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朝から騒々しいな!

私は今、何をしているのだろうか。

走り出した馬車の外から手を振る両親達を眺めながら思い返す。


今日から学園が始まるため、朝早くから支給された制服に袖を通し、鏡の前で制服の可愛さを一通り堪能した。その後、朝食だ!と父と母が待つ食堂へ行き、両親からもこれ以上ないほどの賛美の言葉をもらい。

いつも通り美味しい朝食を終えて。メイに「そろそろ時間ですよぉ〜。」と言われて、身嗜みの最終チェックをして。

二階の自室から出て、玄関へ繋がる階段に差し掛かった瞬間。

いつもより玄関が騒がしく、輝かしい雰囲気がした。

両親が初登校の私を心配して見送りしようとしてるんだろうなぁ!と、両親の優しい温かさに感激しながら階段を降りて。

私はその場からヒールなのも関わらず、脱兎の如く逃げようと試みた。…なんでって?なんでってそりゃ、一つしかないだろ。

居るはずのない人が、とびっきりの笑顔で私に手を振るんだぞ!天国から迎えが来たかと思ったわ!

……単純に恥ずかしかっただけ、だけど。

で逃げようとした瞬間、母が「ユミリーネ・ヴェイハンズ!」といつぞやの王妃のように呼ばれ、怒られる恐怖が身に染みている私はすぐに足を止めて。すると居るはずがない人が、それはそれは良い笑顔で、コツコツと踵を鳴らしながら近付いてきた。あぁ…学園の制服なのに格好よく見えるなんて…。ちなみにドス黒オーラを纏いながら、だが。

母の声と目の前の人物とでその場で固まっている私のそばに来て、スッと私の左手を取り口元に寄せる。

「…リーネ?朝から熱烈な歓迎だね。自分を追いかけて欲しい、と。そんなことしなくても追いかけるのに。」

笑みを浮かべてはいるが、その瞳は私を逃すまいとする捕食者のような色を宿している。…いつからジョブチェンジしたんだ、こいつは。

相変わらず固まっている私の左手にそっと口付けを落とすと、母が声を張る。

「シュナイド王太子殿下!我が家でそのような行為は許しません!あと私はまだ認めていないわ!」

目の前の人物―――シュナイドは母の言葉に反論はせず、大人しく手を離す。一つ溜息を吐いてから、母に向き合う。

「承知しました、義母上。…時間も迫ってますし、リーネは一緒に連れて行きますので。」

「貴方の義母になった記憶はないわ!」と放つ母の言葉に見向きせず、私をエスコートするために手を差し出す。いつもの癖でそのまま手を握ってしまったのが、運の尽きだったようだ。

「なんで逃げようとしたのか、馬車の中で聞かせてもらうね?」

「そ、それはぁ…!って、え?馬車の中?どういうことです!?」

「そのままの意味だよ?リーネは俺と同じ馬車でこれから、毎日、学園へ行き来するんだから。」

「は?」

やっべぇ!あまりに頭が追いつかなくて素が出てしまった。折角最近はちゃんと令嬢らしくしてたのに、砕けた話し方でも慣れてきたのに。

「久しぶりに聞いたね、リーネの素の言葉遣い。あぁ、君のそれで考えてることがよく分かるから、直さなくていいよ。」

……なんか無性に直したくなってきたな。あの件以降、人として生まれ変わったと言っても過言じゃないシュナイド、だけどこの悪戯なのかなんなのか。そんな顔を未だに持ち続けている。他の人にはしてるとこ見たことないのにな、喧嘩売られてるかこれ。

ジトーっと不満を込めて見てやれば、クスッと笑って私の手を引く。強引さはなくて、だけど私をちゃんと導いてくれる強さで。あぁ…好き。結局流されてしまう私である。

両親に挨拶をして、玄関を出て門の前に止まっている豪奢な馬車に乗り込む。何度も乗ってはいるが、やっぱり中は広いし座席はフカフカだし。いやもちろん、私ん家の馬車もすごいよ?負けず劣らず乗り心地は快適だ、でもそれよりもなんか良いんだよなぁ。理由は全く分からんけど。

快適さを実感している私をよそに、シュナイドは御者に合図を送り馬車を出発させる。そして鞄から紙を取り出し、静かに目を通している。何を読んでいるのだろうか、と気になってシュナイドを眺める。サラッと輝く金髪が前に垂れて、それを長く綺麗な指で上げてる。紙を読むために下を向いているから、伏し目がちになってて、まつ毛の長さも綺麗に目立って。スッと通った鼻筋、発色の良い唇、と下に視線が行った頃。

