように使いますわ!)〜その後の人生は私の自由ですわ〜
https://ncode.syosetu.com/n2738io/
上の作品は今作品の連載を終えたら、連載しようか悩んでいる作品です。
改稿前と後はキャラ設定が違います。
この作品と世界観は少し似ていますが、内容は全然違います。
お時間ある時に、2つの作品を投票気分で読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




