誕生日…なのになぁ
今日は私が生まれた六回目の記念すべき日。そんなよく晴れた、気持ちの良い朝に思い出した。自分の前世、というものを。
あの苦痛でしかなかった人生の記憶と、忌々しい神と名乗るアイツのことを。
「なんだこれ!?なんか、なんだ…なんだこれ!?」
いやもう、なんだこれとしか言いようがない。今さっき思い出した記憶の中に神が言った、所謂『転生』をしたのは分かる。分かるけども、思い出すタイミングおかしくないか?普通は何かしらショックで思い出すもんじゃないのか。こんな誕生日迎えて、やったー!ってなってる時には思い出さんだろ…。
ちなみに転生だの思い出すタイミングだの知っているのは、前世で良くつるんでいた仲間の中に、やたらにゲームやら漫画やらに詳しい奴がいたから知った。あまり話すようなタイプじゃなかったけど、暇だったから漫画借りてたらいつの間にか仲良くなってた。おかげで現状把握が出来ている、ありがとうな。
「いやいや、にしてもおかしいだろ…。」
タイミングしか気にならない。なんせ今の生の記憶はしっかりある。なんなら、言葉遣いとか行動とかほぼ変わらずいたから、前世を思い出したとしても何ら問題ない。だからタイミングしか気にならない。
「はぁ…。どうせ、アイツがそう仕組んだんだろうなぁ。もう少し考えてくれって…。」
まぁ良い、誕生日として最悪のスタートだが、やることは分かっているし、変わらない。とりあえずベルで侍女を呼ぶ。するとすぐさま、扉をノックし、「入りますよ〜」なんてのほほんとした声が聞こえる。返事をする前に入ってきた。
「…返事してから入る、って教えなかったっけ?」
「そんな固いこと言わずに〜。お嬢様と私の仲じゃないですかぁ。」
どんな仲だ、こっちは主従の関係しか知らないぞ。そう思いながらも、いつものことなのでこれ以上は言わずにおく。
「とりあえず、着替えるから手伝って。服とか髪型は任せた。」
そう言って、ドレッサーの椅子に掛ける。うん、相変わらず美少女がいるな。
「もぉ〜、お嬢様ったらいつも〜。…分かりましたぁ、取り掛かりますね〜。」
渋々ながらもドレスをしまってある部屋へ、消えていった。言動からだと予想出来ないが、仕事はめちゃくちゃ早い。あと何だかんだ、居心地が良いから好きだ。
待っている間は暇なので、一応確認として今の生の記憶を思い浮かべる。
転生した私の名前は、ユミリーネ・ヴェイハンズ。トリート王国公爵のヴェイハンズ家の一人娘。顔立ちは…まぁ、ちょい猫目だが可愛らしい感じ。大人になれば、綺麗になること間違いなしだ。髪色は赤みがかったピンク、目は水色…確かラピスラズリっていう色らしい。ラズベリーの親戚かと思ったら違ったのは内緒。と総合的に見て美少女である。ナルシストと言われようが、事実なので仕方ない。言葉遣いは基本はちゃんとお嬢様らしくしているが、親しい人間や苛立つと出てしまうが母譲りなので、特に怒られたことはない。ただ人前では猫を被れと口酸っぱく言われたが。ちなみにさっきの失礼極まりない侍女はメイ、年齢は十六歳と若めだが意外にも仕事はテキパキとこなす。両親がこの家に仕えていたから、専属の侍女に任命された、らしい。
まぁ、ちゃんと五年…今日で六年か、記憶は一切抜け落ちることなく、私として生きてきていた。…そう考えると、思い出したからどうってことはないな。あー、早くご飯食べたい、お腹空いて仕方がない。朝ご飯はなんだろう、パンは主食として固定だが、主菜は毎日違う。昨日は王道なスクランブルエッグとベーコンだったから、今日はソーセージだと良いなー、なんて考えていれば、メイが着替えを持ってきて、ササッーと支度をしてくれる。…ドレスなんて重くて動きづらいのに、何故着ねばならんのか…。
愚痴を溢していても始まらない、まずは既にピークを迎えて、今にも鳴ってしまいそうなお腹を満たすことが先決。
