表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い腕章に誓う話  作者: ラノ
隊長になるまでの話
8/56

喧騒

 どれぐらいそうしていただろうか。

 停止していた思考を再び引き起こして、顔を上げた。

 夕方になっていた。

 時間を確認し、体の固さに『ああ』と呟きながら伸ばす。

 意識が遠くなるくらい机に突っ伏していたようだった、外が暗いと少しだけ落ち着くが夜がやってくると思うと、また気が重くなっていく。

 眠れない夜は嫌だ。また夜更けまで、本を捲る時間が始めるから。


 ***


 ベッドの中で、本のページを捲る。

 夜は静寂かと思いきや、仕事もない人間の集まりから始まるのは酒盛りだ。

 昼間に絡まれた連中が、どこかで大騒ぎしてるのだろう。

 うるさくって敵わない、ため息を吐いて『酒飲んでる人は苦手だ』と改めて思う。


 自分の父親が酒に弱い体質だったため、身内に酒を飲んでいる人は少なかった。

 あの酔っ払いの独特の雰囲気に慣れていないせいか、酒の席というのはあまり好みじゃなかった。

 馬鹿騒ぎを助長するような物、好きになるはずもない。


 布団を頭から被っても音小さくなるだけで、微かに声が聞こえる。

 布団の中で本は読めない、眠気がやってくるまで行うのは考えるだけ。

 ふと頭の中に過ぎったのはエコーの怒った顔と、困っているメイウィルの顔だった。


 ……今、思ったのだが。

 メイウィルは、俺とエコーに面識があったことを知らなかった。

 本当に良かれと思って、俺をエコーに紹介しようとしたなら、メイウィルはエコーのことをよく知っている。

 もしかしたら、彼も()()()()()彼女の世話になっているとしたら?

 それなら辻褄が合う。

 俺の体調が悪いから医務室に連れて行くのではなく、彼はエコーにわざわざ話しかけに行ったのだ。

 医療班だったら誰でもいいというわけではなく、エコーだったから俺を合わせたかった。

 つまり、エコーとメイウィルには何かしらの繋がりがある。

 俺が邪推するのも悪いから口にはしないが、つき合ってないだろうな。

 メイウィルの反応的に予想はできる。

 俺とエコーがどういう関係か気になっていたようだし。

 俺たちがそういう関係じゃないと知った時、安堵した表情から見て……なんとなく、二人がそういう関係にもなってないのがわかる。


 まとめると。俺の状態を見て、エコーに紹介するという思いつきは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』というわけだ。


『俺さ、ちょっと訳アリなんだよ。その……銃が使えなくて』


 銃が使えない。

 その意味が技術的な問題ではなく、精神的な問題ならばエコーが介入しているかもしれない。

 原因に向き合うために、精神的な治療を行っているのなら辻褄が合う気がする。

 そこまで考えついたところで、ギャンッと酔っ払った声が響いた。

 舌打ちをしてイライラしながら耳を塞ぐ、今日の集中力はそこで途切れた。


 ***


 また、ドアノックの音で目が覚めた。

 時計は昼間を完全に過ぎていて、なんなく相手がわかっていた。

 ノロノロと扉を開けると、やはり浮かない顔で彼が立っていた。


「何か用か?」

「あ、あーと……大丈夫かなって」


 メイウィルは苦笑いをして、俺を見ている。

 彼に悪意はないし、本当に心の底から心配はしているのだろう。

 俺がこんな反応だから、彼も困って表情を曇らせる。

 自分が困るのに、それでも俺の方を心配するのはなんなのか。

 本物のお人好しか。


「ここは本当に税金で建てられた軍事施設か、悩むぐらいにはうるさかったな」

「あー……たまに、そのぐらい騒がしくなるよ。音楽プレイヤーとか持ってなかったの?」

「……両耳を塞ぐものは、持ち込み厳禁のはずでは?」

「あっ」


 個人の通信機器や耳を塞ぐ物は、施設内への持ち込みが禁止になっている。緊急の招集に耳が塞がっていたら、対応ができないためだ。

 あれくらいの喧しさなら仕方ないかもしれない。

 俺が来る前からここにいるメイウィルは、耐えきれずに耳を塞ぐようになったのだろう。


「まぁいい。招集すらない隊なら、意味がないからな」

「ははは……どうも。でも、フィアもそうした方がいいよ。耳栓くらいは持ってた方がいいかも」

「ああ」


 それだけ言って扉を閉めようとしたが、メイウィルはアワワとしながら扉に手をかける。


「他には何かあるのか?」

「お昼ご飯、食べてないでしょ」

「……そうだが」

「じゃあ、食べに行こうよ」

「なんで、そうなる」


 困惑気味にそう言うと彼は『うっ』と肩を竦めた。フードの奥の俺の目を見ながら、彼は少しモジモジしながら答える。


「あの、その……エコーについて色々聞きたくて」

「……ああ、そういうことか」

「ん? 何が?」

「いや、いい。気にしないでくれ」


 色々察してしまったので、俺から特に言うつもりもない。

 ただしと、俺は彼に条件をつけて返す。


「俺が話したくないことは話さない。俺が答えたら、お前にも俺の質問に一つ答えて貰おう。それができるなら話につきやってやる」


 この条件が飲めるなら、丁度良い暇つぶしになると思った。

 彼は明るく笑って『じゃあ、飯食いに行こ』と返す。

 やれやれ、なんでこんな人懐っこいんだ。

 こいつは犬か、何かか?

 もう少し疑いを持って生きた方がいいぞ。

 本当のことを答えるかもわからないのに、嘘を吹き込まれるかもしれないのに。

 そんなことを思いながら呆れつつ、彼の後ろを歩いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