「……リーネ?見つめてくれるのは嬉しいんだけど、もっと別の時にもしてほしいな?」

シュナイドに言われてハッと視線を上げると、頬を僅かに赤く染めている。片手で口元を覆い、気恥ずかしそうにしている。なんか…見てはいけないものを見てしまったような感覚に陥る。と同時にシュナイドの言葉が頭を巡る。

ボンッと音がしそうなほどに熱くなった頬を抑え、頭を下げる。

「ご、ごめん!無遠慮に…!決してイヤらしい思いで見たわけじゃないから!!」

平謝りしながら、なんで男がしそうな言い訳を自分がしているのだろう、と思っていると。

トスン、と自分の横側に誰かが座ったような気配がした。いや、誰かってシュナイドしかいないが。セルフツッコミもこの数年で上手くなったものである。

「ほら、リーネ。顔を上げて?折角君と乗っているのに、気が利かなくてごめんね。」

私が寂しいと思ったのか、シュナイドは私の垂れた髪を上げながら見つめる。……いや寂しいとかじゃないのよ、ただ綺麗だなーって見てただけで。

「シド…。でも書類は良いの?大事な仕事でしょ?」

何の書類確認かは聞いていなかったが、王太子として公務を徐々にしている彼のことだ、それに関連することなのだろうと聞けば。

「ん?あぁ、これは新入生代表として挨拶の言葉が書いてあるだけだよ。最終確認と思って見てただけ。」

そう言って私の肩を引き寄せ、紙を見せる。うぅ…、普通に見せてくれりゃいいのに、なんで一々ドキドキさせるんだ!

おかげで見せられた紙の内容なんて一つも入ってきやしなかったんだが…。

はぁ、惚れたりしなかったら間違いなく殴ってたな、命拾いしたなシド。なんて考えて現実逃避をし続けていた。

そんな私をとても愛おしそうに見つめるシュナイドは、これ幸いとばかりに私を抱きしめたままだった。




さて何やかんやで、今日はもう家へと戻り就寝の時間である。…ん?何があったか教えろ?いや、もう何もなかったからすっ飛ばしたんだ、察しろ。…誰に言ってんだか、自分でも分かんなくなってきたな。多分気付かないうちに疲れたんだろう、よし寝るか!

―――翌朝、メイに揺さぶられるので目が覚めた。ぐーっと伸びをして目覚めの良い朝を感じたあと。

「…メイ。」

「……はぁい。」

起き上がり、ベッドの縁に腰をかけた私はメイを呼び、メイは何を言われずとも目の前で正座を始めた。

「なんで呼ばれたか分かってる?」

メイをジッと見つめ、問いかける。怒られるのを理解しているメイは俯いたまま答えた。

「…お嬢様を揺さぶって起こしたからぁ、です…。」

「正解。毎日言ってるよね、揺さぶらなくても起きられるって。なんなら小さい頃から。違う?」

はぁい…と答えるメイに、どんなお仕置きをしようか考える。腕立て二百回は昨日やらせたし、腹筋五百回もやったよな。庭十周も最近難なくこなすようになっちゃったしなぁ。

ま、メイが揺さぶって起こさなきゃ済む話なんだけどな!おかげで毎朝こうしているのだ。本人曰く一番早く起こせるらしいが、私はいらんと言っているのにも関わらず、習慣付いたせいで毎朝怒られている。…いっそのこと、二重に鍵を掛けるか。そうすればメイも入れないから、外から声を掛けてくるだろう。よし、お仕置きは決まった。

「メイ。今日のお仕置きを発表します。」

お仕置き、と聞いて青ざめる。……いや無理難題は言ったことないからな?メイが「最近運動不足でぇ…」と嘆いていたから、強制的にやらざるを得ないようにしただけで。だから悪魔を見るような目をすんな。本当に悪魔的な所業させても良いんだぞ。

「今日はお使いを命じます。…簡単でしょう?」

「はい!…ちなみに何を買ってくればいいんですかぁ?」

よし、気持ちの良い返事を聞いたぞ。

「扉に新しく付ける錠と鍵よ。それがあればメイもお仕置きを受けなくて済むでしょ?」

目をキラキラ輝かせながら何度も頷くメイを見て、気をつけてくれれば済む話なんだけどなぁ、と小さく溢す。

手をパンっと合わせ、嬉しそうに立ち上がる。

「ではお嬢様が学園へ行っている間に取り付けておきますねぇ!そうと決まれば馬車の手配を…」

「え?馬車はダメよ。健康的にランニングね。あっ、もちろん護衛はちゃんと付けさせるわ、いくら王都といえど危ないもの。」

食い気味に放った言葉でメイの動きがピタッと止まり、目の輝きが静かに消えてゆく。あれ程までに笑顔だったのに、今や無表情である。メイの無表情ってあまり見たことないけど、顔が整ってるからかやっぱり可愛いなぁ。なんてニコニコしながら見つめると。