「ありがと、メイ。さぁ、待ってろご飯!」
「お嬢様〜、またそんな言葉使うと奥様に怒られますよ〜。」
のんびりと言い放って、私の斜め後ろを付いてくる。まるで某ゲームの勇者になった気分だ、世界の命運を握っちゃいないが。長い廊下を歩き、ようやく食堂に着いた…が、中からとんでもない声が聞こえる。エラくドスの聞いた声というか、もうその筋のお仕事の方なんじゃないかと疑ってしまう声。
「もう一度、言ってみな。ユミリーネに、なんだって?」
なんだか胸ぐらを掴みに掛かりそうな雰囲気を察して、流石に止めなくちゃな、と思い中へ入る。
そこで見えた景色は…。
ちゃっかり父の胸ぐらを掴んでいる母の姿だった。あちゃー、遅かったか。既にやっちゃってたかぁ、なんて思いつつも挨拶をする。
「おはようございます、父様、母様。朝から仲良しですね。」
言葉遣いが違うって?そんなことしようものなら、父の位置に私がいることになるだろ。そんなもん絶対嫌だ、今まで出会った中で一番怖い人間だぞ。何度怒られたことか…。
学習した私は、猫を被ってとりあえず皮肉を込めて挨拶をした。こんな光景を見て、本当に仲良しだなんて言える奴はおかしい。淑女の鏡になるべき人が、この家の当主の胸ぐら掴んでんだぞ、どう考えてもヤバいだろ。
私の挨拶が聞こえたのか、母はサッと手を離し、優雅に返事をする。
「あら、おはようユミリーネ。ごめんなさい、見苦しい所を見せてしまったわね。」
赤味が強いピンク色の髪をウェーブさせて流していて、私と同じように猫目で瞳の色は、…確かルビーと言われていた。出るところも引っ込むところもある、抜群のスタイルを持ち合わせた美人。それが母、ミラ・ヴェイハンズ。
先程のドスの効いた声からは想像出来ないほど、優しく心地良い声で話しかけてくる。でも無理、怖いもんは怖い。私は前世でグレただけで、根っからの拳で語り合う派じゃない。巻き込まれて喧嘩をして強くなった、その程度。あんな光景を見て、母様〜!なんて笑顔で言えるわけない。…誰だ、軟弱だとか言った奴は。
でも母を見ていて思い出したことがある。前世の母もこんな感じだった。普段は温厚で優しいのに、怒らせると本当に怖かった。…でもやっぱり、好きだった大切な母。
しんみりとしてしまったのが伝わったのか、今世の母が側に来て頭を優しく撫でてくれる。…この手つきも本当に似ている。
「ユミリーネ?体調は大丈夫?今日は貴女の特別な日なのだから、無理はいけないわ。」
いつの間にか俯いてしまっていた顔を上げて、母を見れば心から心配をしているのが分かる。本当に…姿形以外そっくりだ。
…と、感傷に浸っている場合じゃない。母を心配させたいわけじゃないから、気持ちを持ち直す。
「大丈夫よ母様!…それより父様、顔が青白いけれど大丈夫かしら?」
話を逸らすために父に振る。先程まで母に胸ぐらを掴まれ、顔を青白くしている美丈夫。名はレイラーク・ヴェイハンズ。髪は短く、金髪。私の瞳の色は父から受け継いだのだろう、同じラピスラズリ色。シンプルにイケメンで、とても三十代に入ったように思えない。若い。…ちなみに母も同い年。宰相を務めているからか、眼光は鋭く圧が強い…のは、家族以外にだけ。家では母と私を溺愛し、更に今の光景のように尻に敷かれている。時折、仕事の疲れを癒すためか母と私をギュッと抱きしめる、それも「癒されるぅ〜!」なんてことを言いながら。…なんだ、こう思ったらこの家はヤベぇ奴しかいないじゃん。これで公爵家なんて世も末だな、自分んちのことだけど。
この家の現状を把握していれば、父がギギギーッと音が聞こえそうな感じで、私に顔を向ける。顔面蒼白ながら、めっちゃ笑ってる…、母とは違う意味で怖い。
「おはようユミリーネ!誕生日おめでとう!また私達の可愛い天使が生まれた日を祝えるのが嬉しいよ!」
