悪の組織の過酷な労働実態と再就職の難しさ 助手をつとめた男の末路
「有名大学で働いていましたが、
教授に嫌われてしまって居場所がなかったんです。
そんな時に見つけたのが”黒王党”の求人でした」
そう語るのは平山敦さん(仮名)38歳。
彼の服装は一般的な研究者を思わせる白衣。
そして黒縁眼鏡に七三分けの髪型と、悪の組織に勤めていた人とは思えない。
「組織の中での研究はとても楽しかったです。
胸を躍らせる気持ちで職務に励んでいました。
でも……途中で何度も辞めようと思ったんです。
教授から『お前がいなくなったら困る』って言われちゃうと、
どうしても……ね」
話を聞く限り、平山は優しい人なのだろう。
小学校の頃にボランティア活動で表彰されることもあったそうだ。
組織では連日オーバーワークが続き、ろくに眠れない日もあった。
それでも彼は教授を見捨てられなかった。
退職するにしても、就職活動をする時間もない。
ずるずると悪の組織での仕事を続けていた彼だが、次第に疑問を抱くようになる。
「拉致してきた半グレやヤクザを改造して怪人にしたり、
洗脳して戦闘員にする仕事はとても楽しかったです。
でも……教授が女体化してロリ巨乳になってから……。
何か違うなって違和感を覚えたんです」
平山が違和感を覚えた出来事。
それは組織の大幅な方針転換だった。
幹部たちは軒並み女体化して、YouTubeで生配信を始めて収益を得るようになった。
教授も研究そっちのけで配信者としての活動にいそしんでいたようだ。
「正直……困惑しました。
よぼよぼのジジイが幼女になって、
あられもない姿で配信をするんですよ。
頭がおかしくなりそうでした……」
平山は頭を抱える。
黒王党は正義の味方によって解体され、もう跡形も残っていない。
残されたのは罪の意識と、まったく役に立たないキャリア。
悪の組織に所属していた者に対する世間の目は冷たい。
「もう……私には何処にも行き場がありません。
別の組織の求人を探しても待遇はあまりよくないし……。
今更、一般の求人を探す気にもなれません。
八方ふさがりですよ……ははは」
力なく笑う平山。
甘い誘い文句につられて悪の組織に加入する者が後を絶たない。
労働調査局によると実に人口の1%にも上る人が、何らかの形で悪の組織と関わりを持つ仕事に就いていると言う。
その労働環境は決してよいものではなく、平山のように再就職に困る者も多い。
世間で話題になっている悪の組織の求人。
我々が思うよりもずっと根深い問題なのかもしれない。