ん?え?どした?私の足元に縋りついて、祈るように手を組み始めたけど…。えっ、怖。無表情で見上げんな、可愛いと思ってたのに。普通に怖いわ、貞子かなんかか。

「お、お嬢様ぁ…?私、いつも頑張ってますよねぇ…?」

「う、うん?頑張ってくれてるね、いつもありがとう…?」

「褒めていただきありがとうございますぅ…。」

褒めた、というより言わされた、が正しい気がするが今は置いておこう。目の前の貞子…メイ子をなんとかするのが先だ。

「私、お嬢様が快適に過ごせるようにぃ…頑張っているんです。」

「うん。本当にありがとう、メイのおかげで私は過ごしやすいよ。」

「私、お嬢様に必要不可欠ですよねぇ…?」

お?雲行きが怪しくなってきたぞ、これあれだな。あのーなんだっけか?なんかものすっごい病んでる人。…メンヘラ、メンヘラっぽいぞ!すげぇな、こんな風なんだ。

「お嬢様ぁ?聞いてますかぁ…?」

前世の友人がやってるゲームを見てて、こんな奴確かにいたよなぁ!何かとつけて刃物チラつかせたりしてた!私ならそんなことされようものなら、容赦なく刺される前に殴り飛ばすのに。実際出来る出来ないは別として、それくらいの意気込みで行くのに、と思ってた。

「あ、あのぉ…お嬢様ぁ?聞こえてますかぁ…?あれ?おかしいなぁ…。」

良くあるパターンだと別れ話になって、お前を殺して私も死んでやる!的なことだよな。ん?でも私とメイは付き合ってないし、主従関係だし刺されることはないよな。

なんてことを考えてた私は、あまりに無視されて泣いたメイが私に抱きついたことで現実に帰ってきた。




朝の一騒動を超え、漸く準備も整い玄関へ急ぐ。てか今更だけど屋敷に玄関って言い方合ってんの?つい癖で玄関言ってるけど、ふとした疑問なんだが。てか何年越しの疑問だよ。

そして今日も階段付近に差し掛かれば声が聞こえてくる。

「あら?私は許可を出していないのだけども。」

「義母上、そんなことを仰らず。私はリーネを守るにも最適ですよ?」

「あの子の貞操を守る方が大事だわ。貴方、すぐに手を出しそうな狂犬だもの。」

うっわぁ…。朝からえげつないこと言ってんよぉ…。確かに昔は手は出ずとも狂犬だったろうけど。今は立派な紳士に成長したんだよぉ…多分。腹黒さがあるから、絶対とは言わない。それだけは認めたくない。

「お、お母様〜?し、支度が整いましたので、行ってきます…」

「ユミリーネ、貴女が乗る馬車はそっちでは無いでしょう?」

あー!あー!私に矛先向いたぁ!なんで!なんでなん!?

動揺が過ぎて、エセ関西弁が出てしまった。

とりあえず助けを求めようと辺りを見渡すが…なんで!なんで父がいない!ストッパーはどこ行った!!

「あっ、旦那様は会議があるとかで早く出て行かれましたよぉ。」

私の後ろで控えていたメイが教えてくれた。……知ってたんなら先教えろやぁぁぁ!

「私ぃ、今日は傷付いているので手助け出来ません。」

「チッ!………やっぱり、お仕置き追加で隣町までランニングな。」

「ひぃぃぃ!私を殺す気ですかぁ!お嬢様の悪魔ぁ!」

メイの叫びで周りがピタッと静かになる。あーこれは。

「メイ…今、貴女なんと言ったかしら?」

もっの凄い笑みを溢すお母様。笑ってるのに笑ってない。笑ってるのに怒ってる。某俳優さんみたいなことをやっていらっしゃる。

「あっ、あっ…お、奥様ぁ…!」

怒りの矛先があっさりと自分に向かったことを理解したメイは、涙目で慌て始める。…大丈夫、酷いことは一切されないよ。ただ侍女としての在り方を延々と説かれるだけで。

朝のように母の前で正座をしながらお説教を食らってるうちに私は行かねば!

スッと入り口に立っていたシュナイドの元まで行き、同じくチャンスだと見たシュナイドにエスコートされながら馬車に乗り込む。

気付いた母が何か言いたげに見ていたが、まぁ帰ってきてから聞くとしよう!

では行ってきます!

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