故郷からの手紙
元気にしていますか?
こっちは季節外れの雪ですが、元気にやっています。私もお父さんも毎日腰が痛いと言いながら、除雪に励んでいます。
ルークの子が四匹生まれたので、手紙と一緒に同封しました。お相手はローズさんの家の子のパルコちゃんです、あなたにも懐いていたものね。
そちらはどうでしょうか。新聞に敗戦の言葉を見ないよう願いながら、無事を祈っています。
愛する我が子へ、母より
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手紙に書かれた文字が懐かしい。
同封されていた写真には、子犬を睦まじく抱え込む犬の夫婦の姿が写っていた。
ルークと呼ばれたのは、実家にいる愛犬であり牧羊犬だ。
別の写真には他の牧羊犬たちが、雪の中で転がって遊んでいる風景が写されている。
山々に囲まれた平原の中で放牧された牛や羊たち。
それを世話していた幼少期が懐かしく、写真を手紙の封筒に戻しながら静かに体を横にした。
眠れない夜の中で、ふと読み返したくなる母の手紙。
だが、俺からは返信をあまりしてない。
家族からの手紙などは、軍が検閲してから駐在中に届けられる。
こちらからも手紙を送る時には検閲が入る。仕方がないことだが、中身を見られると思うと返信を書く手が進まなかった。
それに、自分の現状を説明するのはあまり気が乗らない。
両親は知らないのだ。
戦地に送った息子の姿が、大きく変わってしまったことを。
それをいつまでも打ち明けられず。様々な隊に『疫病神』と言われ続け、転々としている存在だということに。
でもこれでいい、俺がそう望んだんだ。
そうやって片目しか見えない俺は狭い視界を閉じるように、いつかくる眠気を待ちながら目を瞑り続ける。