オーバー過ぎる表現はまぁ、平常運転か。でも父よ、せめて青白い顔をしてない時に言ってほしかったな、犯罪臭がすごいぞ。
「ありがとう父様。…それよりも何を話していたの?私の名前が聞こえたけれど…。」
そう話を振った途端、和やかになりかけていた空気がピンッと張り詰めた。室内の温度も下がった気がする、主に私の隣にいる母を軸にして。チラーッと母を覗き見れば、…あー、あかんこれ。例えるなら般若の面レベル、なんならドス黒いオーラも見える気がする。とても淑女がして良い顔なんかじゃない。
「あっ…えっと…。あのぉ……。」
父が母を怯えながらチラチラッと見て言葉詰まらせてる。顔面蒼白なんてもんじゃない、真っ白だ。分かる、横にいるだけで震えそうなくらい圧感じるもん。
「…どちらにせよ、王命なのでしょう。言わずにいるわけにはいかないわ、ただあの子…王妃には抗議をしに行くけれど。」
母が纏っていたオーラをおさめて言う。今なんか不穏なこと言った気がするし、王命って聞こえた気がするが、まぁ気のせいだろう。誕生日のサプライズか、…サプライズにしちゃ、笑えないが。
父も緊張感が消え去り落ち着いたのか、フーと息を吐いてから私を見る。おい、嘘だろ?嘘だと言え、じゃなきゃ私も流石に胸ぐら掴みに行くぞ。
「ユミリーネ、お前が第一王子シュナイド様の…婚約者に選ばれた。」
…母を見つめる、母も同様に私を見つめる。アイコンタクトで私と母の気持ちが一緒なのを知る。そりゃ母も父の胸ぐら掴むわ。
「父様、いや。」
答えは簡潔に分かりやすく。これ以上ないほどに、意志が伝わる答えを出したんだが…。
「父様だって嫌だよぉ!父様が宰相で公爵家ってだけで、私達の天使を嫁になんて!」
大の大人がガチ泣きし始めた、しかも宰相で公爵家ってだけ、なんて言ったけど、宰相で公爵家だからの間違いだからな。多分どっちか無かったとしても、結果は変わってないだろうしな。
ガチ泣き父を冷めた目で見る母と娘、あとメイド。それも気にせず、父は続けた。
「父様だって何度も断ったんだよ?王子と天使じゃ釣り合い取れないだろう、せめて王子が同等になってからにしてくれ、って。」
おいおいおい、待ってくれ、この国の一番偉い人に何言ってんだ。いくら腹心の宰相といえど、言っていいこととダメなことがあることくらい分かるだろ…。ってか天使とか平然と言ってんじゃねぇ、社交会とかで挨拶する時に気まずいだろうが。
「そしたらね?陛下が笑いながらさ、君の娘となら大丈夫だろう、なんて言って王命渡してきたんだよぉ…。」
ガクン、と首を下げまた泣き出す。うわぁ…今日ほど、父をめんどくさいと思ったことがない。本当にこれ、どうしたら良いんだ?あの噂の王子となんざ、絶対に結婚したくないんだけど。
どこか遠い場所に意識を飛ばしていれば、パンっと手を叩く音で戻ってくる。どうやら音を発したのは母らしい、皆の視線が自分に移ったのを見て話し出す。
「とりあえず王命は分かったわ、でもヴェイハンズ家としての意見もある。王妃なら私が行けば、すぐにでも会えるようにしてくれるでしょう。今日行って、話をしてくるわ。」
え?…え?母様ってそんな偉いの?王妃にすぐ会えるって余程の相手じゃないと無理だろ?実は国を牛耳ってたりする?
「ユミリーネ、失礼なことを考えるのならば、せめて顔に出さない努力をなさい?」
ギギギっと顔を母に向ければ、満面の笑みなのにまたしてもドス黒いオーラが見える…。どうにかハイ…、と答えると母は、これでこの話は終わりよ、と言って朝食を始める。
私もどうにか席に着いて食べ始めるが、全く落ち着かない。
だって今日は私の誕生日だ、なんで今日に限ってこんなことばっか起きるんだ…。
なんて言えるはずもなく、楽しみだった朝食も味がしないまま終わった。